究極至言 大納言
心あらむ人にみせばや津の国の 難波わたりの春のけしきを 
能因法師

春の景色とは人の心をくすぐるものです。たとえそれが花の前後であろうと。春は何かが終わり始まるとき。未来の向こう側に人はときめくのでしょう。
見わたせば柳桜をこきまぜて 都ぞ春の錦なりける 
素性

此の間、どこぞの公園で柳と桜の立ち並ぶ光景に出会い、その美しさ、すがすがしさに心うたれました。そのときこの歌がふと思い出されてまいりました。
桜色に萌えいづる柳の緑、それはそのまま女房装束の色目と思しきほどでした。

春雨にぬれてたづねむやまざくら 雲のかへしのあらしもぞ吹く 
堀河右大臣
清水へ 祇園をよぎる 桜月夜 今宵逢ふ人 みな美しき 
与謝野晶子

春のしっとりさ、暑くもなく寒くも無し。暖かい湿り気のある時。春は恋の季節と申します。好い酔い宵、朧な月の下ではまこと、人は美しくはかなく潤んで見えます。これも春のなせるわざ。 
春色は黒を際立たせる。闇、髪、瞳。心は乱れ、恋は狂おしくなってゆく。こんな思ひにさせてくれるのは春のほかにありましょうか。
春の淡い色の中で酔い、夢見。その夢の時が春なのだと思います。春はいつも気付けばすぎさってゆくもの。

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