牛犬日記(病気編)
3月26日(月)
朝飯ぬきのジョニは十時ごろ,■■動物病院に預けられた.
今日は去勢手術を受けるのだ.
手術自体はもちろん,ごく簡単なありふれたものである.
しかし,前にどこかで「ボーダーコリーは,個体によっては
麻酔に対して過敏な反応を示すこともある」という記事
(どれだけ信憑性があるのか,わからない)を見かけたことがあるのを
ちらりと思い出す.
午後五時半か六時ごろ迎えに来てくれ,とのこと.
夕方,牛母に■■動物病院から電話があった.麻酔の醒めが悪いので七時過ぎに来てくれ,とのこと.
しかし,牛母は暗い顔をしている.それだけの問題でもないらしい.
夕食を済ませてから行ってみると,ジョニの術後の経過はよいものではなかった.
六時過ぎ頃,過呼吸状態に陥ったとかで,ICU内で点滴と酸素吸入を受けているところであった.
ただ,我々が行ったときはいくらか落着いていて,名前を呼ぶと目を開けて,
頭を挙げ,手を舐める元気はあった.
心拍,血圧等に異常はない,とのこと.フィラリアのせいとは考えにくい,とのこと.
麻酔自体か,あるいは他に使った何種類かの薬のどれかに反応したのか,よくわからないらしい.
今晩は医師が付いていてくれるというので,病院に預けたまま帰る.
ちょっといやな雰囲気ではある.
八時半頃,■■動物病院より電話があった.
少し元気になり,フードも少量食べたという.
3月27日(火)
朝,退院.家まで歩いて来れた.今朝,下痢をしたとのことでオムツを着けている.
患部を舐めるといけないので,オムツは着けたままにする.
医師によると「コリー系の犬の麻酔に対する過敏さ」については
「そういうデータはない」とのこと.この犬の個体としての特質らしい.
「開業して十余年,こんなことは初めて」とも.
化膿止めの薬を与えて,しばらくして嘔吐する.喉元まで指を突っ込んで薬を飲ませたので,
げっとなったのかもしれない.とりあえず医師に相談する.
下痢も嘔吐も神経性のものでは,とのこと.
余談だが,術後,エリザベスカラーを付けようとしたとき,相当暴れたらしい.
下痢も嘔吐も,それきりであった.
呼べば立ち上がり,こちらに来るがいつもの元気はない.
夜,缶詰のフードを半量ほど食べさせた(いつもは,ドライフード).食欲はあるらしい.
ジョニは「量がちがうと思うんですけど」と言いたげな顔をしている.
医師の指示で薬は飲ませない.
3月28日(水)
仕事の準備のため,未明に起きて寝室を出て行った牛母が,
幽鬼のように立ち戻ってきて,凍りついた声で「こ〜れ〜,な〜に〜?」と
わたしの目の前に何かを突き出した.ジョニの足元に転がってたんだそうだ.
それは,今朝の(人間の)朝食用に買っておいたフランスパンで
湿っぽくなって,1/3ほどの大きさに齧られている.
いつもジョニは,玄関に繋いでおくのだが,リードを汚してしまったことと,
病気のこともあり,昨夜は繋いでおかなかった.
加えて,夜更かししたわたしが食堂の戸を開けっ放しにしておいたのだ.
食堂は……昨夜の残飯が床一面に散乱し(食べられるようなものは,ほとんどなかったはず)
買ってきたパンを入れておいた袋は,ビリビリに破られている.
フランスパンの他に(子供用の)チョコクリームのかかったパンも買ったのだが,どこにもない.
ジョニは,上目遣いでこちらを見ながら,玄関の隅に丸くなっている.
牛母は激怒して,短い時間だが厳しく叱責した(ジョニではなく,わたしを).
下痢が来るか,嘔吐が来るか,その両方か,と夜明けを待つ.
とうぜん,朝飯は抜き(わたしのではなく,ジョニの).
朝,軽い散歩に出る.
ジョニは,いつものような「行くんだ,行くんだ」ではないが,ふつうに歩いている.
近所のおじさん──前に飼っていた犬のことを,何かと気にかけてくれた──に出会う.
「ほうか,また犬,飼ったんか」とにっこりしてくれる.でも,その後のおじさんの行動は,
予想外で,なおかつ,最高に間の悪いものだった.
「これ,喰うか」と,おじさんがお坐りをしているジョニの前に,何かを差し出すのが見えるのと,
「はぐうっ」という音がするのとは,ほぼ同時だった.
わたしは,悲鳴をあげるより早く,ジョニの口をこじあけ,それを取り出した.
おじさんの食べさしのクリームパンだった.
チョコクリームパンに加えて,クリームパンでは,ちょっと,くどいと思う.
それに,そんなものを食べさせたら,わたしは,牛母に,八つ裂きにされてしまう.
唯一の救いは,ジョニの口をこじ開けるのには,ぜんぜん,力が要らないことである.
前の犬(秋田犬)のときは,ちょっとばかり力が要った.
けっきょく,ジョニは戻しも下しもしなかった.一方,牛母は今朝から,お腹をこわしているらしい.
深夜の盗み食いの犯人は,ジョニではなかったんではないか…….
夜,缶のフードを一缶食べさせた.ジョニは,「量が,ぜんぜん,ちがうんですが」と言わんばかりに,
あてつけがましくあちことを嗅ぎまわっている.
3月29日(木)
人が見ていないと玄関の式台に上がってくる
(最近では上がったまま,とぐろを巻いていることもあった)悪習が,
再開されたし,歩き方も普通になったので,長めの散歩に出る.
◆◆霊園の桜(近所では有名な穴場)が,ここ2〜3日見ないうちに,
ずいぶん咲いているので,驚く.
跳んだりはねたり,突撃したりすると,患部が少し痛むらしいので,
もっぱら歩くだけにする.便も,少量だが普通であった.
缶のフードを一缶と,ドライフードを少量与える.あっという間にたいらげてしまう.
昼近く,■■動物病院に,術後の経過を診てもらいに行く.
いつもより餌の量が少ないので,ジョニのフェレットを見る眼つきが気になる.
医師は,「あの夜は,心配で眠れなかったよ」と苦笑いしている.
「もう大丈夫だろう」とのこと.患部を舐めたようすもないから,
エリザベスカラーも無理して付ける必要はなかろう,とのこと.
「また,ストレスで下痢されても,困るからね」と笑われた.
夕刻,また,◆◆霊園の桜を見つつ,散歩.便は,正常.
餌を通常量に戻す.
3月30日(金)
朝,◆◆霊園と▲▲公園(隣接している)を一時間ほど速歩で歩き回る.
昨日は,跳びあがったり,駆け出したりすると,「痛い痛い」という感じで,
後脚を,少し持ち上げていたが,今日は,そんなこともない.
しかし,牛母に「無理をさせないよう」と釘を刺されているので,
急ダッシュ,急停止,急ターンを伴うボール投げは,なし.
どちらの場所も,桜が,だいぶ,咲いてきた.
昨夜から餌を通常量に戻したので,律義に便も通常量に戻った.
公園内のユースホステルに泊まっていたらしいバックパッカー風の欧米系の女性が,
桜の写真を熱心に撮っている.わたしが眺めているのに気がつくと,照れくさそうに
視線を外し,ジョニのほうを見て"Good
morning."という.
わたしが,ジョニの頭を叩いて"Say morning!"と言うと,
ジョニは,こちらをちろりと見て,「何だよ」という顔をした.
日暮れから降っていた雨が一時止んだので,夜の散歩は近所の小学校の校庭に,
ジョニを連れて行った.ノーリードにし,羊の代わりにうちの子供を追いかけさせる.
もう,走っても,だいじょうぶそうである.
(牛パパさんより)