人類滅亡の序曲/緊急避難放送

 
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緊急避難放送
 

 
深夜、ぼんやりとテレビショッピングをながめている。やけにハイテンションで楽しそうだ。様々な利点を並べて買うことを勧めている。「買ってみようかな」と気持ちが揺らいだりする。しばらくするとテレビショッピングも終わり、放送が終了した。画面が定点カメラからの夜景に切り替わった。しばらくの間、その夜景をながめていた。時々車が高速道路を走って行く。平和な眺めだ。もう寝る時間だ。そして目覚めればいつもと変わらぬ一日が始まるのだろう。
テレビのスイッチを切ろうとしたとき、画面に「緊急放送」のテロップが表示された。「どこかで地震かな?」と思い眺めていると、奇妙な文章が流れてきた。

 
緊急放送
 
 
全国に緊急避難命令が発令されました。
 

緊急用シェルターが市民の受け入れをおこないます。
これからお知らせする場所に送迎バスが向かいます。
 
なお定員になりしだい出発しますのでご注意下さい。
 
近畿地方の送迎地点は下記の通りです。」




OO大橋 出発予定午前5:00



なんじゃこりゃ?緊急避難命令?緊急用シェルター?そんなモノが日本にあるのか?バスで迎えに来る?どういうことなんだ?
 
放送は近畿地方の送迎地点を1回だけ表示し、もとの夜景に戻った。たぶん在阪の放送局が流したのだろう。近畿地方の送迎地点として50カ所ほどの地名があげられていた。なんか少ないんじゃないか。そのシェルターとやらの数がすくないのか?バスが足りないのか?
 
チャンネルを変えても緊急放送はもう流れていない。画面上の夜景を見る限り何の変化も見えない。イヤ、この夜景も録画ではないという保証はないが、しかし・・・。

どうしたらいいのかな?放送に従って送迎地点へいってみるか?だいたい緊急避難命令って、一体ナニがおこっったんだ?何処に確認すればいいんだ?どうやって確認したらいいんだ?
 
まず放送局の番号を調べて電話してみる。「明日かけ直して下さい」という録音メッセージだ。市役所に電話してみる。誰も出ない。
 
どうしようか。友人に電話するか。しかし緊急放送を見ているとは思えない。放送終了後だったからなあ。避難を勧めても、信じてはくれないだろう。それにヤツの最寄りの送迎ポイントを見るの忘れてた。はは。まあ仕方ないな。だいたい1回しか流さないとはどういうことなんだ。みんなを助けるつもりはないというコトか・・・。
 
なんかゾーッとした。とにかく送迎ポイントにいってみよう。バスがこなければ放送は何かの手違いというコトだ。笑い話で済む。バスが来たら・・・どうしよう。携帯電話でみんなに知らせよう。
 
最寄りの送迎ポイントになっていたOO大橋は市内南部を流れるOO川に架かる橋で、ここから10分ほど。出発時間には間に合う。いそいいで支度をする。時計と財布。手帳。着替えもいるな。歯磨きセット。読みかけの本。CDもいるかな。途中のコンビニでお菓子でも買おうかな・・・。こんなことに時間をとってる場合ではない。急いでマンションを出る。

夜明け前の町は静かで、いつもと変わらない。みんな熟睡してるんだろうな。道ばたのタクシーの中で運転手が寝ている。この人もあの放送は見てないだろうなあ。いや、ホントに放送はあったのか。睡眠不足で幻覚でも見たんじゃないか。なんか思い過ごしのような気がしてきた。とても馬鹿なことをやってるんじゃないかと不安になる。
 
高層マンションに明かりの点いている窓がある。外をうかがう人影が見える。あの人は放送を見たのかもしれない。どうするか決めかねているのか?それとも行かないことに決めたのか?あの人の見解を聞いてみたい。手を振ってみたら、窓の明かりが消えた。
  
OO大橋に来てみると、橋の上に50人ほどがいる!伏し目がちに、お互いを牽制するようにバラバラの位置に立っている。乗用車も数十台とまっている。ああ、こんな時間に橋の上に人がいるなんて、やっぱり放送は本物ものだったのか。叫びたいような気持ちを抑えて、同年代の1人に近づく。
 
「見ましたか?」
「見ました」 
「何事でしょう?」
「さあ、私も半信半疑で来たんですが・・・」
そうこうするうち、5台のバスが一列になってやってきた。ひー、こりゃいかん。放送は本物だ。緊急事態だ。みんなバスの方へゾロゾロ歩き出した。ああ、緊急事態なんだ。避難するんだ。なんか実感がわいてきて、緊張してくる。

バスに近づいていくと、なんか乗車口でもめている。
 
「あんた誰なんだ。状況を説明しろ。」
「詳しい説明はシェルターでおこないます。」
「今してもらわないと不安じゃないか。」
「不満なら乗らなくて結構です。邪魔になるから帰れ。」
とりつくシマもない。乗用車で来た人も降ろされている。避難するならバスに乗らないとイケナイらしい。
 
乗ろうとしたら持物チェックがあり、携帯電話の提出を求められた。
「シェルターの場所がバレるとパニックになりますので。」
どういうこと?じゃあ電話を渡す前に友人宅や親類に電話しておこう。もう一度避難者の列の最後尾に並び直してから、電話をかける。どこにかけても誰も出ない。夜明け前とはいえ、大変なことがおこりつつあるというのに・・・。そうこうしていると友人に電話がつながった。寝起きで機嫌が悪い。ひととおり説明するが、信じてもらえない。
 
「あのな、緊急事態やねん。避難せなあかんねん。」
「緊急事態てナニがあってん。」
「わからん。バスが迎えに来るトコへ集合せなあかんねん。」
「バスって何処に来るねん。」
「おまえの最寄りのポイントはわからん。シェルターに定員があるみたいやからいそがなあかんねん。」
「シェルターって何処にあるねん。」
「それもわからん。」
とにかく1日何処へも行かず、テレビの情報に注意しているようにと伝えておいた。でも、だめだろう。朝になればいつも通り出かけて行くに違いない。
 
とうとう順番が来て、携帯電話を渡してバスに乗り込む。しばらくするとバスが発車した。なんとも不安だ。ほんとに緊急事態なのか確信が持てない。このままショッカーの秘密基地に連れて行かれて改造されてしまうのではないかと、ふと思った。
 
 
おわり

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