☆第十一話粟島釣行記その3
僕とカミサンは、粟島の民宿「ますや」の漁船に乗せてもらった。
狙いはズバリ「ハナダイ」である。
ハナダイはマダイの小ぶりなものと思って頂ければ結構である。
「もしかすっと、イナダ(はまち)も釣れっかもしんねーよ」
訛り交じりで「ますや」のおじちゃんが教えてくれる。
僕等はがぜん燃えてきた。
釣り場は粟島の裏側にある釜屋沖。
今、出港したのは粟島の表玄関、新潟に面した内浦という場所だから釣り場までは島を半周する事になる。
「まあ、観光がてらちょうどいいや」
船は内浦の湾を抜けて日本海にでた。
とたんに風が強くなってくる。
波もちょっと出てきた。
船には座る場所がないので手近にあるものにつかまる。
多少の波や風には平気だ。
船は粟島の北端にある岬をぬけ、釜屋沖を目指す。
舳先にぶつかる波が割れて、僕等に降りかかる。
「まあ、夏だしちょうどいいや」
といって強がる。
30分くらいするとエンジンの出力が落ちてきた。
ポイントに近づいた証拠だ。
カミサンと僕とでハナダイ用の貸し竿を一本ずつもち、仕掛けをセットする。
「あ〜れ〜」
素っ頓狂な声を出した主は、案の定カミサンだった。
「このリール壊れてる」
「ナニ!?」
みてみると、ありゃりゃ、リールの糸巻き部分が壊れている。
これでは、糸が巻けないでござる。
「すいません、おやじさん。このリール壊れてるみたいなんっすよ。予備のリールありません?」
ときくと
「申し訳ないねぇ。予備のリールないんだよ」
なんてこったい!ここまで来て釣りができないじゃないか、と思っていると
「じゃぁいったん戻んべぇか」
といって、引き返しはじめた。
片道30分、往復で1時間のロスだ。しかも波は前より荒れてきている。
結局リールを新しいものに替えて本格的に竿を出したのはそれからやはり1時間後だった。
普通の釣り舟のように、釣り座なんてものはないから船縁に立って釣るのである。
鳥羽一郎の演歌がBGMに似合いそうな雰囲気になる。
波はますます荒れ、立っているのもままならない。
その場所には1時間ほどいたが、ハナダイ1尾、ワカシ1尾、ベラ数尾と言う結果。
ますやのおじちゃんは場所を何度か替えてくれたがそれ以上の釣果は望めない
まま帰港の途についた。
波はさらに荒れ目の前数mに2メートルくらいの波高。
ただでさえジェットコースターが嫌いなカミサンは大ピンチ!!!
っと思いきや、船が波を乗り越えるとき
「そーれぃ」
と掛け声をかけているではないか。
折りからの小雨に顔を濡らしながらも
「やっほー」とか「れっつごぉ」とか大きな声をあげている。
目は何かにとりつかれたようになっている。
気でも狂ったか!?
波は執拗におしかける。
舫に船が固定されたところでようやく人心地。
カミサンは放心状態。
きけばあまりの恐怖のため極端な操状態になっていたという。
2度にわたるポイントとの往復。
つれない魚。
雨と風の日本海釣り舟渡航は、孤島における「日本海をなめんじゃないよ的How To Fishing」を呆けた埼玉のサラリーマン夫婦に教えたのであった。