第十七話 船酔いマゴチ

会社に入ったばかりの夏、同期の仲間と船釣りに行こうという話をしていた。
同時のボクは船釣りと言ってもキスを釣るくらい。そんなつもりでいた。
ところが、同じ職場にいる外注会社の課長さんが、
「よし!それならうちの近くから釣り船が出ているから、マゴチをつりに行こう」
と言い出した。
せっかく同期とのんびり会社の上下関係を離れて釣りをしたかったのに、と思ったが無下に断ることもできず、まぁせっかくのご進言であらせられますから、一緒に行くべえか・・・と、言うことになった。

課長はアライさんと言って、昔ダンプの運ちゃんをやっていたそうだ。
体格もよく気さくなおっちゃんと言う感じだ。
同期はさわやかハンサムのマエダくん。3人で船橋の釣船屋から乗り合い船に乗った。
結構早めに船に乗り込んでいたものの、ミヨシ(船の前方)とトモ(船の後方)はしっかりキープされていたので、仕方なく左舷の胴(船の中あたり)に陣取った。

マはメで釣る。というのかマゴチ釣りの常識らしい。
マゴチというのは平べったい魚で40cmから60cmくらいの大きめの魚。これがメゴチという、おなじような形をした小さい魚を餌にするという、なんだか、共食いみたいな魚なのである。
そんな訳で最初はメゴチを釣って、その後は大きなマゴチにチャレンジするのだ。

空は快晴!とまでは行かないが、船の海水を切る音と、爽やかな夏の風が心地よい。
心晴れ晴れ、気分爽快!!と思っていたら、隣で「うぅ〜」とうなる声がする。
よく見ると爽やかハンサムのマエダくんが、苦悶の表情。どうやら船酔いらしい。
この船酔いは酔った人じゃないとわからない苦しみなのだ。もうこの世の地獄ともいえるくらいの気分の悪さ。
「すみませ〜ん、ちょっとおろしてくださ〜い」とさわやかハンサムのマエダくん。
「いいよ、でもここは海の上だよ」と、間抜けな返事の船長。
かくして何とかメゴチのポイントに到着。マエダくんもとりあえず復活し、3人で30匹くらいのメゴチを確保した。

さて、いよいよマゴチつりの開始である。
でっかいマゴチ用の針を、メゴチのクチビルにちょんがけにする(かわいそう・・・(-_-;))
ハリスは2mくらい長く取り、餌が砂地にうごめくようにコントロールするのだ。
メゴチ釣りは、餌をいれたら食らいつくので、ある程度面白かったが、今度はそう簡単にはつれない。なにせ型が大きい上に、ひとり1匹釣れたら満足しなければいけないらしい。
午前中に船中1匹上がった程度で、釣果むなしく、前田君は竿を持ったまま居眠りをしてしまった。
ボクもなんとなく眠くなってきたので、持込の缶ビールを「プシュ!」とやる。イッシュン目が覚めるが、すぐにうとうとしてしまうのだ。
その時、竿先が引き込まれた気がした。「お!これは!」と、目が臨戦態勢になる。ところが本食いとなる次のアタリがない。でも自然に竿先が海に引き込まれている。
竿を思い切りあわせると、隣のマエダくんの竿も海に引き込まれそうになる・・・
よーくみると、マエダくんの仕掛けがおいらの仕掛けに絡んでいるではないか。俗にお祭りというゲンショーである。
絡まった仕掛けをほどくのが一仕事。釣りではマエダくんより経験があるので、お祭りを解く係りになってしまう。なんとかほぐれて、リーリングしたら、なんとグングン引いてくるではないか。
「なんじゃこりゃ〜!」となんとなく松田健作を意識しながら発言した。
なんとか寄ってきたのは、50cmくらいのマゴチ。
やったね!お祭りほどいてたらかかってたもんね!なんて顔は微塵も出さずに、船中2匹目ににっこり。

この日はボクが2匹、アライさんが2匹、マエダくんが0という結果だった。
持ち帰った魚はアライさんの奥さんが刺身にしてくれた。
身がしまっていて最高にうまい。ビールで当然乾杯であるが、マエダくんはもう酔っていた。