第五話 最上公園のレンギョ

「最上公園のお堀にでっかい鯉がいっぱいいるぞ」
当時、近所の釣り場ではもの足りず、近隣の町の川や沼に釣りに行っていた僕にとって聞き捨てならない情報が舞い込んだ。

最上公園と言うのは僕がはじめて釣りをした場所(第一話「はじめてのつり」参照)で家から歩いて10分という近場の釣り場である。
そこに「でっかい鯉」がいるなんてまさに灯台下暗しと言うものだ。

「どれどれ」
と言いつつチャリンコにのり下見程度と言う気分で最上公園に参上した。
「なんと!いるではないか。いるではないか。」
そんなに広くはない堀の中に50cmくらいの数匹の魚が悠々と泳いでいる。
それらのどれもが水藻を中心に円を書くように群れていた。
すでに何人かの釣り人が鯉用のリール竿をだし堀の中に投げ込んでいた。
「ムムム・・・」
いてもたってもいられなくなった僕は、時速30kmの猛スピードで家に戻り、投げ釣り用の竿とリール、練り餌のありったけを持って速攻で引き返した。

釣り場に着いた僕は
「ふ・ふ・ふ・待ってろよ。今、釣りキチしんぺい君がキミタチを釣りあげてやっかんな」
と不敵にも群れのど真ん中に仕掛けを投げ入れた。

餌の投入でびっくりして逃げていった魚達もまたぞろぞろ集まり出した。

「よーしよーし」
いつ竿先にあたりが来るかとウキウキしながら待ち続ける。
練り餌の溶けぐらいを具合を気にしながらも待ち続ける。
他の釣り人の様子を気にしながらも待ち続ける。
折りからの風で、かっぱえびせんのビニールが顔にあたっても待ち続ける。
ちょっと眠いけど待ち続ける。
待ち続けて待ち続けて・・・

「チクショウ!なして釣れねえんだ!」
という言葉をまるめてくしゃくしゃにして水面に投げつけた瞬間
「あれは、レンギョだよ」
ふと振り向くといつの間にかどこかのジイちゃんがたっていた。
「あれは、レンギョだよ。練り餌なんかじゃ釣れないよ。葉っぱ食ってんだからなぁ」
と、しみじみした声でボソッといった。
「じゃぁどうしたら釣れるんですか?」
「釣れねえよ、あんなもん。食ってもうまくねえしよ。へっへっへ。」
と言いながら去っていった。
僕はしばしボーゼンとしながら水藻に群れるレンギョを眺めていた。

それから3日後、僕は再びお堀の前にリール竿をもって立っていた。
しかし、仕掛けはこの間の仕掛けとはまったく違う。
10号の中通しの重りの先には三つ又のギャング針が光っていた。
水面にたゆとうレンギョを引っかけて釣ろうと言うのだ。

引っかけ釣りにはためらいがあった。
ただ、どうしても釣りたいと言う気持ちと、鮎だって引っかけて釣るじゃないかという半ば言い分けじみた思いがその時の僕を支配していた。

顔を若干引き攣らせ竿を振る。
1投、2投。かからない。3投、4投まだだめだ。5投、空振り。
次の6投目のためにリールをカリカリ巻いているときだった。
道糸がものすごい勢いで右の方に走っていった。
「!!」
言葉にならない言葉を吐いて僕はしっかりとあわせた。
投げ釣り用の竿が満月となりリールが逆転の悲鳴をあげる。
「!!!」
右へ突っ走っていたレンギョが今度は左へ反転する。
逃がしちゃ行けないと言う思いと、なぜか、可哀相だと言う思いが交錯する。

数分後。
僕の玉網の中には50cmくらいのレンギョが収まっていた。
堀の道端にはいつの間にか見物の人々が集まっていた。
中にはわざわざ玉網を覗きに来る人までいた。
釣ってホッとした気分の割にはあまり誇らしげな気持ちはなかった。

レンギョは鯉に似ていたがよくよく見ると全然違う魚体をしていた。
体型は鯉よりも細長く、背鰭は鯉よりも小さい三角形をしている。
目は口よりも下についており、そして何よりも鯉の特徴であるひげがないのだ。

このレンギョは最上公園の堀の水藻掃除屋として放流されたらしい。
本当は釣っていけない魚だったのかもしれない。

レンギョは大別してハクレンとコクレンがいると百科事典に載っていた。
僕が釣ったのはどちらなのかは正確には分からない。
ただなぜか、もう一生の中で決してレンギョは釣らないと心に決めていた。

中学2年生の初秋の頃だった。