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2004年 観劇感想


2004.12.24

国立大劇場『十二月歌舞伎公演』 3階前方センター

『花雪恋手鑑』
さすがに後半だけあって座組のまとまりがよく、テンポが良くなっていてお話のどうしようもなさが妙にストレートに伝わってきてしまった前回と違い様式美の部分も出てきてちゃんと歌舞伎になってました。上方の雰囲気が出てきたとは言い難いものの、役者たちの関西弁がだいぶ板につき「お江戸」の雰囲気よりは柔らかな空気感はなんとなく出てたように思います。今回は主役はもちろんだけど役者さんたち全員が色々と頑張った芝居だったなあと感じ入りました。

染五郎は京都弁の言い回しに苦労しているなという部分が無くなり台詞の言い回しをかなり自分のものにしていたのには感心。柔らかさが出たとまでは言わないけどキメの部分などだいぶ和事の雰囲気は掴んできたかなと。それと赤子との一人会話の間が良くなっていた。これはなかなか難しい部分だろうと思っていただけに、よくここまでもってこれたと思う。前回観た時は『花雪恋手鑑』の染主演の再演はどうだろう?と思ったんだけど、今回のを観て再演もありと考えが変わりました。5年後くらいに観て見たいです。

染五郎の頑張りのなかで、芝雀さんの小雪がやはりポイントとして締めていてくれてたなあと私は感じました。芝雀さんの可愛らしくそして品のある色気の小雪は『花雪恋手鑑』という歌舞伎のなかでの女としての存在をきっちり伝えてくれていました。どーしようもないばか旦那に惚れていて時に厳しく、時に甲斐甲斐しく接する姿に、女の可愛らしさを見せ、そして強姦という生々しいシーンですら美しい姿を見せる。女形だからこその形の美しさや硬質な台詞回しで歌舞伎の様式美のなかに引き込んでくれました。上方の女形が見せる特有のエロチックを感じさせる色気が無いというむきもあるとは思いますが題材が題材だけに今回ばかりは小雪が芝雀さんであったことで国立劇場で見せる芝居として受け入れられるものになったと個人的には思いました。

とりあえず全体的に楽しい芝居になっていてよかった。

『勧進帳』
幸四郎さんは観るたびに微妙に違う弁慶になっているような気がします。いまだに試行錯誤されているのか…。私のほうも観た位置が違うので確実なことはいえないのですが、それにしてもこれにはちょっと驚きです。今回の弁慶は義経への気遣いがより強いものになって、泣きの部分が非常に好感のもてるものになっていました。また富樫との対決の場の気迫が素晴らしく、前回2回の時より存在感の大きさがでてました。これは染五郎富樫がより厳しいものになったせいでもあるかもしれません。それにしても幸四郎さんの弁慶は3階からも表情がよく見える。前のほうで見るとやりすぎ感をどうしても感じてしまうのだけど上からみると大きさが際立つ。これはバランスが難しいんだろうなあ。

染五郎の富樫は観るたびに良くなっています。従来のちゃんとした声は残念ながら戻ってなくて、ところどころキツそうな部分がありましたが、だいぶ台詞が前に出るようになっていて、低音などは3階にまでびりびりと響いてまいりました。そして情を殺しあくまでも弁慶一行に対し厳しく見極めようとする凄烈な気持ちが伝わってきます。あの厳しさがあるからこそ、弁慶が主君を打たざる終えない気持ちの苦しさが際立つ。問答〜呼び止めのシーンの染五郎富樫の迫力と形の美しさ大きさは素晴らしいものがありました。そのシーンでは周囲から声にならない感嘆のザワも起こっていました。富樫の引き上げの部分の解釈は上から見てても、抑制された感情のあり方がやはりいいなあと。

芝雀さん義経は相変わらず優しげで可愛らしい義経だ。小柄だからそう見えちゃうのもかもしれないけど時に子供ぽい儚さがあるんだよね。能の子方みたいと言われてしまうのもしょうがない。ほとんど男役をやったことないし、武将としての格はこれからもっと付いていくでしょう。でも気合が入っている台詞回しは非常にいいと思う。

それにしても弁慶一行と富樫一行が対峙するシーンの歌舞伎ならではの絵画的な美しさにただ感動しました。こういうのがあるから歌舞伎って好きなんだよなー。


2004.12.18

国立大劇場『十二月歌舞伎公演』 1階前方花道脇

『花雪恋手鑑』
46年ぶりの復活狂言で別名『乳貰い』。上方狂言が好きで研究しているという染五郎が「役者の色で見せる芝居をしたかった」という理由で選んだんだそう。大正時代に風紀が乱れるという理由で上演禁止された演目。その内容は、もうなんというかどうーしようもないお話でして(笑)。監修の奈河さんが「鷹揚にご見物のほどを」と筋書きについ書いてしまうほどのどうしようもなさ。

放蕩のあまりに家から勘当された四郎二郎はこっそりと許婚の小雪に金の無心。その日、小雪はかどわかしにあってしまうが必死に逃げ出し気絶寸前、そこに四郎二郎が通りすがり、たまたま触れた女の肌に魔が差して襲ってしまう…をい(^^;)。暗闇なのでお互い相手が誰だか知らないまま四郎二郎は逃げ、小雪は自殺しようとするが通りすがった商人に助けられる。さて1年後、大阪にいる四郎二郎は相変わらず放蕩三昧。いちおうお家の宝刀を探すという目的で大阪にいるんだけど、そりゃ言い訳だろっとツッコミが入りますわな。で、金に困った四郎二郎が金のため、養子先を探していた赤ん坊を引き取るのだが、その赤ん坊を生んだのがなんと許婚の小雪。そうと知り「貞操を守ると言ってたくせに愛人を作ったな」とさんざん文句をたれるんだけど、実はその子供の父親は自分だった、と。んで、なぜかたなぼたで宝刀も戻ってきちゃう、というそんな阿呆なというツッコミどころ満載のお話です。

こういうばか旦那を愛すべき男として描くのが上方世話狂言なのですが、このばかあほ旦那の四郎二郎を染五郎がくねくねひょこひょこじゃらじゃらと演じておりました。こういうどうしようもない男を染五郎は品よくキュートに演じて「こいつ、あほや(笑)」で納めるだけのキャラクターに仕立ておりました。そこかしこにネタ台詞を入れつつ笑わせてきちんと喜劇になっていたと思います。特に出でのピンクのほっかむりをした着流し姿にはふわっとした色気が出ており、またどこか憎めない可愛げのある仕草や、コト!が終わったあと逃げる部分での身のこなしもなんだか色っぽい。

部分部分ではとてもいい出来かなとは思ったけど、やはり間が悪い部分や、京都弁の台詞がうまくのってこなかったりというところも多かった。京都弁の言い回しに苦労しているのが見えちゃうんだよね。やっぱりニンではないなあと思う。いわゆる上方役者に必要な柔らかいねっとりした色気は残念ながらなくて、やはり硬さのほうが目立つ。とにかくやってやるといった若かさゆえの勢いがあったこそ出来た四郎二郎かなあ。ただ、染五郎のもつ品のある硬さがかえって、リアルすぎないものになっていて、この下世話な物語が「見てられない…」といったものにならなかったのかもしれない。

でも鴈治郎さんとか勘九郎さんあたりやったらかなり面白そうと思うのも事実。この二人、間の良さとか柔らか味のある愛嬌とか天性で持っている役者だからねえ。そう考えるとやはりこの芝居は染五郎大挑戦の巻でしたね。染五郎さんは上方狂言が好きで今後も挑戦していくつもりのようだ。柄として元々柔らか味が薄い人だけにかなり大変なことだと思う。ただ、面白い狂言を観客に提示していきたいという意気込みは買うし、険しい道のりだけど地道にやっていってほしい。でもそれだけじゃなく江戸歌舞伎の柄に合う役もいっぱいやってね。

芝雀さんの小雪は可愛らしくて、けなげな様子がぴったりでした。やっぱりこういう役が似合う役者さんだよな。最初の場の「こちの人〜」などの会話のバカップルぶりの部分など笑えるんだけど可愛らしいから微笑ましいんだよねえ。またいいところのお嬢さん風情と芯の強さが出てて若さで突っ走った演技をする染五郎をきっちりと受け止める演技はさすが。

周りの役者もまとまりがあってよかった。ただやはりほとんどの役者が江戸育ちだけあって、上方狂言の雰囲気がほとんどなかったのが残念。京都や大阪といった風情が見えてこない。江戸世話物に少し上方の雰囲気が混じってたという感じかな。こればかりは身に付いた空気感だからねえ、難しいでしょう。

『勧進帳』
前回拝見した『社会人のための歌舞伎入門』『勧進帳』とはだいぶ雰囲気が違ってました。幸四郎さんは前回かなり表情が大きくて、ある意味富樫にばればれやん、と思わなくもなかったのですが今回はその表情の部分がかなり抑えられ、ハラに収めている感が出てながら義経を気遣う雰囲気もたっぷりあって緊迫感が出てました。大きさ、存在感も抜群。声もよく出ていた。ただ、富樫のやりとりから開放されてホッとして義経から労われる部分はやっぱり大げさかなあ。もっと抑えた泣きのほうが心に訴えてくるのではないだろうか。延年の舞の場面はやはり良い。前回『社会人のための歌舞伎入門』での派手な演出は今回は無し。あの派手な踊り部分、大変だろうけど見ごたえはあったんだなあ。でも普段のあっさりした演出で十分真意が伝わる。六方の引っ込みも今回のほうが礼節な雰囲気があってよし。前回はしてやったりな満足感がちょっと出ていたので。

染五郎の富樫は気迫が出てきてますます神経を研ぎ澄ました厳しい富樫になってきていました。弁慶の仕草ひとつひとつに集中し、隙を見逃してはならじとしている姿が美しかったです。あくまでも厳しく弁慶と問答するシーンは声の調子もだいぶ戻ってきているようで迫力が出ていました。ぎりぎりのところで感情を抑え、悟られないようにしつつ、温情をかける、そんな富樫像が見えてきました。この解釈の染富樫、好きです。弁慶との問答の時などもっと声を張ってもいいかなとは思うけど、やはり少しかすれそうになるのが残念ではありました。あと贅沢を言えばもっと大きく動いてもいいかなと思うシーンもありました。でもこれは回数こなすうちに出てくるでしょう。染五郎本人にとってまだいっぱいいっぱいの役らしいのですが、どうかこれからも富樫役にはチャレンジしていってほしい。富樫役は絶対に染ちゃんのニンの役だっ。

芝雀さんの義経はやっぱり品があってそして情があっていい。前回より主君としてのただすまいが出ていたと思います。とても気合が入っていてました。弁慶へのねぎらいのシーンは本当にしみじみと義経の弁慶への信頼が感じられ、胸に響きました。

あと前回書き忘れましたが四天王の出来が素晴らしい。声の通りが素晴らしく、秀調さん、高麗蔵さん、亀三郎さん、錦吾さん、それぞれに個性がありつつ結束があり気迫がこもっていて本当に良かったです。


2004.12.16

帝国劇場 劇団☆新感線『SHIROH』 2階前方下手寄り

期待しすぎました…。基本的にはいのうえ歌舞伎なんだろうと思ってのぞんだ観劇でした。稽古風景を見る限り、新感染のような歌舞伎&ストレートプレイ&小劇団ネタ系のジャンルミックスがうまく融合した『阿修羅城の瞳』『髑髏城の七人』と同じ感覚で観られると思っていました。が、それは裏切られました。

良い意味ではきちんとミュージカルになっており思った以上に歌を堪能できたという部分。

反対に悪い意味では、新感線劇団員がミュージカルという枠なのなかで完全に浮いてて、どう贔屓目で見ても良いとは思えなかった部分。また演出のなかで頑張りすぎて違っちゃったという部分があり、その最たるものがモニター。多数使用していたのだが完全に邪魔だった。2階席から見るとチカチカして役者を観るのに邪魔になりうっとおしい。またその使い方も歌詞や台詞を映し出してみたり。おい、おい、歌の台詞を聞かせる自信が無いわけ?と邪推してしまった。

一番ダメだったのは脚本かも。あんなにだらだらメリハリの無いストーリーでいいんでしょうか?書きたくないけど正直に言えば、『SHIROH』という芝居のなかで新感線劇団員すべてがいなくても成り立ったであろう、そしてその部分を脚本で切ってしまったほうがより良い芝居になりそうと思ってしまう出来だったのが一番がっかりした部分です。これは新感線らしさを出そうとした演出のせいでもありますが、客演と劇団員がまるでかみ合ってない状況のなか、客演が良い出来だっただけに、劇団の贔屓役者の良さがまったく出てないというか悪い方向に出ているのを目の当たりにした悲しさに泣きそうになりました。観る人によってはあれでいいのかもしれないけど…だから劇団員個々に言及しません。

私が今回良かったと思ったのはすべて客演の人たちでした。特に上川さんは芝居の地力が違うという感じ。そして中川さんの歌のうまさと華だけで魅せられる存在に圧倒させられました。メリハリの無いストーリーでしたが個々の役者の魅力で持たせたようなものです。

上川隆也さんは小劇団出身でミュージカル初体験という新感線劇団員と同じ土俵にいるはずなのに、突出して役者としてのうまさ、凄さをみせました…。凄いと思ったのがミュージカルという演劇体系のなかにきっちり自分を持っていってしまっていた部分。これからミュージカルにもっと出ない?と言われてもおかしくない出来だった。歌はすごく上手いわけではないけど、台詞であり役の感情を表す表現としての歌がきっちり出来ていました。しかも声が艶やかで非常に聞きやすい。役柄的にはしどころが無い感じで難しい役だったと思いますが、それをまっすぐに演じて芯としての存在感がありました。

中川晃教さんは芝居はちょっと出来てない感じで台詞になかなか感情がのってこない一本調子。でも歌になると俄然、感情が表に表れてきます。歌い方はちょっと独特で正統派ミュージカルの歌い方ではない。でもハイトーンの歌声は今回の天の声を持つ天草四郎役にはピッタリだったと思います。またとても華があるのと同時に純粋な雰囲気が出ていたのも役柄的に良かったです。

高橋由美子さんは、TVのイメージと違っていて一番の驚きだったかも。あれほどきちんとミュージカル女優としての存在感があるとは思ってもみませんでした。芝居は元々うまいけど歌が非常に安定していて、時に激しい感情を歌にのせる部分がかなりの迫力。見直しました。上川さんと高橋さんのシーンをもっと増やしてほしいと思う。高橋さんはもったいない使い方だったなあ。

吉野圭吾さんはなんとネタキャラを振り当てられていたのですが、それがなんともハマってて楽しい。歌や身体性が優れているだけに、ネタキャラとして一番目立っておりました。劇団員を食ってましたね。彼を見てミュージカルでネタキャラをするときはミュージカル役者としての資質がないとダメなのねと思った…。

秋山菜津子さんは「うまい」その一言。ある意味一番キャラ立ちしていた。唯一、きちんと心情に訴えかけてくる役柄でキャラ的に美味しいとはいえ、表現のうまさでメリハリのないストーリーを救っていました。

泉見洋平さんは天草四郎の友人役。最初のうちはそれほど目立たず注目しなかったのですがなぜか途中から視線がいくようになりました。可愛らしい男の子といった一生懸命さに好感を持つといった感じ。歌も非常に上手という感じはしないのですが聞きやすく安定しておりました。

杏子さんはあのハスキーボイスがかっこいい。役に合ってるか?という部分ではちょっとどうかな?とも思うし、ミュージカルの歌い方ではなく、まさしくロックボーカリストの歌。でも、役云々ではなくやっぱり歌いだすとかっこいい〜というあの存在感が私は好きです。あと歌ってる時の煽りのフリがうまい。自分がピンのときは控えめにしてるけどアンサブルで歌うときの踊り方がまさしくアンサブルを煽ってるような感じがする。あのノリの良さはボーカリストとして板に立ってきた人ならではで、つい目がいく。

江守徹さんは書くまでもなく、独特の存在感で舞台を支配しております。決してうまいとは思えないけどブルースのような歌が似合って、スコンと舞台にハマってる。また細かい台詞がしっかり届いちゃう台詞術にも、ああやっぱりうまいなと。この方が一番楽しそうにやってます。

アンサンブルは歌のハーモニーがとても良く、アンサンブルとしての仕事をしっかりこなしていて好感度抜群です。


2004.12.11

日生劇場『ロミオとジュリエット』 1階後方上手寄り

演出:蜷川幸雄 出演:ロミオ(藤原竜也) ジュリエット(鈴木杏) 僧ロレンス(瑳川哲朗) 乳母(梅沢昌代) マキューシオ(高橋洋) ティボルト(横田英司)

藤原くんが評判通りのうまさを見せた舞台でした。あんなに背が高いくてかっこいいとは思ってもみなかった。TVでの藤原くんは小柄に見えるし、それほどオーラも見えないと思うんだけど舞台の上では素晴らしい存在感。彼も板の上のほうが確実に光る役者だねえ。あと演出家の蜷川さんのすごさもわかったかも。TVではいくつか蜷川さん演出の舞台を観てるけど、やっぱ生で観ないとほんとのとこはわからないよなあと思いました。舞台転換なしで様々なシーンを見事に作り上げていく手腕にはただお見事というしかありません。

ただ芝居としてはかなり物足りなさを感じました。ごくシンプルな舞台装置と衣装なので役者の実力がストレートに分かってしまう若手役者にとっては厳しい舞台だったのではないでしょうか。若さを前面に押し出して、若さゆえの暴走、愛までに至らない恋の盲目的な情熱、そして幼いがゆえの可愛らしさを表現しようという狙いは十分に出てたとは思います。主役二人は膨大なセリフもきっちり伝えるテクニックもありました。そこはさすがだなとは思ったんです。でもセリフにどの感情をのせていくか、という部分で恋情や悲痛さが伝わってこなかった。

藤原竜也くんは非常に無邪気で可愛いロミオを造詣しておりました。抜群の存在感とセリフ術のうまさには舌をまきました。若手でこれほどのセリフを操れる人はそうはいないのではないかと思ったほど。ロミオの基本的に直情型で素直な感じがよく出てた。前半のロミオは誰にでも愛されそうな雰囲気がとてもよかったです。バルコニーでのシーンは恋に突っ走ってる若者がそこにいました。ただ、ティボルトを殺してしまったその後のジュリエットの絡みからがいまひとつ。恋情〜悲哀〜絶望の道筋が見えてこないんですよね。ジュリエットだけを見つめていかなければいけないと思うんだけどそこの感情がどこか薄い。だから最後が訴えてこない。

鈴木杏ちゃんも、可愛らしい華がありかつセリフを伝えるというテクニックは素晴らしいものがありました。ただ感情の乗せかたが一本調子。キャラとしてアオドクロのときの狭霧と一緒だったのが残念でした。アオドクロの時は気が強くて一途なキャラがうまくハマっていたんだけど…。ジュリエットには痛切なまでの恋情が必要だと思うのですがその部分が見えてこない。あまりにも幼い恋、ということで演じてるのかなあ。でも14歳といえどあの当時の女性は今の14歳より大人だし、哀れさがあってもいいと思うんだけど。泣きの演技が赤ちゃんのようでした。悲痛さが感じられない。

この二人にはロミオとジュリエットの組み合わせとして年齢的にも実力的にも非常に期待したのですが…。すれたおばさんを泣かせるにはまだまだかな(笑)。恋愛劇って難しいんだなと思いました。

そんななか、ベテラン勢はやはりすごいね。特に瑳川哲朗さん、梅沢昌代の自在に操るセリフのうまさと演技の深さが素晴らしかったです。伊達にベテランやってないよって存在感。若手ではマキューシオ役の高橋洋さんが光っていました。彼のセリフの調子のよさや早台詞のなかにきっちり感情が入っているのにとても惹かれました。サングラスでお顔を隠してるのがもったいない。この人は大注目していきたい。 


2004.12.10

国立劇場『社会人のための歌舞伎入門 〜勧進帳を愉しむ』 1階前方花道脇

『勧進帳』
松本幸四郎さんの弁慶は2度目です。何年振りだろう。つい最近観た三津五郎さんの弁慶と較べながらみてしまいました。幸四郎さんはさすがに動きが大きくて迫力がありました。入門編ということで、表情を大きくしたのか、弁慶の心情がかなり顔に現れており、わかりやすい弁慶でした。でもその代わり自信たっぷりな部分で、命賭けて義経を守るといった部分の緊張感が少し欠けたかなあ。以前拝見した時はもっと感情をハラに隠し持ってる雰囲気があって一筋縄じゃいかないかつ情のある弁慶だったように思うんだけど。私としてはそちらのほうが好きだったのですが…。あと、お酒の飲み方が思いっきりのんべおやじ入ってて、なんだか可愛いおやじ弁慶だった。もちっと豪胆な感じのほうがいいなあ。しかし最後の延年の舞の場面は酔って踊ってるふうで絶えず富樫の隙を探しといった表情が見事だし、六方の迫力はさすがという感じでした。

もしかしたら初役か?と思っていた染五郎の富樫はどうやら歌舞伎教室かなにかで10年前に演じてるらしい。私としては初見の染五郎の富樫はちょっと冷静な判断は出来かねる。とにかく浅黄色(淡い水色)の衣装の富樫の拵えが似合いすぎて、かっこいいというよりお人形さんのような美しさ。ちょうど私が座った席の位置が富樫最初の出の立ち位置で、真正面から染ちゃんのきれいな眼差しを見てしまい、すっかり心を持ってかれました。どうやっても目が染ちゃんの方向に向いてしまう。海老蔵さんの富樫もきれい、と思ったけど染ちゃんの姿はまたなんかちょっと違うきれいさ。

そしてきれいなだけでなく、動きに品と爽やかさがあり、一段と役者として大きく見えました。また、富樫という人物の捉え方も、感情を露に表に出さず、押さえた演技でふとした瞬間の表情や声の調子で心情を見せ、能史らしいたたずまいに説得力があり、とてもいい出来の富樫だったと思います。と、褒めまくりたいところですが、ダメな部分もやっぱりあるわけで。染ちゃんは先月から喉を痛めていたようだけど、それがまだ治っておらず声に艶がないし朗々と声を張って出さないといけない台詞がかすれてしまってるしで、特に弁慶との問答のところなど迫力に欠ける。姿も動きもいいのに、台詞がぁ…(涙)。長唄演者などは喉を一回潰して声を太くするというけど、そうなってくれることを祈るばかり。嗄れたままにしておかないでね。でも声さえ治れば染富樫は今後かなりよくなっていきそうな予感。弁慶より富樫のほうが今はニンでしょうね。

芝雀さんの義経は、どうなるかと思いましたが女形じゃなくちゃんと立役になってました。声も通るし、品もあってやっぱり可愛い。義経はずっと動かないで座っていなければいけない役なのですが、きれいに座っていらっしゃいました。小柄な姿が義経らしくて守ってあげなくてはという雰囲気があり、また弁慶を労う台詞には情がありとても良かったと思います。ただよく考えてみたら義経は武将なのでその大きさも見せなくていけないんですよね。その部分が残念ながら無かったかなあ。でもこれは鑑賞後、冷静になってからの後付けの感想なんですが。


2004.11.21

大阪松竹座 『坂東玉三郎 十一月特別公演』 1等席1階真ん中後方下手寄り

『伽羅先代萩』
玉三郎さんが「竹の間」から出すのは初で、しかも今回も、前回同様まま炊き(飯炊き)もやるということで、見たくてしょうがなかった演目。また染五郎の女形を実は見たことがなく、立役がニンのはずの染ちゃんがどういう女形を見せるのかも興味があったし、扇雀さんの八汐がかなり似合いそうな予感もあったし。そして私の予感は大当たりな良い芝居を見せてもらえました。

「竹の間」
「竹の間」
での政岡、八汐、沖の井のやりとりあってこそ「御殿」の場が活きるのだということが今回よく分かった。これから『伽羅先代萩』を出すなら絶対この場は出したほうがいいと思う。また、松島の役を無くし、理を求める役を沖の井に集約したことで華やかさは多少欠けるものの、それぞれの人物像がハッキリして物語として一本筋が通ったものとなった。このことで物語に感情移入しやすくなる。今回のこの演出はいい方向に出ましたね。

最初の出の政岡の玉三郎さんのあでやかで品格のある美しい姿に心が鷲掴みされました。ひさびさに玉さまオーラにやられた。風格がありながらどこかたおやか。舞台を一気に大名屋敷の奥所にしてしまいました。そして子役を見つめるときの情が溢れる母としての、また乳母としての優しげな雰囲気と、八汐との対決で見せる気丈さとそのなかで見せる弱さの表情の繊細さにほれぼれ。それにしても今回の包み込むような守るものとしての政岡という雰囲気がとても良かったです。またいったんは八汐に言い負かされ、「さがりゃ」と言われ、悲しそうにゆるゆると若君の側を離れる時は最初の花道の出での堂々たる姿を見ているだけに、だんだんに姿を小さくしながら歩く姿がこれまた心情を姿にも表して見事だなあと。これは真女形ならではでしょう。

扇雀さんの八汐は非情ぶりを見せるというよりは虎の威を借りたなんとやらの小物感といやらしさたっぷりのお局になっていてそのねちっこさがかなりいい感じ。たいていは押し出しの強さと非情さを出すために立役がやることの多い八汐だが今回女形の扇雀さんがやることで、いかにも意地悪そうなおばさんぶりと政岡を陥れようとするものの詰が甘いちょっと抜けてるおばかぶりが強調された。ちょっとくだけすぎかなと思う部分はあれど、この玉三郎さんとは好対照な役作りがいかにも女同士の戦いといった趣が出てて面白かった。この八汐だからこそ、女の戦いの場としていかにもありそうな場面として見ることができた。それにしても扇雀さんの口をひん曲げた顔の表情の作り方はすごいね。ほーんと、いやらしい女としかいいようがない(笑)。そしてお母様(扇千影さん)そっくりなのが本気で笑える…。

染五郎の沖の井は想像以上にハマっていて良かったかも。沖の井は知の人で冷静に状況を見極め理論整然と八汐の詰の甘い策略を論破していく。特に政岡側の味方という形ではなく、正しきものを求めるといった儲け役なのだが、八汐を論破するときのきちっとした爽やかな物言いが見事でした。またお局としての品格がありきりっとした表情は沖の井の理知的な雰囲気が出てこれはなかなか。立役中心の染五郎なので以前この役をやった時蔵さんに比べたら所作の美しさは残念ながらおよばないものの、浅黄色の打ち掛けも似合い、役の性根をきちんと捉えての「お局」としての立ち振る舞いは見てて気持ちいいものでした。

染五郎はあまり女形の顔の作りが似合わないと聞いていましたが確かに顔の作りは決して美しいとか可愛いとか、さすがの染ファンの私でも言えない男前な女になってましたがその硬質さが今回は役にあってて、それほど違和感は感じませんでした。声もハスキーボイスながらきちんと女形としての声になってて、結構女形もいけるやん、と思いました。また染ちゃん、こんなにでかかったっけ?な玉三郎さんより大きい姿に驚きつつ、今回のこの沖の井は女らしくないと言われながら育ち、その代わり知性と武芸を磨きそれをひけらかすことなく控えめに生きてきた武家の女なのかも、という姿を想像してしまった(笑)。私、やっぱり染ちゃんの声や姿が好きというだけではなく幅のある演技の質が好きなのだということが今回でよくわかったかも。

「御殿」
「竹の間」
での丁々発止があった後での「御殿」なので、ようやく若君、鶴千代と息子、千松の三人だけになったというちょっとした開放感が出ていた。そのおかげでこの三人の親密度が表れていて、まま炊きのシーンでのお互いのやりとりに情があり、鶴千代の若君らしい家臣、政岡と千松への心遣いや、母のいいつけをしっかり守る千松のけなげさがなおのこと引き立つ。しかしこの場は子役の出来がかなり左右される場なのだが今回の子役二人が素晴らしい出来。今年三月歌舞伎座での『先代萩』でも同じ子役でうまいと思ったが、今回子役の見せ場が多い分うまさが引き立った。また子役を見守る玉三郎さんのちょっとした表情、仕草が「母」でした。こんなに「母」なお顔を見せることができるんだなあと。そのおかげかもしかしたら私の気持ちがダレちゃうかもと思っていた「まま炊き」の場をかなり集中してみることが出来た。またこれがあることで子供たちのけながさがよくわかり、後半の場へ向かって私の涙腺は緩み始めてしまいました…。母に「今までの言いつけを」と言い聞かされ、覚悟したかのような千松の表情がなんともいえない。ここらで私の涙がポタ。でもって、栄御前のおまんじゅうを食べ、毒で苦しむ千松を刺しなぶる八汐を見る気迫の目つきの玉三郎さんを見て、またも涙ポタポタ。そして千松の死体と二人だけになった嘆きは悲壮感と哀れさが溢れ、慟哭としかいいようのないクドキのシーンはきちんと見たいのに涙ボタボタ。すごいよ、玉三郎さん。やっぱり大阪まで見にきて良かったと心の底から思いました。

その後、八汐再登場でのシーンで沖の井が八汐の悪巧みをはっきりとさらけ出すために証人として小槙を連れてくるシーンもわかりやすくなっていて、最後には正義が勝つという終わりがはっきり出た演出も良かった。また役者さんでは後半のポイントになる栄御前の上村吉弥さんが芝翫さんの腹のある演技と比べたら薄いもののなかなか品格があってよかった。

「床下」
女の対決の後は男の対決。荒獅子男之助役の弥十郎さんは大きさがあって姿が良いが押し出しがもっと強くてもよかったかな。対して、悪役の仁木弾正は正義の女、沖の井からうって変わっての染五郎。すっぽんからゆらりと登場、悪のかっこいい姿に大変身しておりました。うわー、やっぱこの人これがニンだわと思った。このところ染ちゃんはずしりとした存在感を出せるようになったと思う。とはいえ、お父さんの幸四郎さんのいかにも妖気ただよう異様さまでには及ばない。比べると幸四郎さんの場の空気の変えかたがいかにすごいことかがわかる。でも今の時点でこれだけきちんとニヒルな悪役として登場できただけでも今後が楽しみ。

『船弁慶』

弥十郎さんの弁慶は柄にあってて、義経を気遣う表情や霊を封じるシーンの迫力はなかなか。義経の扇雀さんは八汐の時とはガラリと雰囲気を変え、とても品のある武将になっていた。うわー、同一人物かい?な変わりよう。男の格好をすると今度はお父さん(鴈治郎さん)にそっくりだ。

さて、肝心の主役、静御前と知盛の霊の二役は染五郎。前半の静御前のこしらえは能面を意識した顔のつくり。やっぱり男前な静御前でしたが眉がある分、角度によってはちょっと美人にも見える(笑)。さて女舞はいかがなもんでしょ。これは去年、この踊りを得意とする富十郎さんの一世一代を見ている。この富十郎さんの女舞でさえ「能」の舞と比べてしまった私にとっては「染ちゃん、まだまだ修行が足らぬ」段階。特に出だしが固くて踊りになってない。あちゃ〜、大丈夫か?ととても不安。ハラハラしながら見守っておりましたが、踊っていくにつれ義経への切々とした心情がのりはじめて踊りに表情がでてきた。かなり粗はあるものの、女舞の後半の出来はそれなりに情を訴えてよかったかな。でも足元の所作はもう少し摺足を勉強してねっ。

ちょっとハラハラな静御前が終わっての後半は「静の踊り」から反対に知盛の霊の「動の踊り」となる。源氏にうらみを持つ、知盛の霊になってからの染五郎の踊りの迫力は凄かった。パンフでの知盛のこしらえがちょっと可愛らしい感じに写っていたのでどうかな?と思っていたが、これがどうしてどうして。全身から殺気みなぎり、激しく大きく踊るものだから舞台からはみ出しそうな勢いでした。どちらかというと恨みをいだく知盛の激しさは生霊ぽい雰囲気で、さすがに富十郎さんのゆらゆらと揺れるようなまさしく異形といった雰囲気には及ばないものの、とにかく気迫がすごい。勢いと回転の美しさにはほれぼれ。また長唄囃子連中も揃っていい演奏で相乗効果をあげていた。最後の知盛の霊のひっこみの勢いと鳴り物の迫力がとても合っててほんと良い出来でした。大阪まで来てよかったよ、とここでも思いました。

そういえば、ところどころ染ちゃんは謡いながら踊るのだけど、今回生を聞いて(生でなければTVと天魔王(アオドクロ)で聞いてる)、なかなか上手だなと思った。新感線の舞台で歌わないせいで「音痴」と言われてるのだけど、洋楽が歌えないだけで音痴ではないだろう。


2004.11.06

サントリーホール 『マリス・ヤンソンス指揮 ロイヤル・コンセントヘボウ管弦楽団』 B席2階下手後方

この楽団の演奏を聞くのは3回目です。前2回はかの有名なリッカルド・シャイー氏の指揮の時でした。今回は就任したばかりのヤンソンス氏。うわー、やっぱこの楽団、すばらしいわ。感動、感動の一夜でした。ヤンソンス氏のパワフルかつ繊細な音作りにも感嘆いたしました。

<<曲目>>
べートヴェン:交響曲第二番 ニ長調 op.36
ブラームス:交響曲第二番 ニ長調 op.73

<<アンコール曲>>
ブラームス:ハンガリー舞曲第五番
ワーグナー:ローエングリーン『第3幕への前奏曲』


2004.10.26

日生劇場 劇団☆新感線 Shochiku-mix『髑髏城の七人 アオドクロ』3回目 S席1階花道外真ん中後ろ

3回目です(笑)。そして3回目にして完全のアオドクロという芝居にハマりました。なんかねえ、役者の役への感情の入り方が半端じゃなくいい感じになって、ストーリーや役者の動き方もわかってたくせにいったいどうなっていくんだろうとドキドキしながら観てしまいました。そして後半は涙腺刺激されまくり…。「泣くのか?おい、泣いちゃうのか?俺?」とかなり自分にツッコミしまくりでしたけど抑えられませんでした(笑)。

とにかく声を大にして言いいたいのは「染、あんたやっぱすごいかも」だ。2回目鑑賞時に捨之介@染五郎がかなり彼自身のキャラにしていて捨之介が物語を動かしていく主役だというのを見せつけてくれたのでさすがと思っていたのですが、今回それがもっと進化していた。染ちゃん、ちょっとすごすぎ。捨之介という人物はあまり自分の感情を出さないキャラで後半ようやくむき出しになっていくのだけど、その時の感情の爆発具合というか感情の振れ具合の捉え方がすごかった。完璧に染の捨之介として確立させてた。そして染だけじゃなく、皆がそれぞれのキャラをしっかり掴んで個々が際立っていながらも纏まりがあるという、ほんとになんか今回芝居のパワーというものが体に響いてきて感動。3回目鑑賞も個々キャラに言及して感想書きたい。でもいつ書けるのだ?


2004.10.22

日生劇場 劇団☆新感線 Shochiku-mix『髑髏城の七人 アオドクロ』2回目 S席2階最前列真ん中

前回観た時よりパワーアップしてた。捨之介というキャラがどうしても古田さんのイメージが強すぎてどうなんだろうと思っていた染の捨之介がようやく染自身のキャラにようやく引き寄せてきたというか、開き直ったでしょ?感があってかなりいい感じ(笑)。色男自覚系の軽さを見せつつ、弱いものには情をかけずにいられない優しさと、業をひきづって居所を探しているような寂しさを持ち合わせた捨之介になっていた。

それにつけてもやっぱり「女好き」には見えないねえ。染本人がどうかは知らないけど、役者としては「女好きを誰もが認める男が見せる独特の色気」ってやつは持ち合わせていない。「女好きで情に厚い捨之介」は染のニン(柄)じゃないんだなあ。それを自覚してキャラを変えてきたのは正解。アオドクロでは「抜かずの兵庫」を「こぶしの忠馬」に演じる人に合わせて変えたんだから染キャラのほうも違う名前で新しいキャラでやったほうが良かったかもね。まあ、あと10年経ってどうなるかだな。少しは女好き系の色気も出せるようになってもいいとは思うので伯父さん(吉右衛門さん)にでもその独特の色気は教わんなさいね。お父上はその方面の色気は皆無だからムリ…。

それにしてもこれでようやく捨之介のキャラも前に出てくるようになったので、前回の天魔王のほうがキャラ強すぎてバランス悪かった部分は今回ようやく結構納得できた。まあでも私的にはやっぱり天魔王@染さまの「敦盛」の舞にくーらくら、でしたけどね。それに孤高の存在って好きなんだよ〜。

個性が強すぎてまとまりの部分で物足りなさがあった7人もまとまりが出てきて髑髏城へ向かうモチベーションがはっきり見えて良かった。22日はソワレ1回公演だったおかげで皆の動きのキレが良かったのと台詞の響きも通りが良かったせいでなおのこと満足。前回(11日)はちょっとお疲れモード入ってるみたいで皆さん立ち回りとかいつものキレのよさが無かった部分あったし。その代わり必死さがあってそれも良しでしたけど(^^)

なんてまた長々書きましたが役者個々へのコメント付きの詳細感想また書くかも(笑)。気長に待ってくださいまし。読む人いるのか、をい?


2004.10.16

歌舞伎座 『芸術祭十月大歌舞伎 夜の部』  一等一階真ん中

『伊井大老』初代松本白鸚二十三回忌追善狂言

『源平布引滝 実盛物語』

『雪暮夜入谷畦道 直侍』


2004.10.11

日生劇場 劇団☆新感線 Shochiku-mix『髑髏城の七人 アオドクロ』 S席2階最前列真ん中

ああ、なんというか私は劇団☆新感線はやっぱり、いのうえ歌舞伎が好きみたいです。ネタものも大笑いできて楽しいんだけどその場限りであまり余韻がないからなあ。いのうえ歌舞伎のほうがきちんとしたドラマがあって、その上でのお遊びやショーアップがプラスされてるので、人物像をあれこれ考える余地があるのがいい。

それにしても今回のアオドクロは本当に派手でしたねえ。色んなものがてんこ盛り。春のシンプルなアカドクロを観ているから尚更、よくぞここまで派手にできたものだと感心。一度ぎりぎりまでシンプルにしてドラマ中心にまとめた舞台をまた様々な色付けをしていくのは案外大変なんじゃなかろうかと思った。

私はアカドクロは新国立観劇派なので役者がこなれてない&演出的に物足りなさがあったのしか観ていないせいもあって、かなり楽しんだことは楽しんだんだけどそれほど満足していなかった。もちろん、古田新太さん、橋本じゅんさん、水野美紀(演技がうまくなっていた)の三人がそれぞれに(やるせなさは古田さん、慟哭はじゅんさん、切なさは水野嬢)をきちんと演じていいドラマを見せてはいたが、よりその部分を演じられる場をたっぷりもらっていたわりにもう一歩届かせるには弱かったと思う。

* 5月のアカドクロの感想をまだちゃんと書いてなかったのでこちらに追加して書いてみる。なぜ物足りなかったのかを書いておきます。

なので、今回の勢いがあり、わくわく感のあるアオドクロのほうがかなり好き。今回観たアオドクロもまだはじまったばかりなので役者たちのまとまりという部分が少し足りない気もするが、全体的な印象ではかなりレベルが高い。役者が若いから動きがすごいとかそういうのではなくきちんと物語としてドラマがより明確であった。アカに較べて遊びの部分が多いにも関わらずドラマとしての情報量が多かった。どうしても歌や踊りやネタが多いせいでドラマが流れていきがちなのを要所要所できっちり本筋に戻していく染五郎と鈴木杏の存在はかなり大きのかも。

染五郎ファンとしては美味しい場面たっぷりで大満足。オープニングでロック調の歌にあわせて踊っちゃうし、染の鼓の生演奏(これが上手なんだ)が聞けるし!。それにしても飄々としたキャラの捨之介はなんとなくイメージできたけど、冷酷な天魔王をどう演じるか楽しみでもあり少し心配でもあった。しかしこちらの想像を上回る悪役ぶりにく〜らくら〜。冷ややかな笑みを浮かべる天魔王の姿は天からなにかが降りてきた感じでしたわ。本当に今回の天魔王@染のキャラは凄かった。似合うだろうとは思ってはいたけど、まさかこれほど悪役が似合うとも思ってみなかったよ。妄執に囚われた悪鬼であり、しかも堕天使のごとく美しい。うげー、自分で書いてて恥ずかしいやっ。すまんね、ただのバカなファンの目線なので読み飛ばしてくれや。いやでもほんと「美しい」です。もうこうなったら恥ずかしげもなく「染さま」と呼ばせていただきますわ、ええ。

染さまは、天魔王は確実に物にしている反面、捨之介のキャラはまだかなり迷いがある感じがした。飄々とした感じは出門@阿修羅城の瞳キャラの流れでうまく出ているんだけど、「女好き」キャラの部分を持て余しているというか。古田さんの捨之介のイメージを大事にしようとしているのはわかるがどうしてもうまく染のキャラクターにハマってこない。どことなく品が良すぎるのだ。正面から向かっていくものに対しては男女問わずかなりの色気を出す染であるが、いわゆる「とにかく女好き」方面のエロさはハッキリ言って無い。どこか一途なほうが「らしい」んだよね。なのでエロ系色男が板についた古田さんと同じようには無理。こうなったら「女は大事にしないといけません」なフェミ男系の捨之介にしていけば案外いけるかも。

ここからは染ファンの叫びです(笑)

いのうえさん、染への要求多すぎだと思われ。やっちゃう染も染だけど。歌こそ歌わなかったけどダンス(洋舞)踊って、動きづらそうな琵琶を持たされ、ネタものもやり、それで鼓打って、日舞入った踊りやって、殺陣やって、それで捨之介として天魔王としての人なりを声音で演じわけして、セリフだけで心情を見せるって、これなかなかできる人いませんよ。歌舞伎界の人だからやれるじゃなくて、歌舞伎界でもいないってばっ。(これを書いた後でパンフ読んでたらなんと松たかこ@染妹が同じこと書いていた。やっぱそうだよね。)

以下続く。<書きました〜。長すぎ(^^;)

沙霧@鈴木杏
若いのにかなりの存在感がある。声の通りもよく、生き生きと可愛らしく一生懸命さがキャラに合ってて清々しい。これで背負っているものの重さを感じさせる切なさが出ればもっといいんだけどなあ。狭霧役には若すぎる感じ。でもキラキラした目は本当に印象的。

蘭兵衛@池内博之
声が良い!とにかく声が良いよ〜。これは舞台に立つ上で武器になる。台詞回しはまだ感情をのせるまでにはいってないけど初舞台とは思えないほどしっかり演じていたと思う。かなり濃い日本人離れしたお顔&スタイルなのに着物姿が案外似合うし、腰でしっかり着こなしていたし思った以上に所作がきれい。カンがいいのかもしれないと思った。かなり中性的な蘭兵衛を演じていたがもっと男らしい蘭兵衛のほうがキャラには合ったんじゃないかな。それがちょっと残念。立ち回りに関しては微妙すぎ。あのふわふわ感は演出?それとも池内くんの運動神経が鈍いの?もっとスピードが欲しいなあ。

極楽太夫@高田聖子
うわー、色っぽい。旦那と一緒の舞台だけど躊躇なしに色気むんむんを出してましたね(笑)。その潔さが好きよ。前半はちゃきちゃきの姉御でかっこよかった。でも後半、聖子さんのうまさや良さが出てなかったよー。無界の女たちが殺されての悲しさをもっと出して欲しかった。あと髑髏城でももうちょっと活躍してほしかった。中性的な蘭兵衛だったのでアカの時と同様に相対するのは忠馬じゃなくて極楽太夫のほうが説得力がでたような気がするんだけど…。聖子さんを大プッシュしてた私に同行者が「言うほどうまいかな?」って言うんですよ(涙)。うええええん、いのうえさんもっと聖子さんの良い部分見せてくれーー。

渡京@粟根まこと
裏切りの三五@河野まさとさんとは違った裏切りキャラ。表情が豊かで観てて楽しい〜。コロ助との一人会話が絶妙。粟根さんの蘭兵衛はどんなだったんでしょう?この飄々と色んなものを裏切りまくる渡京のキャラが合いすぎて想像できませーん。

忠馬@佐藤アツヒロ
ジャニーズ出身というのは知っていたのですが、光GENJIのメンバーだったんですね。フリーダム♪ネタで「あれ?」と気が付く私。すいません、昔からアイドルに疎いもので。元気でしたねー、ガキ忠馬でしたねー。しかし、まあ動く動く。運動神経の塊って感じの動き方には感心しました。キャラ的には真っ直ぐな怒りという感じで良かったです。どうせならもっと怒りを現してもいいくらい。ああ、しかし、感情がいつもMAXすぎて疲れる部分も。なんつーか緩急がなさすぎ。特に仲間が殺されたシーンの慟哭の部分は弱い。泣かせどころだろーーっ。この部分はじゅんさんにも厳しい目で観た分もっと厳しいぞっ、と。

カンテツ(贋鉄斎)@三宅弘城
卑怯だーー、このアホキャラは卑怯だーー。まさしく飛び道具?「タナカ」が頭から離れないーー。贋鉄斎は元々美味しいキャラだとは思うけど、美味しいところ持っていきすぎ。しかし、この人の運動神経にもかなり驚き。トンボ切るところはまじですごい。100人切りのところでは染@立役者と三宅さん@三階さん的キャラなバランスでなんか「まさしく現代の歌舞伎だーー」となんか妙なところで感心しちゃったよ。これは絶妙配役でした。

狸穴二郎衛門@ラサール石井
まったく期待していなかっただけど、思ったよりうまかった。。まさしく狸やん。腹に一物もってそうでしかもちゃんと考えての、な部分がきちんと出てたのがいい。最後のキャラ切り替え部分はもっと重さを出してもいいかなとは思ったけど違和感はなかった。

甚平@村木仁
この方は実はあまり好きなタイプの役者ではないのです。なんだか観ててウザーーと今までは思っていたのですが、今回の体張っての演技は良かったかも。思いっきり笑えたし、鍬の立ち回りが上手かった。水呑百姓に見えない体型なのがチト残念ですが。しかしどうみても忠馬の兄弟には見えん…。

髑髏党の主要キャラに関してはネタ使いに終始しましたねえ。染天魔王がかなり非情でドラマチックだったのでもう少しマジ演技もさせてもよかったんじゃないかなーとか。それじゃ舞台が4時間以上になっちゃいますが…。鋼の鬼龍丸@高杉亘はコスプレが…動きづらそう。でもネタは笑えました。乱の剛厳丸@小村裕次郎もおばかな敵役って感じは楽しかったです。刀の非道丸@川原正嗣も最初は結構非道キャラでいきそうだったのに最後おもいっきりネタキャラになりました(笑)。アクションだけじゃなく芝居もなかなか。無明&およし@村木よし子と無音&おかな@山本カナコは髑髏党キャラのほうがかっこよかった。この二人の歌がよかったなあ。今まで新感線の歌って歌詞が聞き取れなくて当然なのかな?と思ってましたが、今回のこの二人は歌詞もばっちり。あと、カナコさんってきゃんきゃん声がいまいち好きじゃなかったんだけど、今回の抑え目な低い声がよかった。村木よし子さんは初で観ましたが華は無いけどなかなか良い役者さんだなあとちょっと印象に残った。

と役者個々への言及でした。あと、ストーリーのほうでちょっと思ったこと。

今回の天魔王の「魔」が強調されたことで話がより鮮明になったなあと思う。捨と天魔王の表裏一体だというのがハッキリわかったような気がした。人の血が大量に流された時代の権力と死の妄執に絡み取られた天魔王、そしてそのしがらみを捨て流離うことで人の情を探しているかのような捨之介。個としての立場よりもっと大きな業を背負ってる二人。立場は違えども、両方ともどちらにもなりえたそんな二人にも見えた。蘭はちょうどその中間にいてどちらにもつける立場だったけど、殿への情愛から業を断ち切れなかったんだねえと。捨と天魔王の背負うものとは別に蘭は殿個人への業を背負ってるんだよな。不安定な雰囲気を纏わせるのはそのせい。情を求めて妄執に絡め取られちゃったんだろう。かわいそうな蘭。うーむ、こう考えると蘭は芝居の上手な人にやらせたらかなり深い話になるなあ。


2004.08.28

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第一部』 一等一階真ん中少し上手真ん中

『元禄忠臣蔵』「御浜御殿綱豊卿」
若手中心の配役しかも台詞劇ということで、最初正直なところ歌舞伎座の大きい舞台でどの程度の空間を埋められるか心配だった。ヘタすれば舞台の空間がスカスカになってしまう危険性があるなあと思っていた。出演している役者が大好きな人たちばかりだったので尚更、ドキドキしながらの観劇になった。が、その心配はうれしいことに杞憂だった。思っていた以上に良い舞台で話自体をかなり面白く観ることが出来た。それぞれの役者が持ち味を生かしていてとても見ごたえのあるものでした。全体的にテンポが早くたっぷり魅せるという部分では先輩たちにはまだまだ及ばないものの、勢いがあり、また一生懸命さがうまく噛み合ってとてもわかりやすいものになっていたと思う。これから彼らが「歌舞伎」を引っ張っていくんだなーという想いを感じつつ、爽やかな気持ちになれました。

綱豊卿役の染五郎の貫禄ぶりにまずは驚かされた。どちらかというと初々しく若々しい感じの姿が似合うし、そういう役しか観た事がなかったせいか今まで貫禄という部分を感じたことがなかった。ところが今回は大きい存在感があり、きっちり受ける芝居をしていたのが印象的。膨大な台詞を高麗屋ならではの調子の良い節回しで語り聞かせてくれる。またその台詞にあまり飲み込まれることなく殿様としての心情を言葉の端々に感じさせてくれました。なんというかもどかしさとか寂しさみたいなのが伝わってきた。勿論、もう少し聞かせどころでたっぷり台詞を言って欲しかったとか、ちょっといっぱいいっぱいな部分もあったし手放しでは褒められない部分もいくつかはあった。けれど初役でしかも腹で性根を見せる難しい役だったにも関わらず、かなり良い出来だったと思う。それになんといっても姿が麗しくていいわ。最後の能衣装での立ち回りの部分は「美しか〜」と見惚れちゃいました(笑)。白塗りお殿様で美しいと思わせられる役者はあまりいないし、台詞術の部分ではこの役は染五郎の柄に合う役だし、今後もやっていくであろう役なのでどんどん深めていってほしい。

助右衛門役の勘太郎は大熱演。一途な田舎侍というこの役にぴったりで朴訥さと熱血漢のバランスが良い。一本気なところが勘太郎の若さと相まって、とても説得力があった。台詞術はお父さんの勘九郎にそっくりで、ちょっとした間の取り方が絶妙。これは天性のものもあるだろう。涙を流しながら綱豊卿と丁々発止でやりとりする部分などはその熱い心情に胸を打たれる。勘太郎くんは確かに勘九郎さんの芸風を確実に受け取る役者になっていくだろう。今ある品のよさとこってりした勘九郎の芸風をうまくかみ合わせていってほしい。すでに勘太郎ならではの芸風がかなり出てきているし今後が楽しみ。

お喜世役の七之助の最近成長著しい。女形をやることが多いが姿がすっきりきれいだし、なんといっても声がいい。助右衛門とのやりとり部分の必死さに愛情がみえてとても良い場面にしていた。もう少しふっくら可愛らしい雰囲気と殿様への甲斐甲斐しさが出れば、お喜世という役柄により説得力が出たかなとは思うけど、けなげさがきちんと見えるのはとてもよかった。

江島役の孝太郎さんも予想外の良さ。柄からいうとお喜世役のほうが合うかなあと思っていたのだが、才の切れる江島役を落ち着いた雰囲気でこなし、こういうお役も出来るんだあと感心してしまいました。あんなに小柄なのに奥と取り仕切っている女性としての大きさがありました。。お喜世をいじめる局たちを諌めるシーンでもきっぱりしてて、なんというかカッコイイ女性をかっこよく演じてて気持ちよさげ。またさりげなく綱豊卿を気遣う姿がちょっといじらしい雰囲気もあって孝太郎さんらしい。

新井勘解由役の橋之助は今回の舞台のなかでは一番落ち着いてわりとキーになる要所をきっちり引き締めておりました。 綱豊卿と勘解由のやりとりの部分がしっかりしているので後半がきちんと生きてきた感じ。殿の相談役という部分以外に気を許せる友人といった感じがあって綱豊卿の普段の生活がどれだけ緊張感のなかでのものなのかが垣間見えるものとなっていた。

『蜘蛛の拍子舞』
華やかで楽しい舞踏劇でした。福助さんの傾城姿は本当に色っぽい。福助さんの色気は肉感的でかなり女性ぽいのです。それが後半、蜘蛛の精での荒々しい化粧に大胆な足捌きになるギャップがお見事。迫力があってよかったです。

三津五郎さんが相変わらず踊りの美しさを見せます。でもバランス的には資質が同じ橋之助さんとの踊りのほうがより華やかに見えますねえ。勘九郎さんが金時役で終盤にでて、美味しい部分をもっていきました。観客を喜ばせることに関してはお見事。


2004.08.21

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第三部』 一等一階下手前方

『東海道四谷怪談』
歌舞伎では初鑑賞です。筋は知っているつもりだったんですけど、京極夏彦『嗤う伊右衛門』のイメージとか映画『忠臣蔵外伝 四谷怪談』のイメージが入ってしまっていたようで民谷伊右衛門のあまりの非道ぶりに唖然。こ、こんなにひどいやつだったのかーーと今更。歌舞伎キャラはわりと非道なやつはとことん非道なんですが、まあそういうキャラだしねで普通済んでしまうのです。でも伊右衛門は家庭内暴力夫なのでまじで許せませんでしたよ。姿がかっこいいキャラ(歌舞伎用語で色悪というキャラクター)だけにお岩様の哀れさが引き立つのかもしれないけど…。それにしてもお岩様が可哀想すぎるーー(泣)。薬と称した毒を飲もうとする場で思わず「飲んじゃだめー」と声を出してしまった私であった…。

勘九郎さんのお岩様は武家の女としてのプライドを切ないほど持ち合わせ、毒を飲まされた後に身支度を整えようという場面はとても哀しい。なんとなく勘九郎さんだったら強いお岩様なのかなと思っていたのですが、女の弱さをじっくり見せて、幽霊になった後の恨みの深さがきちんと伝わってきました。怪談ではありますが恐怖というより、哀しいお話という部分が私的には良かったです。死んだ後の場はかなり派手な演出で見ごたえありました。早代わりがお見事。

橋之助さんの伊右衛門はピッタリでした。橋之助さんはわりと良い人の役柄ばかり多く見てきたので色悪はどうなんだろう?と思っていたのですがなかなかに悪も似合ってる。形もきれいだし、いかにも歌舞伎役者然とした顔に凄みがあっていい。この人はひょうきんな役よりこういう役のほうがいいかも。

三津五郎さんの直助もさすがというかうまい。いかにも小悪党な風情をいやらしい一歩手前で演じているのが三津五郎さんらしいうまさ。ひとつひとつのポーズにほんとうに隙がないです。直助の見せ場の三角屋敷の場がないのはもったいない。

時間的に全幕上演ができないため「三角屋敷の場」をカットだそうで、そのあらすじを舞台番として染五郎が幕間で説明。イキな浴衣姿で軽妙にわかりやすく、そしてお客さんを「お岩様が、それそちらに…」と脅かすのも忘れず(笑)、場を繋いでおりました。説明時のちょっとした動きがきれいで、少しの出番ですが印象に残しました。


2004.08.15

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第二部』 二等一階下手前寄り

『蘭平物狂』
わりとたいくつしがちな前半の踊り部分が三津五郎さんの雄弁な踊りのおかげで楽しいものになっていた。後半は若い松緑さんの勢いのある立ち回りにはさすがに及ばなかったけど、3階さんたちとの息はピッタリで丁寧な立ち回りで魅せてくれました。子への情の部分はさすがにうまい。

『仇ゆめ』
狸が遊女に恋をしてという面白くもやがて悲しきの舞踏劇。狸の勘九郎さんが独壇場。あの愛嬌のある動きは勘九郎さん以外考えられない。あの振り付けとノリのいい音楽はいったい…。元々そういうものなんでしょうか?楽しすぎ。揚屋の亭主というよりは若旦那な染五郎との掛け合いがまた楽しい。皆、楽しそうに踊っているので観ているほうもとても楽しくなってしまう。また遊女役の福助さんが可愛らしい。勘九郎さんとの間が絶妙でコメディエンヌぶりを見せつつも踊りの師匠い対する切ない恋心を切々と訴えるところは悲哀をだしての太夫ぶりには胸を打たれた。


2004.08.01

すみだトリフォニーホール『グローバル・フィルハーモニック・オーケストラ 第33回定期演奏会』

指揮 / キンボー・イシイ=エトウ
ソプラノ/ベッティーナ・イェンセ

シュトラウスの『交響詩「死と変容」作品24』は音の面白さを堪能させてくれた。音と音の繋がりの多様さに引き込まれ、それが後半一つになり押し寄せてくる感じ。題名の「死」から想像する暗さはなく、死へと浄化されていく美しさのようなものを感じた。いい曲だ〜。

『四つの最後の歌』はしみじみと心に訴えてくる歌曲。美しく力強い音色のオーケストラにまったく負けていないイェンセの深みのある歌声が素晴らしい。なんともドラマチックで情景が立ち上ってくるよう。オケと歌声のどちらかが勝るというものではなく両方の音が見事にマッチして静かに深く訴えてくる演目でした。

ベートーヴェン『交響曲第5番「運命」作品67』、超有名な楽曲のひとつですがひさびさに生で聞きました。まずは楽曲のよさをつくづくと感じましたねえ。なんというか体全体で乗って聞いてしまう。迫力と繊細さが同居している曲なんだなあと。キンボー氏の指揮もよかったのかもしれない。音のひとつひとつを引き寄せて弾かせる感じがしました。とても明るい「運命」でこの演奏かなり私好みかも。

3曲でかなり満足しているところにアンコール曲がなーんとオペラ楽曲ですよ。うれしすぎ。J・シュトラウス『こうもり』序曲。キンボウ氏が演奏前に一言お話され「指揮者カルロス・クライバーの訃報には泣いちゃいました。追悼の意味も込めまして」などとおっしゃり、とてもキュートな方だなあとの印象。皆さんもそう思われたみたいでお話されている最中に拍手も湧いたりして。アンコールの曲目がうまく聞き取れなかったんですが、出だしですぐわかって「あっ、うわ〜『こうもり』だ、最高!」でした。なんと奇遇なことにクライバー指揮のJ・シュトラウス『こうもり』のCDをちょうど聞いたばかりだったのですよ。もうそれでうれしくなってしまい、ノリノリで聞いてしまいました。この曲はノリノリで聞かなくちゃな曲ですものね。

で、気分高揚なところに、今度はイェンセさん登場。レハール『メリー・ウィドウ』を楽しそうに朗々と歌われた日にゃ、もうがっちりハートにがんがんに響いてまいりました。男性パートをオーケストラの管楽器担当の数人で歌われてたのですがこれまた上手で驚き。楽しい、楽しい〜!。大満足でございました。「楽しかった〜!」、とにかく今回の演奏会はそれに尽きるかも。

曲目:
R. シュトラウス『交響詩「死と変容」作品24
R. シュトラウス『四つの最後の歌』
L.v. ベートーヴェン『交響曲第5番「運命」作品67
アンコール曲:
J・シュトラウス
『こうもり』序曲
レハール
『メリー・ウィドウ』から


2004.07.03

板橋区立文化会館 『歌舞伎巡業 東コース』1等前方下手

『双蝶々曲輪日記 引窓』

『二代目中村魁春襲名披露 口上』

『仮名手本忠臣蔵 道行旅路の花聟 落人』


2004.06.13

歌舞伎座『六月大歌舞伎 海老蔵襲名披露 夜の部』 一等二階真ん中中央

今回は復活の雀右衛門さんのおとく(『傾城反魂香』)がやっぱり素晴らしく、菊五郎さんの忠信(『義経千本桜』)がさすが当たり役だけあってひさびさの大ヒット。一番期待していた『助六』は脇に大スターが総出演でそれぞれに見応えがあり派手で楽しかったんだけど物足りなさが残った。

『傾城反魂香』
この演目は歌舞伎座ではよくかかる演目で何度も観ている。吉右衛門さん、雀右衛門さんの又平、おとく夫婦ペアも以前に観ていて、今までのなかではベストカップルだったのだがやはり今回もとても良かった。

特に雀右衛門さんが又平代わりに必死で訴える様や、一緒に死を選ぼうとするその心情まで、一途に旦那を思う情愛がさりげなく、それでいてたっぷり感じさせて胸に染みる。

吉右衛門さんは以前のどちらかというとユーモラスに演じた時よりどもりという障害への悲哀を少し浮き立たせた感じだった。それがいやみになる手前で押さえ命がけの必死さを見せる。私としては前回の又平のおおらかさが好きだが、よりリアルな心情が伝わってきた今回であった。

そういう部分では段四郎さんの師匠、土佐将監の厳しさが納得できるものだったせいもあるのかもしれない。今回初めて「氏名」を与えるために何か必要かをしっかり分かったような気がする。また今回の厳しい土佐将監に対して奥方の吉之丞が思いやりのある優しい奥方でとてもバランスが良かった。友右衛門の修理助がしっかりしているなかに、きちんと幼さが残っているのにちょっと驚く。京屋さんは「若い」を演出するのが上手なのかも。

『義経千本桜 吉野山』
菊五郎の忠信がさすがであった。あまり狐ぶりを見せるわけではないのにちゃんと狐に見えるのがすごい。また踊りが華やかで観ていてうきうきする。

静御前の菊之助は顔の作りが美しく花道の出では歓声があがったほど。それで期待したのだが、踊りが菊五郎さんとどうも合わない。たっぷり華やかに踊っている菊五郎さんに対して、付いていけてない感じ。どこが?と言われるとよくわからないのだがポーズひとつひとつがちょっと流れてしまってる感が。あと、脇で控えている部分が腰が高すぎるし姿があまりきれいじゃない。ただ立ってるだけじゃダメだと思う。きちんと忠信を見ていないといけないと思うのだが気持ちが入ってるようには見えなかった。

『助六由縁江戸桜』
脇のアンサンブルが見事で襲名披露を盛り立てるベテランたちの芸の確かさを今回も感じた。特に玉三郎の揚巻の姿の美しさは形容しがたいほど。啖呵をきるシーンはぞくぞくするほどカッコイイ。ポーズひとつ取っても絵になる美しさ。白酒売りの勘九郎さんが想像以上に彼独特の愛嬌が役にあってて出てくるだけで場を和ませる。

肝心の主役の海老蔵の未熟さ加減がストレートに出すぎ。いわゆる姿はとっても柄に合ってて、華もあるし色男の助六にはピッタリな風貌で花道の出はそれはそれは良かったんですよ。だけど声を発した途端に、ガクッ。セリフ回しのダメさ加減がいつもより悪く出てるわ、それ以上に、形の悪さはどうしたものかと。とてもきれいに型を整えることができるはずの海老蔵がメタメタだった。大きさが全然ないのはどうしてよっ。まだ若いんだから粗があるのはしょうがないけど、その代わりのパッションが感じられないようでは…。2ケ月目の半ばで疲れているのかもしれないが、若いんだから踏ん張ってほしい。


2004.05.20

歌舞伎座『五月大歌舞伎 海老蔵襲名披露』 一等一階上手前方

歌舞伎座は平日だというのに桟敷席下の通路にも補助席を出すほどの人出。歌舞伎座がこんなにすさまじく混んでいるのは初めてかも。まあ、話のタネになるし一度観てみようかという感じの団体客多数、初心者多数という感じでした。そうかチケット入手困難はこの成田屋後援企業の団体客かと納得。しかし歌舞伎に興味を持っていただくのはいいけど私語に夢中だったりなマナー違反者も多数でちょっと悲しかったかも。にしても上演中、まったく舞台を観ないで筋書きを必死に読んでいる方はどういうつもりで来たのでしょう…。せっかく来たのに、あんなに良い席なのにと気になって気になって…海老蔵をただ見たというだけで満足なんでしょうか。ちょっと愚痴でした。

さて、今回は今年の一月歌舞伎に連れて行ってすっかりハマってくれた歌舞伎初心者二人と一緒の観劇でした。二人は「海老蔵きれいー」「菊之助かわいい」と最初のうちは役者を近くで見れることに単純に喜んでくれていたのですが、『勧進帳』『新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎』ではすっかり内容に没頭していたようでした。そして「三津五郎さん、すごい、すごい。感動しちゃった〜。」の連発。玄人好みの演技と言われている三津五郎さんだけど、あの気迫やうまさは初心者でもわかるのねえ、ととてもうれしくなってしまった。

『碁太平記白石噺』「新吉原揚屋の場」
かなり古い時代浄瑠璃もので、すでに通しでは上演されず七段目の「新吉原揚屋の場」のみ上演されている。その七段も滅多に上演されない演目になっている。確かにこれは難しいかも。動きがほとんどなくほとんど義太夫の語りで話が進む。浄瑠璃に慣れていないと、眠気が襲ってきてしまうかも…案の定こっくりこっくりしている人が。このところすっかり義太夫の面白さに目覚めた私だが、それでもあまりのゆったりとしたテンポに、「これは初心者には難しすぎるっ」と途中、余計な邪念が入ってしまうほどであった。滅多に観られない演目だから寝るにはもったいなさすぎ、と必死に観てましたが、途中半分は語りの葵太夫さんに意識がいってた(笑)。

雀右衛門さんが体調不良のため時蔵さんが代役で主役の傾城宮城野を演じる。時蔵さんは複雑な心境を見せる宮城野を丁寧に演じてとても美しく、牡丹の花のようである。ただ、傾城として花開いたという役柄にしてはちょっとあだぽい色気があまり無かったかな。また動きが少ない分、もう少し「魅せる」ための求心力が欲しいところだが、その部分がちょっと欠けていたのが残念。佇まいだけでふわ〜っとした色気をみせる雀右衛門さんが演じていたらどうだっただろうとつい考えてしまったが今回はそれは贅沢な望み。

宮城野の妹の田舎娘、信夫に菊之助。方言丸出しの田舎娘らしいドンくささと一途な健気さが同居した可愛らしい娘になっていた。『先代萩』の松島では未熟さが出てしまっていた菊之介だが、娘役となると役柄にうまくはまることが出来るようでとてもいい出来でした。

揚屋の主人、惣六に富十郎さん。体調が良くなってきたのでしょう、口跡爽やかなセリフが心地よい。ちょっとした出でも大きな人間という印象を与える存在感も素晴らしい。

『十一代目市川海老蔵襲名披露 口上』
団十郎さんがこの場にいないのが寂しかったけど周囲の方々が一生懸命、新海老蔵を盛り立てていて「海老蔵襲名」に立ち会っているのだなあとの感慨が。それにしても女性問題のこととか、破天荒な性格のこととか、結構言いたい放題言われていたかも(笑)。幹部の方のなかでは仕切りをされている雀右衛門さんが祖父の九代目の思い出話をされていて、「こうやって続いていくのだな」としみじみして良かったなあ。お話はやはり幹部の方々のが重みがある。そういえば、雀右衛門さん、ところどころ言葉がつっかえていらしてちょっとお辛そうでした。体調が気がかり…大丈夫かしら、無理しないでほしい。肝心の海老蔵のにらみは端っこだったので奉書を載せた三方に邪魔され一瞬見えないかと焦りましたが、なんとかぎりぎり横顔をみる事ができました。だって、にらんでもらわないと邪気を払ってもらえない。

『勧進帳』
最初は団十郎さんの情たっぷりの弁慶を観たい、代役の三津五郎さんは線が細いし役柄に合ってるのかな?と少々不安な気持ちで観始めたのだが、この三津五郎弁慶が素晴らしかった。指の先の先まで美しい型を作り、小さい体をより大きく見せる。そしてなにより「弁慶」としての主君のために命をかけて臨んだ富樫との対決の場のなんともいえぬ緊張感と気迫が素晴らしく、こちらも息を呑んで見守る。弁慶としてのオーラをどこからか引き寄せてきたような凄まじさでありました。弁慶であんなに集中し緊張しながら観たのは初めてだ。また富樫から見過ごしてもらった後の主君、義経との情溢れるやりとり、そして富樫から酒を振舞われ踊る延年の舞の美しく情感がこもった踊りは言葉に出来ないほどの感動を覚えました。そしてそこでも絶えず義経に気を配ってる風なのがまた素晴らしく、先に発たせた義経たちを追いかけての飛び六法での引っ込みも気迫に溢れとても美しい引っ込みだった。凄まじいまでの気迫さが命を賭けている「弁慶」の気持ちとしてストレートに訴えかけてきて知らず知らず涙がこぼれてしまった。小柄で線が細くても「弁慶」はできるのだ。こういう弁慶のありかたがあるのだと、本当に感動した。

新海老蔵の富樫は姿がまずとても美しく、それだけで満足かなー、とちょっと思ってしまいましたが声を出し始めると台詞廻しがいまひとつ。型をとてもきれいに作っているのは非常に良いんだけど、そこにきちんと台詞をのせていかないと「富樫」にならない。声はよく通るのだが疲れもあったか、無理している感じがありあり。また弁慶の主君への想いに感動する場などは感情を露にしすぎて甘すぎ。複雑な肚を持たないといけない役なので難しいとは思うが、まだまだ精進が必要だなと。父団十郎さんのどこか鷹揚としている弁慶に相対していたのならば、もしかしたらその未熟さもありだったかもしれない。が、代役の三津五郎さん弁慶のぎりぎりまでに神経を鋭くした弁慶と相対してしまうと未熟な部分がハッキリと見えてしまう。

義経の菊五郎さんは柔らかな持ち味を生かしてとても上品で情のある義経であった。周りの役者も揃っており襲名披露を盛り上げるにいい舞台でした。

『新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎』
妹が殿様のお手打ちにあったと聞いて一家は沈んでいるのだが、なんとか気持ちを盛り立てようとそれぞれが必死になっている様子がおかしくもあり切なくもあり、という世話物。

大役の弁慶に続き、三津五郎さんが宗五郎を演じる。だ、大丈夫なんでしょうか?とこちらが心配してしまうのだが、三津五郎さんは荒事の雰囲気をすっかり消して世話物の登場人物として登場しお見事。恩義を感じている殿様への義理と妹が可哀想という狭間で心揺れる宗五郎を三津五郎さんはキメ細やかに演じていた。このお話は『新皿屋舗』と題名がつくだけあって殿様の磯部主計介は『番町皿屋敷』の青山播磨がモチーフだ。四月に播磨をやった三津五郎さんが、今度は殿様を責める側にいるというのが面白い。

宗五郎を気遣う、女房おはま役の芝雀さんが深い情愛があってとてもいい女房を演じていた。芝雀さんは白塗りのお役しか見たことがなく世話物のしかも女房役で最初驚いたのだが、やはり切々とした情愛を感じさせるお役がとても上手だ。また、酒に酔って殿様のところへ直訴しに行ってしまった後を追う場の引っ込みのきっぱりした姿がまた素敵。ああ、芝雀さんはもっと認めてもらっていい女形だと思う。芝雀さん、好きだなあ。しかしいくらでも美しく化粧をできる方が「ほとんどすっぴん系の普通の女房」なお顔だったのがちょっと寂しい。美人な女房でもいいじゃん、とか…。

三吉役は松緑さん。柄にはピッタリなんだけど、もう一歩。声が大きく聞き易いのはいいのだけどセリフに情感をこめるのがどうもまだまだのようである。やりようによってはかなりの儲け役になりそうな役柄なのにもったいないことである。世話物の難しさなのだろう。

菊之助のおなぎはピッタリ。友人を亡くした悲しさと、理不尽にも殺された友人への義憤のないまぜな表情がいい。また世間知らずなお嬢様ぽい風情がまたよし。

不幸の元凶の殿様、磯部主計介に海老蔵。まあ庶民に殿様が謝るといった役どころではあるが、最後の最後で華を添えるといった役なのでしどころはなし。でもこういう役にきちんと出るところに好感を持つ。


2004.05.15

ル テアトル銀座『ピーター・シェファー作アマデウス』 一等下手前方

サリエーリ(松本幸四郎)、モーツァルト(市川染五郎)、コンスタンツェ(馬渕英里何)

ひさびさに舞台での染五郎を観たくて行ったのだが、松本幸四郎という存在のすごさに圧倒させられた舞台であった。これを観たらサリエーリという役を他の役者がやる、というイメージがまったく湧かないほど幸四郎と「サリエーリ」は同化していた。またすさまじく膨大なセリフを流れるように操り、しかも老人と壮年の声色を巧みに変化させ、ほとばしらせる。そしてそれらひとつひとつの言葉に意味が載って、観ている側に怒涛のように押し寄せてくる。舞台でこれほど「言葉」を明瞭に意識させられたのははじめてかもしれない。ピーター・シェファーが作り上げた『アマデウス』という舞台の脚本の質の高さをまず感じ、それを自在に操る松本幸四郎という役者の底力を感じ鳥肌がたった。全編出ずっぱりで、一人舞台とも錯覚させるような存在感。

舞台が始まる前から舞台の道具のように微動だにしないで椅子に座っていたことを知った時には「役者の業」に触れたような気がして戦慄すら覚えた。観始めた時はただただすさまじい…としかいいようのない空気を感じたのだが、またそれが「モーツァルト」への妄執に取り付かれた「サリエリ」を演じるうえでの狂気を演じていたからこその空気感であったことも知る。老人から壮年へ軽やかに変わると同時にその雰囲気は変わり、滑稽味さえ感じさせるキャラクターへと変貌。また、指先まで神経細やかな立ち振る舞いの美しさはなんともいえない。それでいながら「サリエーリ」の俗な性格さえも感じさせるのだから大したものだ。

対する、モーツァルト役の染五郎も大健闘だった。端正で美しい外見と傍若無人な子供ぽい中身のとギャップを、ステップを踏んでいるような動きと独特の甲高い笑い声でうまく表現していた。特に、笑い声は映画で演じていたトム・ハルスもかなりインパクトのある笑い方をしていたが、それをまねているのではない染五郎独自の笑い声にきちんとしていたのがすごいなと。かなり猥雑なセリフがぽんぽん飛び出してくるのだがそのなかに言葉遊びの部分があるというのがきちんと表現されておりヘンに下品にしてない。子供ぽい表情が豊かで可愛らしく、拗ねた顔なんかはつい真似をしたくなった(笑)。また父親に対する想いや自分の音楽に対する強い想いが入るセリフは深い感情に溢れ胸に染みる。存在感という部分では幸四郎さんには及ばないものの、的確なキャラクター造詣はこれからますます楽しみな役者として認識させるに十分でした。役者としての染五郎はやっぱ好きだなー。

コンスタンツェ役の馬渕英里何は気の強い今どきな女性として演じていた。一筋縄じゃいかなそうな部分はピッタリではあったが、セリフが少々一本調子。もっと緩急をつけてもらいたかったかなー。甘える部分などはもっと可愛らしい感じにしたほうがより説得力があったような気がする。またモーツァルトが亡くなる寸前のセリフがあっさりしすぎ。あの部分が感情豊かだと盛り上がっただろうと思うシーンだったのでかなりもったいない感が。


2004.05.11

帝劇『エリザベート』 S席1階12列目

エリザベート(一路真輝)、トート(内野聖陽)、ルキーニ(高嶋政宏)、ヨーゼフ皇帝(鈴木綜馬)、ルドルフ皇太子(浦井健治)、エルマー(今拓哉)、ゾフィー(初風諄)、マックス(村井国夫)

内野聖陽(@宗方コーチ)トートVer.でございます。ミュージカルはひさびさで楽しかった。主役(エリザベート)に感情移入出来なかったのでハマるまではいかなかったけど内野トートと浦井ルドルフにちょっと惚れました(笑)。曲の良さにCDが欲しくなったけど、色々ありすぎてどれを買っていいかわからない。

ミュージカルを観るのは何年ぶりだろう。もう4、5年は観ていないはず。どうやらミュージカルの基本を忘れ去っていたようでセリフのほとんどが「歌」というのに最初戸惑う(笑)。しかし9.5割が歌のミュージカルも珍しいよね?。ほとんどが歌だけの『エリザベート』ナンバーはかなり耳なじみしやすくていい曲が多かったです。ストーリー内容に関してはまあ実在の人物のお話なのでそこら辺よく噛み砕いてお話を作ってるなーとの印象。エリザベートの自由を求める気持ちとそこに伴うエゴイズムとの両方が描かれていました。前半は皇室のなかの窮屈さとそれに抗うエリザベートという部分で今の日本の皇室と重ねて観てしまったりしてそれなりにエリザベートの気持ちに添えたんですが後半かなり自分勝手さが前面に出てて18年も放浪の旅に出てたつーのは育児放棄では?とか随分と自分勝手な女だなあとか思ってしまいちょっと感情移入できなかったのが残念。基本的には少女マンガちっくな部分があるお話だし、ミュージカルだし、史実通りじゃないんだし、もう少しエリザベートの性格を可愛らしくしてもいいんではないかしら、とか。

さてこれからが本題(笑)?。今回なぜこれを観るにいたったかと言うと内野トートのジャイアン(@ドラえもん)と噂のオンチぷりと振り付けが可笑しすぎると噂のトートダンサーズ目当て。笑う気満々で行った私たちはかなり邪道です…。

で、ワクワクドキドキの内野さんの歌のシーン。「あれ?普通に上手なんですけど。しかも声がとっても良いし、歌詞がハッキリわかって一番セリフとして歌が聞ける」でした。前回からかなり上達したんでしょうかね。歌がうますぎる山口祐一さんと較べられたのが不幸だったのか、よほど練習したのか。それともミュージカルから遠ざかり舞台の歌と言えば劇団☆新感線な方々の歌という私の耳がかなり内野さんの歌に甘いとか(笑)。それにしても内野さんは噂通りエロいほどの色気がありました。ひとつひとつの仕草が色っぽい。手が優雅にひらひら動いているし表情もくるくる変わるのでついつい目線は内野さんへ。死の帝王なんだけどなんとなく母性本能くすぐる系表情もあったりして、エリザベートよりよほど恋する乙女な雰囲気があった…いいのか?。でも後半の大胆不敵なニヤリは悪の魅力満載だし、とにかく低い声がかなり素敵で私的にタニス・リーの闇の公子を思い出してみたりして。宗方コーチとは別人な雰囲気が見事。で、内野トートには笑かしてはもらえなかったけどかなり満足しました。

期待通り笑えたのはトートダンサーズでした。予想以上に「ヘン」なんですがっ。前回の振り付けとはどうやらかなり違うらしいのですが、でもあのカクカクした微妙な踊りは面白すぎ。出てくる意味あるの?といった「わらわら」ぶりが笑いのツボに入り堪えるのに必死でした。

観にいった友人と一番良かったとねと言ったシーンはトートとルドルフのデュエットシーン。浦井くん可愛いしー、高めの声質がなんともいえず、また内野さんの声質ともピッタリで一番聞き応え&見ごたえがあって結構感動。他のシーン削ってトートとルドルフの絡みをもっと増やせばいいのにと感想言い合う私たちはフジョシの素質あり?…をい。

ルキーニの高嶋兄さんもうまかった。でもかなりの道化役で「へえ、こういう役もやるのかー」と驚きも。ルキーニという役はスマートに出来そうな役柄なので演出かな?。私的にはスマートにやったほうがお話として引き締まりそうな気がしました。

あっ、肝心の主役もやっぱり上手でした。第一部はちょっと10代には見えないね…な部分がありましたが第二部に入っては堂々たる主役ぶり。あーでもやっぱりエリザベートの性格が苦手だったかも…。弱い部分があまりみえなくて強すぎるんですよねー。

まあ、最初の目的が目的だけにちょっと邪道な見方だったかもしれませんが思ったより普通に楽しめたミュージカルだった。山口祐一郎さんVer.の歌もちょっと聞いてみたいかも。それと海外ver.はすごく観たくなった。演出は日本とは違うよね?まさかあんな少女マンガチックにやるとは思えない。トートのコスプレはどうみても日本の少女マンガだよ。あとトートダンサーズの存在もいるのかどうかも知りたい。


2004.05.03

横浜みなとみらいホール『マウリツィオ・ポリーニ ピアノリサイタル Aプログラム』 A席2階RA2列目

なんというか思っていた以上にすごい体験でした。今まで聴いてきたピアニストといえば、バックハウス、ホロビィッツ、ツィマーマン、アシュケナージ、若手ではキーシンあたりだったんです。なぜかポリーニには縁が無くつい最近まで聴いたことがなかったのです。それがたまたま5月に来日というチラシをみてなんとなく彼のショパンとベートーヴェンのCDを手に取ったら、私が今まで聴いてきたショパンやベートヴェンのイメージからはかなりかけ離れた演奏で本当にビックリ。力強くダイナミックな演奏はとにかくすごいとしか言いようがなく、好きとかそういう範疇を超えて気になる演奏家となりました。で、やはり生で聴いてみたい。でももうチケット完売だし、どうせ高すぎるしねで、まあ諦めていたんですが、ヤフオクをのぞいているうちについポチっと入札してしまいました(笑)。でも行けて良かったと心の底から思いました。用事ができて手放した方に大感謝ですよ。

席が2F席でちょうどポリーニさんの背中の斜め上。指遣いはハッキリ見えるし、音も下からドーンと聴こえてくるかなりのBestポジション。ポリーニさんは私が好きだなあと思う端正で柔らかい音を出すタイプのピアニストではなかったのですが、それでも最初から音そのものに引き込まれて大興奮。しかも私が今まで苦手系だった現代音楽のシューンベルクの音楽がとっても楽しく聴けたのが自分的にうれしかった。あのダイナミックな音色だからこそ楽しめたような気がします。ポリーニの音はとても独特でした。何層にも音が重なり、とても鋭角的なきらめきがありそしてひとつひとつの音が力強く圧倒的な力で迫ってくる。

ベートーヴェン7番、8番では音に体を持ち上げられるような気さえしたくらいです。たぶん、かなりテンポが速い演奏だったように思いますがその勢いがこちらの体の芯に響き、音を内から感じさせてくれたというか。なんと説明すればいいのか…難しい。ラストのシューマンの夜想曲まで弾くたびに勢いはますます増し、聴いてるこちらはただ興奮しっぱなし。それにしても指遣いがすごすぎてそれにも驚かされました。とても大きな手をされていて、早いタッチの部分では指先が独立して動いているのではないかと錯覚しそうになりました。「ミギーだ」ととっさに思う私…なんちゅう喩えだ…。アンコールはシューマン1曲とショパン2曲の大奮発。これまたすごかった。「な、なんですか?これ」(驚)って感じ。ああ、ダメだ。私の言語能力ではうまく説明できません。

<<曲目>>
シェーンベルク:6つのピアノ小品 op.19
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第7番 ニ長調 op.10 No.3
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 op.13「悲愴」
シェーンベルク:3つのピアノ曲 op.11
シューマン:幻想曲 ハ長調 op.17

<<アンコール曲>>
シューマン : 幻想小曲集 第2番「飛翔」
ショパン : 夜想曲 第8番 op.27-2
ショパン : 練習曲 op.10-4


2004.05.01

新国立劇場 中ホール 劇団☆新感線『髑髏城の七人 アカドクロ』 S席下手真ん中

劇団☆新感線が大きくなるきっかけになったお芝居ということで楽しみにしていました。ああ、やっぱり面白い。基本的な部分は「友情」「縁(えにし)」「矜持」「男の純情」「お笑い」と、だいたい同じ路線の芝居なんだなあという感じはありましたがそれでもやはり観ているうちにドキドキわくわくハラハラ。とりあえず帰ってきた梶原善が素晴しかったです。ハリのある声と渋いながらはじけてる演技が印象的でした。

アカで良いと思ったのは断トツに贋鉄斎@梶原善さん。おちゃめさと老獪さが同居している独特のキャラを作っていたし、なによりセリフの明快さが素晴らしい。あと、おっ、と思ったのは蘭兵衛@水野美紀の華ときれいな動き。ただセリフが弱めなのがもったいない。沙霧@佐藤仁美と極楽太夫@坂井真紀は声は通っているし動きもいいのだがなんせ華がない&キャラとしての感情が追いついてなかったように思う。これはまだ舞台がこなれてないところから来てるのが分かったのでたぶん、もっと良いものになったろうなという想像はついたんだけどね。狸穴二郎衛門@佐藤正宏は前半よかったんだけど後半が息切れしたわけじゃないと思うが台詞が弱くなってた(肝心なシーンの台詞が聞き取りにくかったのだ)。

期待してなかっただけに予想以上に良かったのは裏切りの三五@河野まさとさんと磯平@礒野慎吾さん。この二人はほんとに良い味だしていた。動きといい、キメるときの台詞といい、ピンポイントできっちり演じていて目立ってた。

兵庫@橋本じゅんさんはもっとできるだろうと期待しすぎたせいの物足りなさだったかな。動きはもう楽しくて、「ああ、じゅんさんだー」で満足だったけど、仲間を殺されての慟哭のシーンはもっと泣かせてよ、というこちらの先走りな期待が…。たぶん、後半よくなっていたと思う。評判良かったから。

それ以上に物足りないと思ったのは古田新太さん。主役の台詞がきちんと台詞として届かなかったのが大きい。雰囲気はとても良いのにまともにセリフが聞こえないんじゃやはり舞台としてどうよ?と思うのだ。古田さん、もうちょっと台詞回し方法を考えてください。TVでの古田さんはすごーく好きなので舞台でイマイチと思ったのはセリフ術の弱さにあると思う。ところどころ何言ってるのかわかんないんだもの(^^;)。席が1Fのかなり良い席だったから、これにはちょっとガックリしました。女好きでエロおやじ、だけど優しくてまっすぐな捨之介ってキャラにはすごく合っていて感情の振れ具合もいい感じで出してるのにーー。あとは台詞をもっとハッキリしゃべってーー。天魔王のほうはキレ具合が足りませんでした。捨之介のキャラに引きずられたのか恐いというよりおバカな悪役感が…。もうちょっときちんと演じ分けてほしかったな。せっかくの信長の影武者という部分での絆とか妄執とか哀しさとかがあまりみえなかったのがドラマとしてはもったいなさすぎ。

あと一番の問題はほんとうの脇役の方々。色んなことをやらないといけないので動きが中心になるのはわかるが、台詞、全然聞こえてこないし、わからなすぎ。これでいいのか?確かに重要な台詞はないし、ストーリーは動きでわかる。でもやっぱり言ってることが聞こえないストレスは観客として大きいのです。


2004.04.21

東京文化会館大ホール 『アレクサンダー・ギンディン コンチェルトの夕』 A席真ん中前から2列目

オーケストラは東京都交響楽団。アレクサンダー・ギンディン(ピアノ)は聴いたことがなかったのだが、17歳でチャイコフスキー国際コンクール最年少入賞という経歴で華やかな音色のピアニストかな?という期待と曲目が私の大好きなラフマニノフ『ピアノ協奏曲第三番』だったのでひさびさに生で聴きたいなとチケット購入。すでにあまり良い席が残っておらず、オーケストラなのに前から3番目。まあ、近くで聞くのもいいかなと思ったんだけどなぜ前の列がS席じゃなくてA席なのがよくわかった日でありました(笑)。席が前すぎるとひとつひとつの音の響きはわかるけど、交響曲としてのまとまりのある音色が聴けないんですね。演奏者の息遣いや、ハミング、鼻をすする音まで聞こえちゃうし(笑)。

最初の演目はムソルグスキー「交響詩『はげ山の一夜』」。東京都交響楽団はかなーり以前に一度聴いたような気がするんだけど、どういう演奏だったか記憶なし。よく聴き慣れたおなじみの曲だけに東京都交響楽団のレベルがわかるだろうと臨んだら、むむっ、ひどい…いくら前の席で聴いたからといってもまとまりが感じられず音も濁ってるというか迫力も欠ける。これは、私の知り合いのアマのオーケストラのほうがもしかして良いかも?な感じで大ショック。母も同様に感じたらしく、「席が悪いせいだけじゃないよね?」と首をかしげる。次の曲がとっても心配。

ちょっと不安な気分で二曲目ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第三番』を聴き始めましたが、おおっ、ギンディンさんのピアノの音が素敵です。最初はちょっと硬いかなと思いましたが、曲が進むにつれ柔らかでありながら骨太でかつ華やかさもあって、しかもなんというか叙情性に溢れる素敵な音色になっていきました。また曲のもつドラマチックさに気持ちを湧きたてられ、すっかりこの曲の世界に没頭して聴くことになりました。この曲の華やかさと熱情的なものが見事に表現されていたと思います。ああ、やっぱりこの曲好きだなあ。ギンディンさんの演奏はかなり私の好みでした。オーケストラのほうも1曲目とは段違いにいい演奏をしていたと思います。

唯一、気になったのが鼻を啜る音(笑)。アレクサンダー・ギンディンは興奮してくるとかなり息遣いが荒くなるというか、ズーハースハーしておりました。しかも興がのってきたあたりから、部分部分でハミングしながら弾いていたのがちょっと驚きました。あの難曲を弾きながらハミングかー、ただもんじゃないなとか思いましたことよ。でもそういうものが途中から全然気にならなくなりました。それだけ曲に引き込ませる力があったということでしょう。次の曲ムソルグスキー「組曲『展覧会の絵』」もギンディンさんのピアノで聴けると思っていたら私の勘違いで、『ピアノ協奏曲第三番』一曲だけでした。ガッカリでしたけど、その代わりにアンコールを二曲も弾いてくれました。これがまた素晴らして感動。すっかりファンになってしまいましたよ。

三曲目のムソルグスキー「組曲『展覧会の絵』」(ラベル編曲)も超メジャーな曲。曲の面白さはかなり堪能できました。特に弦楽器のまとまりは素晴らしかったです。がっ、管楽器が弱すぎ&不安定すぎっ。うわーん、この曲で管楽器が弱いなんでダメじゃん。東京都交響楽団はやはりソリストのバックにつくタイプのオーケストラなのかなー。オーケストラ単独で聴かせるにはちょっとバランスが悪いなあ。むーん、『ピアノ協奏曲第三番』で見直したんだけど。

ということで、オーケストラのほうは少々気になったけど、アレクサンダー・ギンディンが素晴らしかったので大満足。やはりクラシックコンサートもいいなあ。生の演奏の臨場感はCDでは味わえないし。


2004.04.17

2004年 歌舞伎座 『四月大歌舞伎 昼の部』 3等A席上手寄り後ろ

最初の演目の『番町皿屋敷』は怪談ものだと思っていたら男女の愛憎物語だったんで驚いた。あのくらいでお菊を殺すなんて可哀想だわ、と思いながら観ていたら、「お菊、性格わる〜」「俺でも殺すね」って男子若干2名の感想。「ええっ、そうなの?そういうもん?。お菊の立場も考えてやってよー、つーか殺さなくても…。」と男女で意見が分かれた内容でした。ふむ、こうやって意見が分かれて感想言い合うのも楽しいかも。怪談もののほうも観て見たい。

あとは『棒しばり』『義経千本桜 渡海屋・大物浦の場』とバラエティな演目がならんでて色々と面白かったっす。でも、勘九郎さんのオーバーアクトはちょっと?な部分もあったなあ。基本的にうまい役者なので、オーバーアクションするとくどくなるんだよねえ。勘九郎さんは押さえ気味の演技のほうが好き。やりすぎな部分を見せられるとちょっと白ける。三津五郎さんと仁左衛門さんはさすがだなという感じ。インパクトととしては福助さんのお菊がある意味「女」以外のなにものでもなかったのが、すごかった。

『番町皿屋敷』

『棒しばり』

『義経千本桜 渡海屋・大物浦の場』


2004.03.21

2004年  歌舞伎座『三月大歌舞伎 夜の部』 三等A三階前上手寄り

『大石最後の一日』『義経千本桜 「木の実」「小金吾討死」「すし屋」』をかなり感動しながら見ました。幸四郎さんが昨年あたりから俄然いい状態になっているみたいで存在感が増してきているし、ひさびさの孝太郎さんが健気な娘役を頑張っていた。また、仁左衛門さんは上方ならではのうまい演出と芝居を見せてくれて、秀太郎さんのさりげなくも味のある女房役が素晴らしかったりして大満足。

『元禄忠臣蔵』「大石最後の一日」
この演目は幸四郎さん、吉衛門さんの両方で以前も観ている。わかりやすいし泣けるんで新歌舞伎のなかではわりと好きな演目。やっぱり今回もホロッときちゃいました。いつも観てもうまくまとまったお芝居だなーと思う。今回も非常にバランスのいい配役ということもあり役者たちのセリフのひとつひとつがきっちり届く。幸四郎さんも当たり役だけあって見事な大石だった。最後の引っ込みの泣き笑いが素晴らしい。おみの役の孝太郎さんもいじらしく、磯貝の信二郎さんも端正に演じてて好感。

『達陀』
歌舞伎には珍しい大人数での舞踏ということで楽しみにしていたんだけど、私の好きなタイプの舞踏ではありませんでした。皆さん、頑張って踊っているのはわかったけど、ほとんど印象に残らず。

『義経千本桜』「木の実」「小金吾討死」「すし屋」
仁左衛門が上方形式で権太を演じる。ちょっとわかりずらい場と思っていた
「木の実」「小金吾討死」「すし屋」の流れがとてもわかりやすく、すっかり感情移入しながら観ることとなった。しかし仁左衛門さんは相変わらずひとつひとつの型がきれいだわー。上方形式のくどさも仁左衛門さんだとそれほど感じないのは何をやっても品の良さがにじみ出るからなんだろう。

小せん役の秀太郎さんが相変わらずうまい。姉さん女房な色気と強さのバランスが見事。権太の父、弥左衛門の吉弥がこのところ充実している。子を思う切ない老父役はこの人ならではの味わいがある(この役を最後に亡くなられた…もったいないことである。ご冥福をお祈りします)。

小金吾の愛之は姿が美しく若武者風情がよく似合うけど立ち回りはちょっとくどすぎたかなー。もう少しすっきりやったほうが哀れさがでて良かったかも。お里役の孝太郎さんは可愛らしいけど声のトーンが張り切りすぎ。もう少し押さえてもよかった。「大石最後の一日」のおみの役がよかっただけにちょっと残念。「びびびびー」の部分は弾けてててちゃんと意味がわかって聞けたのは良かった。いままでこの部分はいつも「??」だった。あそこははじけてないと「あっかんべー」にならないのだな。


2004.03.14

2004年  歌舞伎座『三月大歌舞伎 昼の部』 一等一階花道寄り真ん中前

『伽羅先代萩』「花水橋」「竹の間」「御殿」「床下」

菊五郎が政岡を演じるのはそうそう無いだろうからと期待した演目。

第一幕「花水橋」
頼兼役の魁春さんが楚々とした雰囲気の女形というイメージがあるので男役はどうかな?と思っていたのだがなかなかに殿様風情に合ってて良かった。ちょっと抜けた感じが可愛らしいし、風格もある。絹川役の松緑さんは荒事扮装が似合う役者になりつつあるなあと思わせてくれたけど、セリフがまだまだなのと、ちょっと無難すぎて印象がちょっと薄い。姿はいいのにキメの部分がまだ弱いのかな?

第二幕「竹の間」「御殿」
なんだかフジテレビ「大奥」ぽいなあと思ったのは内緒(笑)。楽しみにしていた場だったがなんというか緊迫感がもうひとつだったなあ。役者が揃っているので期待していたんだけど、なんというかまとまりが感じられない。まず菊五郎の政岡が子供への情愛はたっぷりあったように思うけど、女傑としての芯があまり感じられず、それゆえに「悲痛さ」もどこか上滑り。むーん、なぜにして。やはりこの役は真女形がやったほうが説得力があるような気がした。八汐の段四郎さんは凄みが足りない。愛嬌のほうが勝ってしまう。もっと憎憎しげに、いじわるそうにやってもいいなあ。しかも受けにまわりすぎてちょっと表面的というか、もう少し芝居のしようがあったと思う。

沖の井の時蔵さんは連番状を後ろ手に持つシーンなどキメの姿がきれいで一番役に沿っていて良かった。でも、この方ももう少し前に出る芝居をしたらもっと良くなりそうと思った。所作の美しさはやはり真女形だけあってほんとにきれいだったなあ。 儲け役の松島役の菊之助はまだまだというか未熟さが際立ってしまっていて残念だった。セリフがいっぱいいっぱいで、所作を考える余裕なしという感じ。しかも、鬘が浮いてしまっていて違和感がっ…。お局役には早すぎたか?。いいなと思ったのは栄御前の芝翫さん。格のある役だと出てきただけでわからせるその雰囲気が素晴らしい。しかも威厳がありながら、ちょっとした人のよさを垣間見せそのせいでかえって栄御前が一筋縄でいかない役になっていてさすがだなと。

子役二人が頑張っていただけに、もったいないなあと思った場でした。

第三幕「床下」
荒獅子男之助の富十郎さんは病後とは思えないほどの勢いがあって今後も期待できそうなのがうれしかった。そして蝋燭の火に灯されゆらりと花道から出てくる仁木弾正に幸四郎さん。見事に異様な雰囲気を出してきて、うーむと唸らされた。このオーラは幸四郎さんならでは。もっと幸四郎さんの仁木弾正を見たいです。「床下」だけの場だけなんてもったいなさすぎ〜。

『藤娘』
芝翫さんの藤娘はとても芝居的な踊りでした。ちょこちょこと歩く姿や首を傾げる様がとても可愛らしい。それにしてもやはり同じ踊りでも役者によって本当に雰囲気が変わりますねえ。

個人的には童女のような可愛らしさとふんわりとした色気があった雀右衛門さんと恋情が見えたあだぽいっ色気のある玉三郎 さんのが好きです。

『恋飛脚大和往来』「新口村」
うひゃあ、なんなのこの二人の美しさは…と口を開けて見とれていた場でした。仁左衛門 さんと雀右衛門さんが素晴らしかったです。雪景色のなかお揃いの着物を着たお二人が姿を見せた瞬間「新口村」という場に自分が行き合せたようなそんな気がしたほど引き込まれておりました。忠兵衛、梅川の切ないやりとり、そしてひっそりと隠れるその風情…なんともいえないしっとりとした場面でした。

その緊張を解く万蔵、友右衛門と才蔵、男女蔵の踊りでホッと一息。 仁左衛門さん二役の孫右衛門が戻ってきて、罪人である息子忠兵衛を愛しいと思う気持ちとなぜ罪人になったのだというやるせない気持ちとの複雑な心境を吐露するシーンに胸打たれ、またその心情を受けての梅川の義父を思いやる申し訳なさそうに優しい思いやりを見せるシーンの切なさよ。

「新口村」は昼の部一番の見ものでした。しかし雀右衛門さんのあの美しさはいったい…83歳とは到底思えない。それにしても芝居のしどころがあるお役だと芝居のうまさも際立ちますねえ。うっとり。


2004.02.21

2004年  歌舞伎座『初春大歌舞伎 夜の部』 二等一階下手前寄り

人吉三巴白浪』
「両国橋西川岸」「大川端庚申塚」「割下水伝吉内」「巣鴨吉祥院本堂」「裏手墓地・元の本堂・本郷火の見櫓」

なんというか筋立てや、舞台構成やらの妙が素晴らしかったです。玉三郎、仁左衛門、団十郎の豪華顔合わせ『三人吉三巴白浪』は通しでは初めてだし、生でも初めてだった演目なので楽しみでした。「月も朧に白魚の篝も霞む春の空〜こいつぁ春から縁起がいいわぇ」の名セリフで有名なのですがこの五七五調のセリフが聞いてて気持ち良いし、なんといってもわかりやすい。

しかも、『松竹梅湯島掛額』という演目のパロディというか見立ての場面(「巣鴨吉祥院本堂」「本郷火の見櫓」)があるのですがちょうど去年11月に『松竹梅湯島掛額』を観劇していたので見立ての面白みがわかったのも自分的にうれしかった。「本郷火の見櫓」の舞台装置、演出も素晴らしかった。歌舞伎座の奥行きをめいっぱい使い、迫力満点の立ち回りには大興奮。

今回の顔ぶれの『三人吉三巴白浪』は賛否両論あるのですが私は心の底から楽しみましたし、歌舞伎座ではめずらしく拍手がなかなか鳴り止まなかったのをみれば観客を惹きつける力は素晴らしかったのだと思う。私的にはスタンディングオベーションしたいくらいだった。

女装の盗賊、お嬢吉三の玉三郎さん、ご自分でも「まさかやるとは思ってみなかった」初役。この役は菊五郎さんのように女形、立役両方をこなす役者が演じることが多いように「女」を演じるのではなく「盗賊をするために女装している青年」役なのである。「女としての立ち振る舞い、仕草」を徹底していかに美しく見せるかを自分に課してきた玉三郎さんにとっては冒険だったと思う。

そのとまどいが少し見えたものの、役者としての貫禄というか「これもあり」とすぐに違和感はなくなる。ずっと女の姿で暮らしてきてしまった男という倒錯した存在としての美しさが際立って私的にはちょっとクラクラ〜。それと相手役に合わせて背を低く見せることなくまっすぐに立ち、大またで外向きに歩く玉三郎さんなんてこの役でしか見られない。男らしい玉三郎さんも素敵(どこか間違ってます?)。それと仁左衛門さんとの絡みの「巣鴨吉祥院本堂」「本郷火の見櫓」の場は男ぽい仕草をしてるのに色っぽいのなんのって、倒錯美っていうのはこういうものを言うのねーという感じでした…鼻血が出そう。11月『松竹梅湯島掛額』のお七役の菊之助も素敵だったけどお七を見立てた役柄のお嬢吉三の玉三郎さんのほうが美しさ色気100倍増でした。激しい立ち回りは女形捨ててやってたし、新たな魅力発見。

家人崩れの盗賊、お坊吉三にやはり初役の仁左衛門さん。この方は何をしても安定してきっちり役柄を捉えて演じる。粋がってはいるものの武家の出という線の細さが見え隠れし、品が消えてない中に暗さを見せ付ける仁左衛門ならではの盗賊でした。お嬢吉三とのプラトニックラブが可愛らしくて、それでいて濃密なムードが漂って、なんともいえない空間を作り出しておりました。しかし仁左衛門さんは体があまり丈夫ではないので激しい立ち回りとか見てるほうがハラハラするのだけど、(もちろん立ち回り自体は型の美しさも迫力もあり体の弱さをほとんど感じさせない方なんですけどね)最後の場では屋根の上で立ち回るは屋根から屋根へ飛んじゃうは高いところから下へ降りちゃうは、すごいことになっておりました。若い人でもあまりここまではやらないのでは?と絶句した後は「仁左さんたら、ここまでやっちゃいますか」と敬服。

吉祥院のお坊さん上がりの盗賊和尚吉三はこの役お得意の団十郎さん。さすが手馴れたものでセリフ回しは今回はこの方が一番。気持ちよく謳いあげて、聞いてて気持ちがよい。細い二人に囲まれ、兄貴分としての貫禄も十分で物語の中心にきちんといなければいけない和尚吉三の役柄がはっきり見えてひさびさに良い出来の団十郎さんを見てうれしかったです。

体調不良で先月お休みだった左團次さんが昔名うての盗賊で今は夜鷹宿をしている土左衛門伝吉。こいつが一番の元凶なんだよー!。だけど左團次さんがやるとどこか憎めないおやじになるなー。しかし、昔、悪でいまちょっといい人になっちゃったっていう役ってこの方が一番上手かも。

十三郎の翫雀さん、おとせの七之助はセリフがとても聞きやすく、間の取り方もうまく大事な脇役をしっかり演じていた。今回は脇の人たちがかなり良くて、そのおかげか全体的にテンポもよく見ごたえありました。有名戯曲は一度は通しで見るべきだなあと改めて思った次第。

『仮初の傾城』 
時蔵さんの傾城姿は華やかで美しい。でも踊りはなんというかきれいなだけで情感が感じられない。でも以前見た踊りの時よりは型がずいぶんきれいになってはきたかな。

『お祭り』
坂東三津五郎さん、ひさびさだーー。この方は襲名してからどんどん良くなっているような気がする。小柄なのだが一人立っているだけで存在感がある。お祭り好きの鳶頭役がピッタリでいなせで本当にカッコ良かったよ!「待ってました!」の大向こうに「待っていたとはありがたい」と颯爽と受けて踊りだす。体のキレのよさは天下一品。短い演目なのがもったいない。三津五郎さんの踊りはもっと観ていたかった。


2004.02.11

池袋サンシャイン劇場 劇団☆新感線『レッツゴー!忍法帖』 S席後ろ上手

『阿修羅城の瞳 2003』にハマってしまった時に新感線ファンの方から、「この劇団はドラマ系のいのうえ歌舞伎とギャグ満載のおぽんち系の2種類があり、おぽんち系もおすすめですよ」との情報をいただいた。ネタ好きとしては一度は観て見ないとと今回観ること決定。いやあ、笑わせていただきました。ここまで徹底してお笑いだとは、お見事ですな。ネタ好きにはたまらないものがある。しかしあらゆるところからネタを拾っているのにもビックリだ。個人的にはマシュー・ボーン『白鳥の湖』までパロっていたのがツボに入ってしまった。X-Japan、マトリックス、ナウシカ、マイケル・ジャクソン、あやや、少年ジャンプあたり押さえておくと楽しみ倍増。舞台演出にあわせたタツノコプロ作成のオープニングアニメの凝り様に驚きました。

役者のほうでは客演の阿部サダヲさんがちょっとすごかった。歌って踊って動き回って…あんなに色々できる人だとは思ってなかった。橋本じゅんさんは微妙な動きがやっぱり楽しい。でも今回はいじる人がいなかった?分大人しく見えました(笑)。高田聖子さんはやっぱりうまいなあとあらためて。あとラストのはじけっぷりに脱帽。生鑑賞お初の古田新太さんは存在感がある人ですねー。色気のある役がお似合いだそうですが、今回はわりとまとめ役に徹していたような感じでした。

個人的には「いのうえ歌舞伎」のほうがドラマとネタ両方楽しめてお得感があるかなーとの印象。次の『髑髏城の七人』はどうしよう。古・染2バージョンのうち私はやっぱ染のほうが好きなので染バージョンは複数回観たくなりそう。古田バージョンはとりあえず1回だけにしておこう。橋本じゅんさんが古田バージョンのほうなのが悲しい。染のほうにも出てくれないかなー。


2004.01.22

2004年  歌舞伎座『初春大歌舞伎 昼の部』 一等一階花道寄りやや後ろ

花道近くで全体を見渡せられるいい席だった。私的には花道近くは後ろのほうがベストポジションだな。夜の部に引き続き、昼の部も見ごたえ十分な演目が揃っておりました。勘九郎さんが踊りではうまさが光り、女房役で古典の確かさ演技の確かさを見せつけた。また玉三郎さんの情愛の演技が素晴らしく、思わず涙し、菊之介の可憐さが目を惹きました。あと、今回はひさびさに見た魁春さんの品のあるたたずまいやきっちりした演技の良さに感心したのであった。

『義経千本桜』 「鳥居前」
忠信役の松緑さんは荒事がだいぶ板についてきた感じで元気よさが気持ち良い。しかし、見得の部分が弱い。拍手を出させるくらいの気合がもう少し欲しいところ。セリフも相変わらず滑舌が悪く篭もりがち…もったいない。静御前の万次郎さんはどう見ても静御前な美貌とは言えないのですが楚々とした雰囲気は出ておりました。万次郎さんのお姫様姿は初めて見たかも…かわぶちゃいくって感じでした。す、すいません。全体的に最初はなんとなく柄が合ってなさそうな役者ばかりの組み合わせかな?と思いましたが手堅い演技をする役者が揃ってわかりやすい場になっていて面白かったです。

『高杯』
次郎冠者の勘九郎が出てくるだけでふわっと春のほんわかした空気が流れる。このなんともいえない愛嬌ある華やかさは勘九郎独特のもの。また、よほど訓練しているのだろうと思う足裁きが見事で高下駄でタップダンスしてしまうという踊りの面白みが十分伝わってくる。

ちょっとした儲け役の高足売りの新之助は顔が美しいというだけでも舞台では大事と思わせる華やかさ。だが私には新之助はちょっと陰がある華に見える。次郎冠者を騙すシーンなどうまくやっているとは思うけど意地悪さのほうが先にたつのは、こういう明るい舞台ではどうなんだろう?と思う。お父さんの団十郎さんのようにもう少しおおらかさが出ると大器になるだろう。まあまだ若いからね。

『仮名手本忠臣蔵』 「九段目 山科閑居」
お石に勘九郎、戸無瀬の玉三郎の組み合わせで以前も観ている場なのだが今回のほうが緊張感があって素晴らしい出来。勘九郎は義太夫狂言ほうがより演技が際立つ。大星由良助としての妻の強さ大きさがあっていい。玉三郎は母としての心情がより表現されていて胸を打つ。この二人の丁々発止のやり取りが一番の見ものだった。また小浪役の菊之
が恋する可愛らしい娘を造詣して説得力があり。玉三郎と菊之コンビの美しさがなおのこと哀れさを醸し出していて良し。

対する男性陣はもう一歩といったところか。団十郎さんの本蔵はいまひとつ説得力がない。以前観た仁左衛門さんのときは子を思う親の気持ちに溢れてて泣けたのだが、団十郎さんは情と武士としてのハラのどちらも中途半端。うむむ、こういう役は向いていないのかも。新之助の力弥もどうということのない演技で印象が薄い。心二つに、という複雑な心根を表現するにはまだまだといったところ。

由良助は幸四郎さん、受けるだけの役なのだが大きさを見せる。なにげない表情がうまいのだが細かすぎるかも。席がいい席だったので楽しめたけど後ろで見てはわからない微妙さ加減で義太夫狂言のなかの一人という感じはしないのが難点か。

『芝浜皮財布』
落語を元にしたお芝居。菊五郎さんはやはりいなせな江戸っ子の役が一番だなー。生き生きとしてて見てて気持ちがいい。私的にかなりひさびさの魁春さんの女房役が絶品。セリフ回しがなんとも情に溢れて「あれ?こんなにお芝居上手だったっけ?」と思ったほど。後味すっきりのお話で元の落語を聴いてみたいと思いました。


2004.01.12

2004年  歌舞伎座『初春大歌舞伎 夜の部』 一等一階真ん中後ろ

『鎌倉三代記』がかなり面白かった。雀右衛門さんの姫がいつにもまして素晴らしい出来、菊五郎さんのひさびさの若武者姿は丁寧さが好感、幸四郎さんは義太夫狂言ひさびさの当たり役かもの形の美しさとちょっと異様なキャラへの構築のうまさが光った。

『鎌倉三代記 絹川村閑居の場』
私、ようやく義太夫狂言の見方が分かってきたのかも、と思った一幕でした。いつもはどこか気が抜ける瞬間があることが多い義太夫狂言でまったく退屈せずに役者たちの動きを楽しめた。それだけ役者が充実していたということでもあるのだろう。昨年10月の
『祇園祭礼信仰記 金閣寺』とほとんど同じ役者陣だがこの時とは比較にならないほど面白かった

時姫の雀右衛門さんのひとつひとつの細やかで意味のある動きが恋に一途で世間知らずな姫に説得力をあたえている。ヘタするとただの恋にとち狂ったばか娘になりかねない役柄なのだが雀右衛門さんの可愛らしさがほんわりした姫像を描き出し、悲しい運命に翻弄される健気な娘として存在させていた。

対する敵方の姫に思いを寄せられる若武者、三浦之助に菊五郎。ひさびさに若々しくて美しい若者姿の菊五郎さんを拝見。とても丁寧にきっちりと演じられていてまだまだ若く美しい姿もお似合いだ。母思いのまっすぐな若武者に情があり、いい。しかし、時姫をうまく言いくるめ敵方の大将である父を打たせようとする場はためらいもなく、騙すのがうますぎて「三浦之助ったら、いくらなんでもひどくないかい。」とつい思わなくもなかった(笑)

北条(敵方)の間者、藤三郎実は策士、源頼家の武将、佐々木高綱役に幸四郎さん。大当たり!。動きが義太夫節に非常にうまくのり、形も美しく、見ごたえ十分。滑稽な役は軽妙さが出てて楽しく、その後の策士としての顔へ、そして恨みを抱えたちょっと不気味さをたたえた武将への変わり方が実に見事。特に佐々木高綱のぶっかえりのシーンなどは大きさがあり、この人ならでは良い部分がきれいに出た感じ。

『京鹿子娘二人道成寺』
これはただただ美しい舞台を楽しめばいいという感じでした。玉三郎の妖艶な美しさと菊之
の可愛らしい美しさがバランスよく華やかな姉妹のようでした。踊りに関しては玉三郎が1枚も2枚、いやそれ以上に上手という感じでどのポーズととっても隙のない美しさ。玉三郎がどれほど稽古し、また計算してきたかがよく分かった舞台でもありました。また若い菊之を立てる余裕の笑みが、また素晴らしかった。玉三郎一人の舞台が見たいと思わせちゃうのがこの方のすごいところ。菊之介は若さを前面に押し出し、玉三郎に必死に食らい付いていて好感がもてました。比べてしまうとまだまだと思う部分が多かったけど激しい部分で思いっきり弾み、見ごたえはありました。

『花街模様薊色縫 十六夜清心』
若きお坊さん、清心が遊女十六夜となじんでしまい、女犯の罪で寺を追われたところへ、子供が出来たと十六夜が足抜けして追いかけてくる。もう心中しかないと二人川へと飛びこむのだが…、という退廃美あふれる黙阿弥の世話物。

清心に初役の新之助。心中を思い立ったもののこのまま死んで何になると未練たっぷりな清心がなんというか新之助の若かさや姿の美しさゆえに妙な説得力があった。ただその若さの勢いだけで造詣している部分があり、台詞や立ち振る舞いの美があったかというと微妙なところ。ただ、新之助が歌舞伎役者として非常に恵まれた資質を持っていることがよく見えた役ではあった。しかし2年前まであった狂的な凄みは薄れたかも。でも良い意味で正統派になってきたということだろう。大河ドラマは無駄ではなかったのかな。

十六夜には「えー、まだやってなかったんだ」の初役の時蔵さん。時蔵さんには残念ながら十六夜の初々さがあまりなかったのが難点ではあるがだんまりでのたち振る舞いがさすがに美しい。もう少しせっぱつまった想いが見えると良かったような気がするが若い新之助を終始引っ張っていってさすが。ベテランの芸の確かさが見えました。


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