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2006年 観劇感想 下半期T


2006.10.15

国立大劇場『元禄忠臣蔵 第一部』 1等A席花道寄り

第一部 6幕12場
「江戸城の刃傷」
「第二の使者」
「最後の大評定」

風邪をひいてしまい体調が良くなかったのですが緊張感溢れる舞台だったので集中が途切れることなく観ることができました。第一部は話全体が重く、観終わった後はどっと疲労感。男ばかりの舞台とは聞いていましたがこれほど男ばかりしか出てこないとは思わなかった。男泣き、男泣き、男泣き、な舞台でした。そのなかで女形と子役が出てくる場と井関徳兵衛@富十郎さん、紋左衛門@隼人くんの場は少しばかりホッとした場面でした。井関親子は最後切ないんですけどね…可哀相。

真山青果の歴史劇、いわゆる新歌舞伎です。史実に近い物語となっていて下座音楽が無く、映画の時代劇を見ているかのようでした。ストーリーが密なのと舞台転換がスムースなのでだれることはありません。それにしてほとんどの場で男泣きがあります。それも色んな泣き方で。男が泣く、ということが今より重い時代のお話ということで、その「泣き」に想いを巡らせる、というお芝居でもあるのでしょう。

大石内蔵助@吉右衛門さん。最初の出からして存在感が大石内蔵助でした、見事です。すべてをハラに飲み込んで行動する姿がいかにもな雰囲気。タダの人で終わりたかった昼行灯にはチトみえませんでしたが、心の揺れを丁寧にみせて非常に見ごたえがありました。特に後半「最後の大評定」での心情吐露での台詞回しの巧さが物語を締めました。こういう会話だけの芝居だと物語を引っ張っていく力がある役者さんだというのが際立ちますねえ。

多門伝八郎@歌昇さんが素晴らしい出来。やはりこの方は上手いですね。台詞術に聞き応えありました。若輩者ながら理不尽なことを許せず正論で突っ込んでいく、その姿に説得力がある。この方の口跡の良さが際立ちました。

浅野内匠頭@梅玉さんは品のいい透明感のあり、そして内面に熱いものを感じさせる印象深い造詣の内匠頭でした。切腹前の静かな佇まいに、哀れさを感じさせてとても良かったです。浅野内匠頭の辞世「風誘う花よりもなほ我はまた春の名残をいかにとやせん」を詠う場がいかにも似合っていました。

片岡源五右衛門@信二郎さんの主を思う気持ちがよくみえる芯のある佇まいが素敵でした。平伏しながら泣く姿が美しい。

加藤越中守/奥野将監@東蔵さんはどちらもきちんとこなしておりましたが加藤越中守のほうはもう少し非情さがあるといいかな。奥野将監はピッタリ。思慮深く目配りのできる奥野将監でした。

井関徳兵衛@富十郎さん、この方も存在感があります。一部台詞の入りが怪しい部分はありましたがそれが気にならないほどの台詞回しのよさと声の良さ。明るい声が全編に渡って重い芝居のなかでホッと一息つける存在としてありました。明るい人物造詣だけにかえって不器用で一途な男の哀しい生き様をみせてくれました。

井関紋左衛門@隼人くん、ひょろひょろとしていて所在なげが雰囲気が哀れさを誘いました。声変わりの時期のようで台詞の部分がきつそうでしたが、紋左衛門の14歳という年齢や彼の生まれと育てられ方がリアルに感じられ、私はとても良かったと思います。

おりく@芝雀さん、暖かい人柄と武家の妻としての凛とした部分とがあるおりくでした。ほんの少しの出番なのが悲しかった。

松之丞@種太郎くん、一生懸命さが良かったです。武家の長男としてのしっかりした佇まい。口跡がいいのはお父さん似でしょうか。このところ大活躍ですよね、将来が楽しみです。


2006.10.11

サントリーホール『マウリッツオ・ポリーニ ピアノ・リサイタル』 P席

Bravo!!!!大大感激でした!!1年ぶりに拝見するポリーニさんは、背が少し曲がりおじいちゃまな感じ。たった1年で随分老いたなぁ…とちょっと哀しかったりしましたが、演奏のほうはというと昨年より断然音が良かったです。ポリーニさんの音は本当に独特。この音が大好きです。全盛期の正確無比な完璧な超絶技巧の演奏とはいかずやはり衰えている部分がありタッチがたまに荒くなったりはするのですが、それでも華麗で圧倒的な演奏。そして何より音楽に対する情熱が感じられる素晴らしい演奏でした。やっぱりポリーニさんが弾くシューンベルクは楽しい。また後半のプログラムのリストが本当に素晴らしかった。それにしても調子が良かったんでしょう、なんとアンコール曲が5曲。いやはや、熱狂するしかないです。来日される限りこれからもポリーニさんの演奏を聴きに行きます、と心に誓った夜でした。

【プログラム】
シェーンベルク:
3つのピアノ曲 op.11
シェーンベルク: 6つのピアノ小品 op.19
ベートーヴェン: ピアノソナタ第23 ヘ短調 op.57 「熱情」
 * * *
リスト:
灰色の雲
リスト:
凶星!
リスト:
悲しみのゴンドラ1
リスト:
リヒャルト・ワーグナー ―― ヴェネツィア
リスト:
ピアノソナタ ロ短調

【アンコール曲】
ドビュッシー: 前奏曲集第
1巻より 「沈める寺」
リスト:
超絶技巧練習曲集 より
ショパン:
練習曲 12 ハ短調 op. 10-12 「革命」 
      夜想曲
8 変ニ長調 op. 27-2
      スケルツォ 3 嬰ハ短調 op. 39


2006.10.09

歌舞伎座『芸術祭十月大歌舞伎 昼の部』 1等2階前方センター

昼の部は期待以上に良い舞台を見せていただきました。今月は昼の部のほうが好みです。後半、もう一度見たいなああ。

『芦屋道満大内鑑』「葛の葉」
葛の葉の魁春さんが母としての想いが切々としてとても良かったです。狐の身で人を愛してしまった切なさも伝わってきました。また魁春さん独特の女形の体の作りとちょっと無機質な雰囲気が狐としての異形さにピッタリ。まだ気自体に「異」は無かったのですがそういう部分も出せるようになると説得力が増すと思います。障子への曲書き等、ケレンの部分でまだ段取りに追われていてこなれていないな、と思う部分もありましたが持ち役として演じていっていただきたいです。幻想的な引っ込みの演出も素敵でした。葛の葉姫のほうは女房葛の葉に引きずられたのか、いつもの楚々とした可愛らしさがあまり無かったかも。女房役のほうが似合うようになってきたのだろうか。

保名の門之助さんが非常に良かったです。品と憂いがあり芯の通った情も細やか。とても丁寧に保名像を拾い出し、狐の葛の葉と添ったことを後悔せず子供とともに追いかけるのがなんとも説得力のある素敵な保名でした。門之助さん、抜擢に応えましたねえ。

信田夫婦の錦吾さん、歌江さんは手堅く。

『寿曽我対面』
絵面が楽しい荒事。工藤祐経の団十郎さん、5月の時よりお元気そうでなにより。声の張りは全盛期に比べると落ちてるかな?とは思いますが大きな存在感は健在。重さが出てきたような感じもしました。

曽我十郎の菊之助さんが目を見張るほどの上出来ぶり。形の美しさに感嘆。柔らかさとキッパリした部分とがうまく同居し、台詞回しに艶もありました。体の使い方が格段に上手くなったように思います。

曽我五郎の海老蔵さん、姿形の美しさは素晴らしいし華も存在感も見事。ただし台詞が無ければ…。リズム感があんまり無いだけでなく、とっても良い声なのに台詞が篭って所々何言ってるのか…と思えば現代語の台詞?な軽い言い回し。うなってるようにしか聞こえないとは後ろにいた歌舞伎初観劇らしきおじ様連中。歌舞伎役者としての資質は同世代のなかじゃ突出してるだけに、良さも目立つが粗も目立つ。

朝比奈の権十郎さん、ハリのある良いお声で楽し気に演じてらして観ていて気持ちのいい朝比奈でした。

大磯の虎の田之助さん、貫禄十分、座っている形も美しい。しかしお膝の具合のせいで動くのがかなりおつらそうで少々ハラハラしてしまいました。

化粧坂少将の萬次郎さん、可愛いです。最近のほうがお顔が可愛らしいような気がするのは気のせい?声はいつもの独特のお声ですが台詞回しが普段の調子よりどこかふんわりとした雰囲気だったような?

『一谷嫩軍記』「熊谷陣屋」
見ごたえありました。なんと言っても熊谷直実の幸四郎さん、先月の松王丸に続き、渾身の出来ではないでしょうか。やはり幸四郎さんは時代物のほうが似合います。特に熊谷直実に関しては私は幸四郎さんのが一番好みです。子を想う父としての顔、だけでなく坂東武者としての格と無骨さがありまたその不器用な生き様のなか、妻に対する想いをも明確にある熊谷直実です。幸四郎さんの真骨頂は僧侶姿になってから。寂寥感漂う花道での引っ込みは見事としかいいようがありません。戦場のドラを聞いて一瞬、武将の顔に戻る。まだ武将の心を捨てきれないことを表現することで男の哀れさが一層際立つ。この熊谷はフィルムでみた初代吉右衛門さんの『熊谷陣屋』に非常に似ていました。私はこのフィルムを観た時、初代の演技の資質に近いのは幸四郎さんのほうだと思いました。そして今回、幸四郎さんと初代では身体性はだいぶ違うとは思うのですが、やはりそうなんじゃないかなと思った次第。(余談:二代目吉右衛門さんのほうは実父、白鸚さんの資質によく似ていると思う。)

幸四郎さんの熊谷直実はかなりの回数を観ています。そのなかでも今回は気持ちを初心に戻し、初代吉右衛門さんや白鸚さんの熊谷直実を思い出しながら演じたのではないか?と思うほど、いつも以上にひとつひとつをとても丁寧に、そして気持ちを込めて演じていたように見えました。幸四郎さんの熊谷直実は本当に無骨です。不器用な生き方をしてきたんだな、と思わせる。義を重んじる武将としての生き様がそこにあります。それゆえの悲劇。また私が幸四郎さん熊谷が一番好きなのは妻、相模に対する不器用な愛情がきちんとみえるからでもあります。僧侶姿になり陣屋を離れるシーンで、相模への申し訳なさを体全身で現します。私は女ですからやはり相模の視点で熊谷という人物を見てしまうのですが、一番女として許せる熊谷なんです。現代風の解釈かもしれないのですが、でもやはりここが好きです。

源義経の團十郎さんが想像以上に良かったです。情味と存在感が見事でした。なんというか重量感のある品格がみえました。武将の役だとどこが肩に気負いがありすぎることも多い団十郎さんですが、その部分が少し抜けてきたかなと思います、

弥陀六の段四郎さん、やはりこの方は上手い。とにかく人物像の捉え方に説得力があります。老獪さと気概さとがあるとてもいい弥陀六。

藤の方の魁春さんの品格、非常に良かったです。藤の方として芝翫さん相手にきちんと位取りの高さを見せ、また子を思うやるせない切羽詰ったものも感じさせ見事でした。

相模の芝翫さん、存在感はちょっと格別。どことなく色気があって、熊谷への甘えた風情が可愛らしく、夫婦の情愛がよくみえる。また母としての強い情もよく伝わってくる。ただ、もっといつもだと子への想いをもっと濃く出してくれると思うのですが私が拝見時はまだ少々ハマりきっていない感じも見受けられました。

堤軍次の高麗蔵さん、すっきりとした生真面目な軍次。いいです!

『お祭り』
鳶頭松吉の仁左衛門さん。ただひたすらカッコイイ。爽やか、美しい。江戸の粋、という感じではないのだけど色ぽくって眼福。


2006.10.07

歌舞伎座『芸術祭十月大歌舞伎 夜の部』 3等A席前方センター

『仮名手本忠臣蔵』
「五段目 山崎街道鉄砲渡しの場 ・二つ玉の場」
「六段目 与市兵衛内勘平腹切の場」

勘平の仁左衛門さんが大熱演。切腹の場で似てると思ったことがなかった十三代目にとても似ていてビックリしました。仁左衛門さん、とても若々しく悲哀のある美しい勘平。出の憂いを帯びた表情に後の悲劇を連想させます。どことなく運命として悲劇を背負っているかのようでした。反面、勘平の愚かしさという部分があまり見えてこないのが唯一残念な部分でした。まあこれは個人的好みではありますが。それにしても物語運びが非常に丁寧で場ごとの心境がひとつひとつ雄弁に語られ(表情、台詞ともに)追い詰められている様が見事。歌舞伎独自の台詞「色のふけったばっかりに」のところの表情がなんとも色ぽく、後悔とともに甘酸っぱい思い出として語られていたかのようでした。また、もうこのクラスの役者さんに対してわざわざ書くのも失礼かなとは思うのですが仁左衛門さんの体の線の美しさが本当に見事で惚れ惚れします。どの部分を切り取っても絵のように綺麗に決まる。崩れていてさえ美しい。

と主役の熱演は素晴らしかったのですがそれに比べ脇がどうも薄め。後半、こなれていくといいのですが…。

海老蔵さん定九郎、姿は本当にいいし、眼力のある凄みの利いた美しい顔もとてもいいんですが全体的にどこか軽すぎ。何がいけないのでしょうね。あっさりさらさらっと流れていってしまう。定九郎はニンだと思うのでもう少し悪党としての存在感をみせて欲しいです。

菊之助さんのお軽は勉強してきてるなというのはよくわかる。体の作り方もしなやかで綺麗だし、台詞回しもきちっとしている。しかしどうにも情が薄い。娘として、女房としての心のありようが滲み出て来ないんですよね。もうちょっと勘平らぶな雰囲気が欲しかった。

家橘さんのおかやは全然ニンじゃなくて、とにかく違う。いつもならおかやで泣くんだけど、泣けない。なんというか元気すぎるのかな?意地悪そうに見えてしまう部分が多々。娘を売り、旦那は殺され、絶望に陥ったがための狂乱が見えてこない。それこそ母として妻としての情があんまり見えてこない。物語る部分でキッパリしすぎてる部分もあるかなあ。おかやがどういう立場にいるか、はきちんとあるんだけど…。うーん、うーん。

『髪結新三』
「序 幕:白子屋見世先の場・永代橋川端の場」
「二幕目:富吉町新三内の場・家主長兵衛内の場・元の新三内の場」
「大 詰:深川閻魔堂橋の場」

戻り鰹の時期に初鰹の季節の芝居というのはどうなんでしょうね?

ある意味期待の幸四郎さんの新三は想像以上に悪人すぎ…。どっからどうみても愛嬌のある小悪党に見えないんですけど…あれでは凄みのある大悪党。特に序幕が凄みがききすぎです。もっとくだけてもいいんじゃないかなあ。あれでは騙されないよ、とか思いました。髪結いの場は思ってた以上に手捌きがお上手で見せ場にしてましたが…。ただ二幕目以降は面白かったです。なんというか演出の妙というか、それぞれの人物像がよく見え、またやりとりの間合いが非常に良く面白く拝見。二幕目は幸四郎さんも新三らしい可愛い男にかろうじてなっていて、頭の回転は速いもののちょっとおまぬけな雰囲気がなかなか。でもやっぱりニンではないよなぁとは思いました。幸四郎さんの初役世話物シリーズのなかで一番似合ってなかったかと(笑)まっ、でも楽しかったけどね。

家主長兵衛の弥十郎さんがかなり良かった。あの大きな体を小さく折ってお金を数えているとこなんてしっかり爺な体つき。なにより押し出しの強さ、狡猾な強欲ぷりがお見事。台詞の間がこれまた良いんですよ。とにかく上手い!似てない兄弟だと思っていた亡くなられた坂東吉弥さんを彷彿させるところがいくつかありました。血は争えないものだとつくづくと。

勝奴の市蔵さんは幸四郎さんとのバランスもよく好演。小悪党な下っ端風情とか、甲斐甲斐しいマメな部分とかさりげない存在感。

弥太五郎源七の段四郎さん、少々落ちぶれてきた親分風情といい、押し出しといい、ピッタリなんですけど。ただ台詞がまだ入りきっていらっしゃらなくて…。特に大詰めの最後の見せ場で…。客席のほうがらプロンプが飛んでましたが…台詞を教えてあげてたのはお客さんだったのかしら?

魚屋の錦弥さん、素敵でしたーー。粋の良い爽やかないい男ぶり。今回の座組みだからこそ観れた役かもしれないですね。今回の座組みのなかで個人的に一番わーい(嬉)な配役でした。

加賀屋藤兵衛の男女蔵さん、おー、こういう役でご出演とは!なかなか良い感じじゃないですか。

高麗蔵さんのお熊ちゃんはトウが立ちすぎていた…別な役はなかったんだろうか? ただ今回思ったのはお熊ちゃんは弱いお嬢様じゃなくて気の強さがあるお嬢様なんだなと。そういう部分がよくわかった。考えてみたら押し入れに閉じ込められて、メソメソしてるだけじゃなく押入れから出せ!とアピールできるくらいの強さはあるんだもんね。なんだかそこは際立った感じはしました。だから高麗蔵さんだったのか?んー、でもやっぱも少しお嬢様風情が欲しかったなああ。


2006.10.01

国立大劇場『弁慶ニ態 能と歌舞伎による』1等席前方下手寄り

『舞囃子「安宅 延年之舞」』
能は舞囃子という見所のほんの一部を装束を着けない紋付袴姿での上演形態でしたが『安宅』のフルバージョンをぜひ観たいと思いました。歌舞伎より能のほうがカタルシスがあるような気がする。能は学生時代に何度か観にいったのですが、その後機会がなく…。

シテの近藤幹之助さんは足裁きは少々お年かなという感じはあったのですが体の芯の通り方が素晴らしい。気を溜めた前半と気迫溢れる後半の舞は思った以上に表情溢れるものでした。歌舞伎『勧進帳』の延年の舞は宝生流の「延年之舞」から来ているとのことですが、それがよくわかりました。

囃方がかなり迫力ありました。大劇場なので音がかなり広がってしまってましたが、それでも素晴らしい音色でした。大鼓の亀井忠雄さんの音はメリハリがあって、シテと添うような音の出し方なんですね。相乗効果で弁慶の重さ、緊迫した表情が浮き出てくるようでした。小鼓の大蔵源次郎は鼓の音は勿論のことお声が良いですねえ。笛の一噌幸弘さん、渾身を込めた迫力ある演奏。息の長さにビックリ。

シテ: 近藤幹之助 (宝生流)
大鼓: 亀井忠雄
小鼓: 大蔵源次郎
笛:  一噌幸弘

『歌舞伎十八番の内「勧進帳」長唄囃子連中』
歌舞伎『勧進帳』はフルバージョン。吉右衛門さん弁慶は昨年9月以来、梅玉さん富樫はお初です。

弁慶@吉右衛門さん、相変わらず大きいです。いかにも柄にあったお役なんだなあと改めて思いました。体も大きいですが何より気持ちが大きいのですよね。気合が入ってらして、いつも以上にメリハリがあったような気がしました。

義経@芝雀さん、ここ数年義経を手掛けられ、完全に手の内に入ったかなと思う。特に出の華やかさ美しさが素晴らしかったです。役者としての艶が出てきたかなとか。以前なかなか出せなかった武将としての品格もあるし、本当に良い出来。ただ、弁慶を労う場の情味は今年四月御園座の時のほうがあったかな。一回公演だから気持ちを持っていくのが大変なのでしょうね。

富樫@梅玉さん、品の良い落ち着いた能史ぶり。梅玉さんのことだから冷たい富樫になるかも、と思っていたのですが、情に流されることなく、しかし非常に暖かい心持の富樫でした。ちょっと意外(笑)。出の名乗りでの能がかりの台詞廻しが上手で感心してしまった。にしても富樫という役は、役者の個性が一際目立つ役じゃないかと思う。色んな方の富樫を観ているが、こうまで違うものかと思う。富樫役好きとしては、これからも色んな役者さんの富樫を観てみたい。

四天王は昨年9月歌舞伎座と同じ面子。もうちょっと頑張って欲しいかなと。このなかでは松江さんの役者ぶりが大きくなってます。緊張されたのか由次郎さんが途中コケてました…なんとか芝居の流れは切らないでましたけどトチリ蕎麦ものでしょうか(笑)

個人的に目を惹いたのが太刀持の梅丸くん。非常に姿勢が美しく、きちっと控えていて素晴らしい出来でした。

弁慶: 吉右衛門
富樫: 梅玉
義経: 芝雀
亀井六郎: 松江
片岡八郎: 種太郎
駿河次郎: 吉之助
常陸坊海尊:由次郎


2006.09.24

国立小劇場『文楽九月公演「仮名手本忠臣蔵 第三部」』1等前方センター

千秋楽です。

八段目『道行き』戸無瀬が煙草吸ってる…歌舞伎ではあのシーン無いよね?無いよね?と驚いた一場面でした。私が記憶してないだけ?インパクト大でした。

九段目『山科閑居』が素晴らしい出来でした。住太夫さんの情感あり語りが絶品。義太夫、人形とも非常に気合の入った締まった舞台でした。

詳細感想後日補完予定


2006.09.23

歌舞伎座『秀山祭九月歌舞伎 夜の部』2回目 1等1階前方センター上手寄り

『菊畑』
役者の皆さんが台詞、動きともに義太夫のノリが良くなって見ごたえが出てきてました。

皆鶴姫@芝雀さん、個人的に芝雀さんの古風な赤姫姿が本当に可愛らしくて目がハート。世間知らずで恋に一途な品のあるお姫様がピッタリ。硬質な声質も良いのよね。少しづつ濃厚オーラが出てきたかなあとか…贔屓目かな。

智恵内@幸四郎さんに愛嬌が出てきて楽しくなった。もう少しおおらかさ、というか単純さがあってもいいかなと思うけど、風貌も大きさも○。幸四郎さんはコメディもかなりお上手だと思うのだけど、時代物になると可笑し味が減るのよねえ。

鬼一@左團次さん、鬼一のキャラクターがはっきり出てきて、見ごたえありました。

虎蔵@染五郎さん、前回より台詞の義太夫のノリがかなり良くなっていた。メリハリも利いて耳に綺麗に入ってくる台詞廻し。よく頑張りました!虎蔵から牛若丸への変化もよくつけていた。柔らか味はまだ薄め。この日はお疲れ気味だったのか、動きにキレがなかったような?ピタリと決めてはくるのだけど、どこか弱かった。それと襟を抜きすぎていて線の細さが目立ってしまったような感じ。染ちゃんはうなじに色気があるので、多少襟を抜いて欲しいとは思うんだけど、今月、痩せちゃったような感じなのでもう少し押さえた抜き方でもいいような。いつもより首が長く顔が小さくみえてしまっていたのでちょっと気になった。

『籠釣瓶花街酔醒』
前回拝見した時もかなり見応えがありましたが今回、「縁切りの場」が秀逸でした。

次郎左衛門@吉右衛門さんが気持ちがかなり入ってて良くなっていました。もしかして吉右衛門さんてスロースターターなのかなとちょっと思いました。見初めの部分はやはりもう少し自然体な朴訥さが欲しいなあと、ちょっと贅沢な望み。ただ、次の場からは吉右衛門さんの真骨頂。洒落っ気が出て、ウキウキと浮かれている様子、八ッ橋に惚れこんで痛々しいほど気を使っている様子、縁切りの言葉に信じられないでいる様、あまりに惨めさに絶望しコンプレックスを刺激され怒りを溜めていく風情、その心の在り様が手に取るようにわかる。八ッ橋を切り殺す時、次郎左衛門@吉右衛門さんの場合、籠釣瓶の因果はほとんど関係ないですね。狂気ではなく、やりきれない怒り。

八ッ橋@福助さん、見初めの笑みがやはり切ない。にっこりと次郎左衛門に微笑みかけるのは花魁としての営業スマイルでしかないんじゃないかなと思うのですよ。次郎左衛門から顔を背けてから、そうした笑みを浮かべた自分を自嘲しているかのように哀しい笑顔だったように見えました。売れっ子花魁としての自信とか華はあまり無いのだけど、苦界の女の哀しみがある八ッ橋。だからこそか、縁切りの場が本当に素晴らしかったです。どうしようもなさ、というのが伝わってきてとっても切なかったです。

九重@芝雀さんはとても優しい九重。優しさは苦界に生きていく覚悟が出来ているからこその強さなんではないかしらと思いました。精一杯、生きていくしかないと。次郎左衛門への優しさは半分営業のためと解釈される九重ですが、芝雀さんの九重はやっぱり次郎左衛門のこと好きだったんじゃないかな。売り物のはずの花魁に真っ直ぐに本気で惚れこむ、そんな男は苦界に生きる女にとっては理想の男性でもあったと思う。

『鬼揃紅葉狩』
更科の前@染五郎さんがますます可愛らしくて、なんとジワまで起こってたよ。1階の前で観てもちゃんと可憐なお姫様だった。まだ少女のような、花がほころぶ前の蕾のような上品なお姫様。お顔自体は綺麗系だと思うのだけど雰囲気が非常に愛らしい。女舞は柔らかさが増して、しなやかでたおやか。鬼の正体をフト現す時のきつめの表情はかなり男顔。それが一瞬にしてまた可愛い姫の顔に戻る。もう、ほんとに可愛い〜。今回もあまりにも私的ツボに入ってしまったので前回同様、染ちゃんばっかり見てしまった〜。萌え萌え。鬼女になった時の豹変ぶりも見事。顔が二倍に見えた(笑)長袴の捌きも綺麗で回転軸もピタリと決めて拍手、拍手。もう少し大きさが出るとなお良し。

にしても好きな役者さんばかり出ているのでどこを見たらいいか悩みます。結局ほとんどは染ちゃんで、合間に高麗蔵さんと信二郎さんにターゲットオンという状態でした…。もう少し目配りしたかった。でも今回は前回全然わかんなかった鬼女になってからの高麗蔵さん、吉弥さん、宗之助さん、吉之助さんの区別はついたかも。

常磐津、義太夫、鳴り物のコンビネーションがますます良く、大薩摩が気合入ってて、間延び感を感じさせなかった。


2006.09.17

歌舞伎座『秀山祭九月歌舞伎 昼の部』2回目 1等1階前方花道寄り

初日での客席の妙な緊張感(笑)はさすがに無かったのですが、芝居のほうはますます充実していました。

『車引』
松王丸@染五郎さんに大きさが出て、また敵役としての悪さと苦渋、そして静かな威圧感がありました。顔も大きく見えほんと良い出来ではないでしょうか。声も良く出ていました。「俺は俺の立場で行く」と突っ張った感じの部分とか、よく心情が出ていました。初日に拝見した時はお父さんの幸四郎さんに似てると思ったのですが、ふとした瞬間、吉右衛門さんの台詞廻しのほうを連想させました。

桜丸@亀治郎さんは切々としたものが台詞に乗り、申し訳なさといったものがよく伝わってくる。また優しげな風情がありつつしっかり芯がありました。ひとつひとつの形が非常に美しい。

梅王丸@松緑さんはだいぶ台詞にメリハリが利いてきたかな。もう少し抑揚を付けられると聞きやすい台詞になるし、情感も出ると思う。にしてもどっしりとした存在感が出てきましたよね。よく見ると相変わらず受けの芝居の時に形が崩れがちなのですがそれが目立たなくなってきました。国立での崇徳院や和藤内といった大きな荒事系の役をしっかりやってきた成果でしょう。

今回、思った以上に三人のバランスが非常に良かったです。他の演目でも観てみたい組み合わせ。

『引窓』
それぞれが役柄にピタリと嵌って、文句なしの出来栄えとしか言い様がない。

濡髪@富十郎さん、ほんとにこの方の華と台詞回しが良いです。小柄なのにここまで関取らしい雰囲気が出るのは本当に見事だと思う。また苦渋に満ちた、それでいてきっぱりとと覚悟を決めたその気持ちの伝わり方が、カッコイイです。こういう役の富十郎さん、素敵です。

お早@芝雀さん、やはり素晴らしい出来。家族を思う気持ちが込められていて可愛らしく健気。また細々した仕事しながら決して邪魔にならず、後ろ姿で控えている時にもしっかりお早の気持ちがみえました。 

お幸@吉之丞さん、優しいお母さんです。切々と、という言葉がぴったり。小さく小さく座っている姿が本当の老婆のようでドキッとしました。背の高い方なので体の使い方がお上手なんでしょう。

与兵衛@吉右衛門さん、初日に拝見した時よりメリハリがあってとても良かったです。町人と武士の切り替えが気持ちの切り替えと上手く重なり心情がよくみえる。吉右衛門さんらしい細やかさ。また今回、与兵衛が女房、お早の事が大好きなのね、というのが見えて可愛らしかったです。あらあ、お早と濡髪のこと勘違いして嫉妬してる?とかそんな部分があって(笑)いい家族だよなあ。

『六歌仙容彩』
小町@雀右衛門さんが可愛らしい&濃厚オーラ。決めポーズはたおやかで美しい。でも足元はやはりきつそう(;;)。

業平@梅玉さん、色気が出てきた?平安装束の貴公子姿が本当にお似合いで品の良い踊り。梅玉さんの硬軟自在な踊り、いつ見ても上手いなあと思う。

文屋@染五郎さん、おおっ、初日より断然踊りにキレがあるし、愛嬌もしっかり。軽妙洒脱とまではいかないけどみせる踊りにしてきた。手捌きのしなやかさには相変わらず惚れ惚れ。腰がブレないで、きちっと決まっているから踊りが大きく見えるのだろう。かなり難しい踊りだと思うのだけど一つ一つ丁寧によどみなく決めていく。染ちゃんの踊り、好きだわ。

『寺子屋』
松王丸@幸四郎さんと源蔵@吉右衛門さんのテンションが初日から衰えずというかますます気合入りまくり。それなのに、二人ともしっかりと押さえたハラのある芝居。

松王丸@幸四郎さん、首実検のところで父としての悲哀がグッとハラに秘められていました。すさまじいまでの緊迫感。「でかした!」その一言に小太郎への想いのすべてがありました。

源蔵@吉右衛門さん、苦渋が深くなってました。他人の子を殺す、その浅ましさの自覚があったように思います。源蔵は難しいお役ですよねえ…。

千代@芝翫さん、情味のあるなんともいえない味わいの千代でした。子への想いの深さがありました。さすがです。前回薄かったように思った松王丸と千代の夫婦のありようがしっかり見えました。切なさ倍増。

涎くり@松江さんが少年らしくて可愛らしい。ちょっと品が良すぎる気もするが…。悪ガキぽくはない(笑)


2006.09.16

国立小劇場『文楽九月公演 「仮名手本忠臣蔵 第二部」』1等前方下手寄り

一部は今回はパスしたんですが四段目が評判が良いようでちょっと観たかったかなと。それにしても今回、つくづく『仮名手本忠臣蔵』は非常に良く出来た物語だなあと思いました。二部は六段目と七段目がよかったです〜。人形のほうでは特におかるがよかった。勘十郎さん操るおかるは品のある柔らかい色気があって、なにより親や勘平を思う情感がありました。蓑助さんの由良之助は色気がありますなあ。

詳細感想後日補完。


2006.09.08

歌舞伎座『秀山祭九月歌舞伎 夜の部』 3等A席前方センター

昼の部とは違う面白さ。かなり昼夜の雰囲気が違うような気がしました。んで、夜の部はやっぱり女形が良かったです〜。

『菊畑』
『鬼一法眼三略巻』のなかの一場。非常に華やかな場面ではあるが『鬼一法眼三略巻』全体のストーリーを把握してないとわかりずらいかも。典型的な歌舞伎の老け役、奴、色若衆、赤姫、悪役といった役柄が揃うのと、義太夫のノリを楽しむといった場面でしょうか。

智恵内@幸四郎さん、奴らしいおおらかさはあまりないけど衣装が似合い大きさ十分。ノリの良い台詞回しと形の良さのなかに芝居ッ気を含ませ、ゆったりとみせる。鋭い目つきながらどことなく無邪気な雰囲気があり予想外に良い智恵内でした。(失礼ながら幸四郎さんに智恵内は似合わないと思っていたもので…)

鬼一@左團次さん、重々しさがだいぶ出るようになってきて姿も大きくて良いです。座頭級のお役という部分ではもう少し味わいが欲しいかな。もう少し厳しさのなかに度量の広さをみせると貫禄が出るのではないかしら。

虎蔵@染五郎さん、すっきりと美しい色若衆。じっと控える姿も美しく、後半には後の義経らしい凛々しさもみせます。その反面、ちょっと柔らか味が足りないかなあ。キッパリと決めすぎてしまうのですよね〜。直線的すぎるのでもう少しふわっとした部分が出るといいと思います。高い声のほがちょっとキツそうでしたがノリのいい台詞回しを聞かせてくれました。義太夫のノリをかなり勉強してきてるなあという感じです。

皆鶴姫@芝雀さん、とにかく可愛い。お持ち帰りしたいくらい可愛い。赤姫らしさがよく出てましたねえ。品がよくて世間知らずな一途さがあって。赤姫役者だなあつくづく思いました。芝雀さんの八重垣姫をきちんと観たいなあ。

湛海@歌六さん、何でもこなせる人ですねー。細身な方ですが太くみえます。

『籠釣瓶花街酔醒』
八ッ橋@福助さんが絶品。見初めの笑みの哀しいこと。先の運命が見えるような笑みでした。運命に翻弄され、どう生きていくのかの覚悟ができてない女のように思えました。そこがとても切なくて、哀れさがありました。福助さんが演じる哀れな女性って非常に生(なま)な質感があるように思うんですよね。女としてのどうにもならない苦しみが非常によく伝わってくる。特に愛想尽かしの場がほんとに良かったです。理屈じゃなく、間夫に惚れてしまっている弱みと、恩義のある人を裏切る辛さと、そんなものが全身から滲み出ている。玉三郎さんとはかなり違うタイプの八ッ橋でした。同時期に素晴らしい八ッ橋を二人の役者で観られるとは観客の一人として幸せです。

九重@芝雀さんも本当に素敵でした。心根の優しい可愛らしい九重でした。情が深くて、八ッ橋のことも次郎左衛門のことも心から心配している。特に、次郎左衛門に対して単なるお客さん以上の想いを持っているのかなと思わせました。芝雀さん、お父様にほんと似てきたなあと思った九重でした。

次郎左衛門@吉右衛門さん、大店の旦那風情のほうが先にたち朴訥さというものはあまりない次郎左衛門。見初めのところはもう少し朴訥な雰囲気が欲しいなあと思ったんですが、八ッ橋と馴染みになり有頂天になっているところから縁切りに至るまでは心の動きが手に取るようにわかり、さすがの上手さをみせる。吉右衛門さんらしい次郎左衛門造詣でした。屈折度具合が結構強いんですねえ。真面目な男が一途に女に惚れた風情があり、その分、裏切られた反動での怖さが大きい。愛想尽かしをされ大きな体がどんどん小さくなっていく過程で絶望感と静な怒りが溜め込まれて凝縮されていくかのようでした。かきくどきの時点ですでに泣きじゃないんですよね、すでに怒りが心を渦巻いている。最後、八ッ橋を切る部分、いわゆる狂気に入ってない。かなり自覚的。観てて結構しんどかったです。

治六@歌昇さん、若々しかったです。痩せられたのかな?にしても田舎物の朴訥さ、主人想いな真っ直ぐさ、非常に印象に残る治六でした。

栄之丞@梅玉さん、手の内に入ったお役なのでさじ加減が絶妙です。私、梅玉さんの栄之丞、好きなんですよ。さらっとした冷たさのなかに自信が垣間見えて。お坊ちゃん然としたところの可愛らしさとか男のいやらしさとか。こういう男が間夫ということで八ッ橋の哀しさが浮き立ってくるんですよね。

立花屋長兵衛@幸四郎さん、お付き合いの出演なんですが舞台が締まりますね。さらっと演じられているのですが、それがちょうどいい塩梅加減。

『鬼揃紅葉狩』
1960年4月に初演され、そのままになっていた曲を復活させ、補綴し新たに振り付けをした、新作舞踊。音楽が鳴り物、常磐津、竹本、大薩摩と華やか。間狂言から後ジテになるまでが少々間延びしますが全体的に楽しい舞踊となっています。

更科の前@染五郎さんが自分の目を疑ってしまうくらい綺麗でした。ええっ?まじで染ちゃん?と何度もオペラグラスでのぞいてしまいました。今まで染ちゃんの女形は品があってとーっても大好きではありましたが、それでも綺麗とか可愛いの範疇ではなかったんですけどぉ…。今回ほんとに綺麗で楚々してて可愛いんですよ〜。そして姫の舞が、これまた想像以上に柔らかく、たおやかで見応えあり。ここまで持ってきたか〜。(私は染ちゃんの弥生が観たくなりました。)

後半、鬼女になってからは大きく勢いよくしなやかに。ただの鬼ではなくきちんと鬼女でした。個人的には歌舞伎十八番の『紅葉狩』の染ちゃんが見たかったのだけど、新作舞踊を作っていこうとする姿勢は好ましいしなあ。更科の前の唯一の難点は声。声が枯れてて甲の声が出せてない。喉をきちんと治して欲しいなあ、ってもう2年くらい言ってますね。休まないと治らないらしいからねえ。思い切って休んで欲しいとかも思う。

平維茂@信二郎さん、貴公子の拵えが本当に似合う。凛々しく美しい。ちょっと堅物な感じがあるのが信二郎さんらしい。もう少し色気があるとなお良し。

高麗蔵@かえでのテキパキした侍女ぶりも素敵でした。ちょっときつめの目が印象的。楚々とした更科姫@染と対照的な雰囲気がいいです。

間狂言の男山八幡の末社の子役たちが皆可愛らしかったです。チビちゃん具合で玉太郎くんが目立っていましたが廣太郎くん、廣松くん、隼人くんもきっちりと演じてて良かったです。隼人くんはこのなかでは舞台経験が一番多いこともあると思うけどしっかり踊れていました。個人的に廣松くんが芝居上手だなという印象。表情も可愛らしいし女形のほうに進んでほしいなあ。


2006.09.03

新橋演舞場『魔界転生』3等A席上手寄り

普通にエンターテイメントな時代劇でした。派手でスペクタクルな舞台を想像していたのでちょっとばかり肩透かし。なんというか真っ当すぎといいましょうか。もっと伝奇色を強くしてほしかったかなと。原作を丁寧に拾い出してるとは思うんですけどね。その分とても判りやすい芝居ではありました。誰が見ても楽しめるようには出来ていました。

演出面では屋台崩しとか宙乗りとか盆廻しとか演舞場の舞台機構を頑張って使おうとはしてましたが、予想の範疇すぎて新味さは無かったです。G2さんの演出の個性がどこにあるのかは分りませんでした。この舞台に関して言えばクセがない感じですね。非常にストレート。チャリ場がいくつかあったんですが笑いどころはかなり微妙でした…なんといいますか、微苦笑しか出ませんでした。笑いのツボが違うのかなとも思いましたが大半の観客はほとんど笑ってなかったような。

『魔界転生』といえば期待するのは殺陣でしょう。この殺陣に附け打ちを付けたのは画期的。この音があるとグッと殺陣が締まります。ついつい注目して附け打ちさんを見てしまいましたがパルコ歌舞伎『決闘!高田馬場』で一躍有名になった福島洋一さんが本当に頑張っていらっしゃいました。音のキレが良くなってきたんじゃないかしら。

肝心の殺陣はやはり橋之助さんがダントツに上手い。腰の入り方と着物の裁き方が良いので見栄えがします。またその大勢のなかではやはり橋之助さんのお弟子さんたちが上手いです。足運びとか刀の持ち方とか殺され方とか、堂に入ってる。それにしても劇団☆新感線の殺陣を見慣れてしまうとスピーディさに物足りなさを感じてしまいましたが劇団☆新感線の殺陣が特殊なんだなとも思いました。

役者のほうですが全体的にレベルは高かったです。台詞がきちんと届く。観ていてストレスを感じるような役者さんは今回いませんでした。ただ個性という部分で強烈な人は少なかったかなあ。あともったいない使われ方をしている役者さんとか、役柄が合ってるのかな?と若干思う方はいらっしゃいました。

十兵衛@橋之助さんが明るく飄々とご自分の持ち味を活かした十兵衛で安定感がありました。見ていて気持ち良い出来。

天草四郎@成宮くんは白い衣装がお似合い。演技が上手いとかそういう感じではないのですが独特の雰囲気があってなかなか存在感がありました。また身のこなしが柔らかで綺麗でした。芝居がこなれていくうちにそういう部分がもっと活かされていくのではないでしょうか。

弥太郎役の子役が上手かった。可愛らしくとても健気で、出るたびに場をさらってました。プログラムを買わなかったのでお名前がわかりません。

柳生十兵衛/中村橋之助
天草四郎/成宮寛貴
お縫/藤谷美紀
お品/馬渕英俚可
お銭/遠藤久美子
柳生但馬守/六平直政
新木又右衛門/山本亨
牧野兵庫頭/千葉哲也
徳川頼宣/升毅
宮本武蔵/西岡徳馬


2006.09.02

歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』3等A席センター

歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎』の初日。昼の部に行ってきました!まだちょっと興奮ぎみです。これぞ大歌舞伎でした。初日なのに完成度の高い素晴らしい舞台。久々に歌舞伎座にかなり濃い空気が流れていました。舞台と客席に妙な緊張感と一体感。大向こうも凄かった(笑)そして全演目、かなり良い出来というか素晴らしい出来だったんじゃないでしょうか。役者全員が気合入りまくり。これが初日なの?という、それぞれがしっかり役に入り込んでの芝居でした。

『車引』
若手三人がしっかり舞台の空間を埋めていました。それぞれに存在感が出てきたような気がします。若手から少し抜け出そうな大人の雰囲気もありました。様式美を見せるだけではなく、「車引」という場の役どころがきちんと伝わってきたからだと思います。

梅王丸@松緑さんは形が非常に良かったですね。台詞回しの部分でちょっと拙さはありましたが声量は十分。力強さという持ち味が活かされ、直情的な梅王丸の柄に合っていたと思います。

桜丸@亀治郎さんはとても優しげな桜丸。気負わず、しっかり気持ちを伝えようとしていて良かったです。声のトーンはほぼ女形の時に近い発声。線をしっかり保ちつつ柔らか味を出そうという感じがありました。

松王丸@染五郎さんはなんと肉襦袢なしでの等身大の松王丸。思った以上に隈取が映え、美しい松王丸でした。細身な雰囲気は多少ぬぐえませんがきちんと長男(ほんとは次男なのだけどこの場は長男の気概で演じるとのことです)としての格と大きさも出てました。荒事の基本を丁寧にしっかりと見せようという気概があり、足の親指を天に向かってピーンと伸ばした姿勢を終始保ち、声も腹の底からしっかり出していました。そして何より台詞の伝え方が良かったです。松王丸の苦渋がハラにある。『車引』が『菅原伝授手習鑑』の一場面だということを明確に伝えるものでした。

時平@段四郎さんの古怪さが舞台を締めました。不気味な雰囲気を漂わせ三兄弟を圧倒します。こういうお役だと特に非常に大きく見えますねえ。

『引窓』
アンサンブルの良さが見事。

濡髪@富十郎さんが華もあり、また声の張りが素晴らしく若々しい。小柄なのにしっかり関取としての大きさを見せてさすがの上手さ。死を覚悟した男の意地と母を思う子としての情感が伝わってきました。

お早@芝雀さんは芸格が上がったかな?と思わせるとても素敵なお早。新妻の初々しさと遊郭出だというほんのりとした色気。家族思いなとても優しいお早。なんとなく天然入った素直を受け答えぶりがとっても可愛かったです。

お幸@吉之丞さんが切々した母心を伝えて、やはり見事。芯が強く、そしてとても優しい母親でした。とても心情細やかでじんわりと気持ちが伝わってきます。

与兵衛@吉右衛門さんは手の内の入った役を味わいよく。人の良さが前面にでて、町人、武士の狭間を行ったり来たり。表情豊かな与兵衛でした。

『六歌仙容彩』
小町@雀右衛門さんが美しさはまだまだ十分あるのだけどちょっとハラハラドキドキ。でも私的には舞台に上がってくださるだけで十分です。

業平@梅玉さん、相変わらず気品ある踊りが素敵。衣装もお似合いだわ。

文屋@染五郎さん、活き活きと踊っていました。ちょっと愛嬌ある風情を作り丁寧で大きさのある踊り。手さばきがやはり綺麗です。もう少し飄々とした味わいが出るとなお良し。雰囲気が仁左衛門さんにちょっと似ていました。すっきりした踊りぶりがそう感じさせたか。

『寺子屋』
もう、とにかく素晴らしかったです。緊迫感があり、濃密な見応えのある舞台でした。松王丸の幸四郎さん、源蔵の吉右衛門さんの気合の入り方が凄かった〜。いやあ、この二人もっと共演するべきですよ。間の取り方がさすが兄弟。ピタッと視線が合うシーンは鳥肌ものでした。つーか普段起きないとこで拍手起こるし。舞台の引き締まり方がすごいです。役者としての質感が似ていながらも芸の違いがうまく相乗効果をあげて、どかんと心に伝わってきました。

松王丸@幸四郎さん、この方特有の細やかな心情表現と緩急のある台詞回しが松王丸の悲哀を際立たせる。心の奥底の翳が首実検に凝縮され表現される。子を亡くした哀しみが一気に爆発する。なんともやりきれないその切なさ哀しさ。時代がかった台詞廻しなのにとてもリアル。この緊迫感のある首実験があるからこそ、嘆きの心情が手に取るように伝わり、それゆえに小太郎のみならず桜丸への思いもまた胸に迫ってくる。幸四郎さんならではの松王丸。

源蔵@吉右衛門さん。幸四郎さんとは違う部分でのリアル。心情を一挙一動に表わしてみせる。主君を守る、そうすることでしか生きていく道のない男の苦渋。主君のためには生徒を殺すことを厭わない、厭えないその浅ましさすら透けてみえるような源蔵。守りきれた安堵感とやましいまでの罪悪感の両方を見事に表現していたと思います。哀れな人なんだなとそう感じました。

この兄弟二人の芝居はリアルな感情を表現していこうとした初代吉右衛門の系譜の芝居なんだなあとちょっと感慨深かった。<初代はフィルムでしか見たことなんですけどね。

戸浪の魁春さんもほんと良かったです。控えめながらしっかりと源蔵を支える妻。夫の覚悟を自分の身にもきちんと受け止めことのできる芯のある女性。哀しげな表情のなかに夫婦の絆、を感じさせました。

千代@芝翫さんは存在感がありました。まだ少しエンジンがかかりきってないかな、という部分がありましたが後半もっと気持ちが入っていくでしょう。


2006.08.26

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第三部』 1等1階後方センター

『南総里見八犬伝』
8/19(土)に拝見した時よりもますます纏まっていて終始楽しく観ました。簸山宮六@亀蔵さんのハンカチ王子ぷりがGJ(笑)さすがネタを仕入れるのが早い。がんどう返しの信乃@染五郎×現八@信二郎対決?は僅差で染ちゃんの勝ちでした。

千穐楽も三津五郎さんらしく丁寧ですっきりとした芝居を貫いたものでした。物語性という部分を求める観客が多くなっているようなので、この手の『南総里見八犬伝』は次回見られるかどうかかな。舞踊的な動きが基本の今回のお芝居、私はとっても好きなんですが。でも物語性豊かなものも確かに観たいとも思います。もし変えていく必要があるのなら、外部の演出家に携わって欲しいですね。

網干左母二郎/犬山道節@三津五郎さん、 悪役の左母二郎がかなり素敵でした。歌舞伎の正統派悪役ってなぜかカッコイイのよね。道節のほうは派手でしたねー。入りがちょっとばかり長いかな、とも思いましたが引っ込みの六法は迫力がありました。小柄な三津五郎さんが大きく見えます。

伏姫/山下定包@扇雀さん、伏姫のほうがちょっとニンじゃないかなーと。伏姫には清楚な雰囲気が欲しかった。悪役の山下定包はかなり似合ってました。不気味な感じもありましたし押し出しも立派。

浜路/犬村角太郎@孝太郎さん、なんといっても浜路でしょう。健気な可愛いさがよく出ていて、切々とした台詞も聞かせました。ちょっとした仕草に色気が出てきたような気がします。薄幸の少女がよく似合う。角太郎のほうは出番が少ないので…改めて孝太郎さんって小柄なんだなあと思いました。

安西景連/犬江親兵衛@松也さん、怨みを抱えた安西景連が良かったですねー。上手いです。声も朗々と響いてインパクトを残しました。女形も色気があって素敵ですけど、立役も良いですね。 親兵衛のほうは出番が少ないのでやはり印象に残るまではいかないですがだんまりでは先輩方のなかに入って頑張っていました。

犬塚信乃@染五郎さん 、典型的な二枚目を品よく演じていました。贔屓目込み入りますが水も滴る美青年ぶり。動きにかなり気を使っていたんじゃないでしょうか?ひとつひとつの動きがかなり綺麗でした。特に手の動きと形が美しいんですよ。浜路との恋模様の場では非常に舞踊的要素を感じさせました。立ち回りでも同様で、ゆったりとした動きのなかで信乃の敏捷さしなやかさを表現していたように思います。三階さんたちとの息の合い方が良かったです。三階さんたちがきちっと決めるのをしっかり見極めてから見得を切る。ゆったりな立ち回りだけにその呼吸の合わせ方がよくわかりました。

犬川荘助@高麗蔵さん、ただの下僕じゃない雰囲気がきちっと伝わってくる荘助でした。兄弟分な仲のよさもあってある意味、信乃とお似合い(笑)高麗蔵さんは兼ねる役者さんですが最近は特に立役のほうが味わいがあるように思います。

犬飼現八@信二郎さん、拵えが似合ってカッコイイ現八でした。骨太さがほんとに出るようになりましたよね〜。昔は優男系の信乃のほうがニンでしたが今は現八のほうがニンかもしれません。ほんとにピッタリ。ずっしりと腰を落とした立ち回りの形が非常に綺麗でした。

後日追記します。
犬田小文吾@弥十郎さん

犬坂毛野@福助さん

荘官大塚蟇六@源左衛門さん

滸我成氏@錦吾さん

簸山宮六/馬加大記@亀蔵さん

金碗大輔@秀調さん


2006.08.20

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第二部』 1等前方上手寄り

華やかさという部分はあまりない第二部でしたが楽しかったです。

『吉原狐』
人情もの。女形さんたちがはっちゃけてました。先代勘三郎さんに当てた演目で45年ぶりの再演だそうですが、福助さんがハマリ役。こういう役だとちょっとやりすぎかなあ…な、はみだし感はあるのですがそれもまた「おきち」という役の個性にも見える。期待?の橋之助さんの女形がでかいけど綺麗だった。すっきりした美女ですよ、素敵。声がお父さんの芝翫さんにそっくりでした。孝太郎さんも可愛かったなあ。遊郭の女のふわふわ感があって。染五郎さんの品がありつつちょっと高慢で崩れた旗本の殿様も美しくってよかった。ワルになりきれない加減さが染五郎さんらしい。この演目は登場人物、全員キュート、というとこが良いですねー。

『団子売』『玉屋』『駕屋』
踊り三種は踊り手の個性の違いを楽しみました。

『団子売』は扇雀さんと孝太郎さんが非常に丁寧に踊っていたという感じだけどあんまり夫婦の情感がなかったような…。孝太郎さんの表情がかわいらしかったです。いつもより綺麗にみえました。

『玉屋』はかなり地味な振り付けで踊り手の風情でみせるものなので、染五郎さんはそういう部分ではまだかなーと思うけど、手捌きの美しさにはうっとり。私、やっぱ染ちゃんのクセのないしなやかな踊りが好きみたいです。

『駕屋』は三津五郎さんらしいメリハリのある踊り。犬の小吉くんがしっかり踊っていて感心。


2006.08.19

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第三部』 3等A席中央

『南総里見八犬伝』
楽しいっ!周囲の歌舞伎ファンやら劇評の評判がいまひとつだったので期待してなかったんですが、うそおお、これ面白いよ。これなんであんまり評判良くないんだろう??不思議不思議。かなり楽しいじゃないですか!見所満載。あの長大で枝葉満載の入り組んだ物語『南総里見八犬伝』のエッセンスをうまーく取り出して絵巻物として歌舞伎らしい一場一場見所主義でまとめたエンターテイメントとしての歌舞伎の基本の芝居じゃないかしら。楷書中の楷書の歌舞伎だよ、これ。

『南総里見八犬伝』のエッセンスを歌舞伎のセオリィに丁寧に当てはめて演じるとこうなるという見本のようなお芝居。これが評価されない、ということは「歌舞伎」に今求められてるものが「物語」であり「演劇」になってきているということだろう。物語性を重要視せず、ストーリーのうねりより、場ごとの様式を求めた今回の舞台。舞踊を基礎とした動き、様式、固定されたキャラクター、ケレン、舞台美術、等々、歌舞伎というものの基本ラインがほぼ入っている構成でかなりお見事と思ったんですけど。転換の間、多さも気になる構成じゃないと思うし。うーん、まあ新本格ミステリに慣れきってしまった人にアガサ・クリスティやエラリー・クイーンを読ませているようなものなのかしらね…。でも楽しいと思うんだけどなあ。

あっ、ちなみに私『南総里見八犬伝』の原作好きでございます。学生時代にちまちまと辞書をひきつつ読んだものです。なのでああ、ここはこう変えたのか、とかこのシーンをこう見せたか、とかまあそういう見方をしていたのも楽しめた一因かもしれませんね。最初からあの膨大な入り組んだ伝奇モノを3時間で纏められるとは到底思っていなかったので、絵面を綺麗に上手く見せてくれただけで満足だったりしたのかもしれません。八犬伝ヲタとしては猿之助さんの『八犬伝』も観てますけど、三津五郎さんと猿之助さん、方向性が全然違うなあと思いました。確かに「みせる」という部分ではスピーディさ物語性のダイナミズム等、猿之助さんのほうが吸引力はあるとは思うのですが、私は三津五郎さんの方向性も必要だと思うんですよね、とか。

今回は原作をギリギリ最低限に刈り込み、主な剣士を紹介するだけの筋立てです。その分、物語性は薄くなります。物語のうねりを求めると、それは残念ながら失われているといっていいでしょう。また人物像もそれぞれが明快な背景がないために感情移入できないのでキャラクターの吸引力は薄くなってしまっています。しかし拵え等、歌舞伎の典型的キャラクターを勢ぞろいさせている。この芝居は物語を求めるのではなく、絵巻物的な絵面を楽しむものだと思います。そして今回、三津五郎さんは歌舞伎様式を丁寧に紹介する目的としての芝居としての位置づけにあるような気がしました。三津五郎さんの考える「歌舞伎の基本」部分でのエンターテイメントを求めた舞台ではなかろうかと私は思います。その分、はみだしたものがなく、いわゆる綺麗すぎる楷書を観るようなもので個性的な面白みは感じられないでしょう。しかし、基本がないと崩せるものが無くなってしまいます。基本の部分でどこまでエンタテイメントが作れるか、そんな心意気を私は感じました。そして役者たちも、自分のキャラクターの役回りをとても丁寧に演じているように思いました。

また、今回思ったのは三津五郎さんが座頭だけに全体的に舞踊的な見せかたを極力しているなという印象。信乃と浜路の恋模様、円塚山の場のくどきや殺しの場、芳流閣の場の屋根の大立ち回り、どこをとってもことさら舞踊的。その丁寧さが私には心地よかった。

役者に関しては千秋楽にもう一度観るのでその時に書こうと思います。まあ、染五郎ファンとしてはちょっと一言。

染贔屓的には今回の信乃の二枚目の優男ぶりが少々不満な向きも多いようだが、元々、信乃は女性の姿で育てられ、運命に翻弄され流されていくわりと受身なキャラクターなので、そのキャラを歌舞伎に当てはめれば典型的な優男になるのは仕方ないことかと思う。また、実はその個性のないキャラを印象付けるためには「女の姿」で育てられながらも剣の腕は立つという部分を最初に見せるべきなのだけど、今回、どうしても毛野と被ってしまうのでその部分が無いのが少々残念ではある。あと舞台の拵えがお家再興を願う落ちぶれた若殿チックなのも減点ポイントかと。彼一人剣士ぽくないんですよね。立ち回りのとこだけは総髪でしたけど、どうせならすべて総髪の拵えでいっていただきたかった。軽々とした舞踊的な流麗な立ち回りは信乃のイメージに合っていたんではないかと思います。犬飼現八のずっしりした重い立ち回りとの対比もよく考えられているなと感心しました。


2006.08.13

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第一部』 1等前方上手寄り

なんとなくあっさりした感じもありましたが全体的には楽しく拝見しました。

『慶安太平記』
前半がどうもピリッとしないかな。橋之助さんの丸橋忠弥は人が良すぎて幕府を転覆させようという人物にはチト見えませんぬ。台詞回しや表情にもう少しメリハリが欲しい。もっと底がある人物にしてもらいたかった。しかし後半の体を張った激しい立ち回りは素晴らしかったです。気合が入った唸り声にちょっと惚れ惚れ。力の入りようがよく見えるので立ち回りが激しくなるにつれ舞台上の緊迫感がどんどん増してきます。

立ち回りに関しては三階さん達の頑張りを盛大に褒めたいです。一人一人、とても丁寧にしっかりと動いているのがよくわかります。コンビネーションが崩れると事故にもつながりかねませんから、その緊張感も伝わってきます。今回、初日から怪我人が出て、すでに二人もリタイアしてしまったそう。もう怪我人が出ないことを祈ります。無事千秋楽まで勤めて欲しいです。

おせつの扇雀さん、過不足なく、という感じでしょうか。出すぎることなく忠弥を素直に慕う女房という雰囲気が良かったです。

弓師藤四郎の市蔵さんはちょっと若すぎる。苦渋というものを見せるまでには到ってない。藤四郎は難しい役だなと思った。

松平伊豆守の染五郎は立ち姿が美しくすっきりとした所は良いのですがいかんせん貫禄不足。丸橋忠弥を見送る時のいぶかしげに鋭い目をみせた表情は素敵でした。

『近江のお兼』
福助さんと馬の絡みが可愛かったです。でもあんまり素朴な怪力娘には見えなかったかな〜。色気がありすぎるのかな。白布を操るところはちょっとヒヤッとさせる場面もありましたが華やかで見ごたえがありました。

『たのきゅう』
楽しみにしていましたが少々勢いに欠けていたような。子供が楽しめるような可愛らしい舞台でほのぼの感はありましたけどちょっと物足りない。舞台の作りが小さいんですよね〜。もっと大きく使ってほしかったなあ。せっかくの歌舞伎座の舞台を小さく小さく使ってどうする。わかぎさんは小劇場系の演出家さんだから持て余したんでしょうか?むーん。

盆の上にプリン型の高台を置き、その周囲を4分割して情景を変え、舞台変換していく作り。セットはミニチュア。見た目はPOPで可愛らしく、民話ベースのお話らしいSetではある。が、しかしその代わりに広がりが無くなる。そして、一番の難点、高台の上の芝居や踊りが観ずらい!!役者が遠い!せっかくの三津五郎さんの踊りがちんまり見える。おろちのせっかくの立ち回りも迫力が欠ける。1階のかなり前で観たにも関わらず、そのストレスは結構大きかったです。物語のほうももう少し芝居の一座の人たちを使ってもいいと思うし、たのきゅうとおろちの掛け合いももっと練ってほしかったかなあ。定番舞踊にしていくにはかなりの練り直しが必要じゃないかなーと思います。

役者さんたちに関しては楽しそうに演じていて、その部分では見ていて気持ちは良かったです。

なんといってもたのきゅうの三津五郎さんが楽しそうに演じているのが良いですね。品よく崩して演じていらっしゃいました。振り付けはキレのよい三津五郎さんらしさを前面にだしたものだったように思います。大きな鬘をかぶっての踊りが楽しかった。小吉くんのお披露目の口上では坂東吉弥さんの事に触れられ、真摯に語られるその言葉には思わず涙してしまいました。

初舞台のぽんきゅうの小吉くん、しっかりご挨拶。可愛いかったです。親戚の弥十郎さんがしっかり見守っており、そして三津五郎さんの口上、小吉くんの口上の時のひとつひとつに一緒に同じように丁寧にお辞儀されていて、こうやって芸を繋いでいくのだなあとしみじみ。

敵役のおろちは染五郎さん。とっても、楽しそうでした(笑)若い爺さんでしたねー。ちゃんと声を老人声にしてましたが体がどうみても若いです。染五郎さんも品よく崩すのが上手です。やりすぎないところで歌舞伎らしさが出たお芝居になっていました。「食っちゃうぞ、シャーーー」のタイミングが楽しい。敵役なんですが可愛らしい憎めないおろちでした。後半、ヤニにやられ本性を現した時のかぶりものがちょっと子供ぽいのが、うーん、どうなんでしょ。個人的にあのかぶりものはいらないかな。立ち廻り、しっぽを操る名題下の三人とともにかなりカッコイイことしてるんですけど、かぶりものと舞台Setのせいで迫力半減してるのがもったいなかったです。


2006.07.17

みなとみらい大ホール『ゲヴァントハウス・バッハ・オーケストラ』 B席2階LC席

プログラムはJ・S・バッハ『ブランデンブルグ協奏曲』全6曲。私の大好きな曲の一つです。聞いていて胸が粟立つというか心の琴線にじわっと触れる音楽でした。もう大満足。至福の時を過ごしました。『ゲヴァントハウス・バッハ・オーケストラ』は少数人での演奏とは思えないほどの厚みのある音とアンサンブルが素晴らしかったです。それにしても協奏曲5番の時のチェンバロの演奏は凄かったなあ。バロック音楽は最近ご無沙汰だったけどやっぱり好き〜。はあ、ほんと素敵だった。

曲目:
J・S・バッハ『ブランデンブルグ協奏曲』
第1番 ヘ長調
第5番 ニ長調
第4番 ト長調
第3番 ト長調
第6番 変ロ長調
第2番 ヘ長調

アンコール曲:
J・S・バッハ『G線上のアリア』


2006.07.15

歌舞伎座『七月大歌舞伎 夜の部』 3階B席下手寄り

演目は泉鏡花の『山吹』『天守物語』の二演目。隠微、耽美、異界を感じられませんでした…。私的にかなりガッカリ。こんなに平坦でゆるゆるなお芝居でしたっけ…?私が鏡花の世界に入れなくなったのかしら?原作、久々に読んでみるか…。台詞劇って難しいんだなあと今回あらためて思いました。

『山吹』
笑三郎さん、歌六さんともに頑張っていらっしゃるんだけどニンじゃなく可哀想でした。

『天守物語』
玉さんが調子悪すぎでは?声が弱すぎです。それにここ数年感じているけどやはり強烈な磁場を見せていたはずのオーラが減っている。海老くんは大人になったなと。安定感が出てきた。でも図書之助をやるにはそろそろトウが立つ寸前でもある。とはいえ涼やかな声と美貌を持つ図書之助をやれるのは今のところ彼しかいないと思う。贅沢な要求だが台詞にもっと情感を乗せられたらと思う。他の役者のなかでは奥女中の吉弥さん、侍女の京妙さんが良かったと思う。

『天守物語』は何と言われようと七年前のほうが断然素敵だった。菊ちゃんの愛らしくも毒を含んだ色気のある亀姫、不安定で必死でただただ一途で美しい新之助の図書之助、飄々とした左團次さんの朱の盤坊、羽右衛門さんの大きな存在感でみせた桃六、そして何より美しさと異のオーラがピークだった玉三郎さんの富姫。私はたぶん七年前の二度と垣間見ることが出来ないあの空間に捉われてしまっているのかもしれません。今同じ配役でもあの空間は再現できないでしょう。

そういえば今回の『天守物語』でスクリーンを使用しての演出も気になりました。あそこまで懇切丁寧な演出が必要?鏡花は台詞劇だと思うので言葉で想像させる余地を残して欲しい。そういう部分も前回のほうが良かったなあ。


2006.07.09

国立大劇場『歌舞伎鑑賞教室『彦山権現誓助剣-毛谷村-』』 1階前方花道寄り

『解説 歌舞伎のみかた』
解説は「おめちゃん」こと市川男女蔵さん。先月の亀三郎さんと比べたらかなりフランクな解説ぶり。学生には受けるかも(笑)内容はしごく真面目でいかにも歌舞伎教室といった趣。先月より超初心者向けになっていたような。今回は国立の研修生6名を使っての解説で色んな場面で大活躍。18歳から26歳までの若者でしたが、歌舞伎には若者も多いんだよ、というアピールになったのではないでしょうか。彼らも役者としてこれから頑張っていって欲しいですね。

『彦山権現誓助剣』
「杉坂墓所」と「毛谷村」のニ場。「杉坂墓所」があるとストーリーがかなり分かりやすくなります。

梅玉さんが手の内の入ったお役の六助を気持ちよさそうに演じてらしたのが印象的。朴訥さはあまりないけど終始、気の良さが前面出てて素敵でした。台詞の緩急が上手く、六助の真面目で良い人ぶりがよく伝わってきます。表情も場面、場面でとてもわかりやく作っていたように思います。ただ剣豪という雰囲気は残念ながらあまりなかったのが残念といえば残念。鋭さがどこかにあってもいいんじゃないかなーと。弾正に騙されたと知った後の怒りがそれほど強くないように見えてしまいました。自分の気持ちより義母、妻の気持ちを優先してる風情。かなり優しい六助でした。

芝雀さんのお園は昨年の金丸座で拝見した時より虚無僧での出でキリッとした風情がよく出てたので急に乙女になるところにメリハリがでて可愛らしかったです。婚約者に出会って慌ててしまい恥らう様が本当に初々しく可愛らしい。いきなり夕餉の支度を始めて大失敗の巻も「お園」の一途さゆえなのが見えるし、芝雀さんはこういうお役がピッタリです。クドキでの搦みの部分はとても丁寧にされていますがまだまだノリが悪いかな。ここは金丸座の時のほうがノリの合い方と心情の出し方がとても良かったので。たぶん後半こなれていくでしょう。

歌江さんのお幸、一味斎の後家さんとしての強さがストレートに出て良いですね。ユーモラスな味わいもいやみがなく、とても印象が強いお幸。六助@梅玉さんとの間(マ)が良いいので後半の場も活きます。

弥三松の玉太郎くんが元気いっぱいに頑張っていました。

弾正の松江さんもお子さんの玉太郎くんに負けじと頑張ってらっしゃいました。体の使い方にもう少しメリハリが欲しいところです。

全体的に丁寧なお芝居で思った以上に見ごたえはありましたがなんとなくテンポが悪いかなあという部分も。全体的に淡々と進んでしまったかなと。もう少し密度の濃さが欲しかったです。

この演目、最近では昨年に金丸座で染五郎さん、芝雀さん、信二郎さん、吉之丞さんという座組みで見てます。この時も「杉坂墓所」と「毛谷村」のニ場でしたがメリハリという部分では金丸座のほうがあったかな〜。ダレ場がほとんど無かったように思うんですよね。どこがどう違ってたんだろう?まあ、染五郎さんと信二郎さんが非常にかっこよかったのも個人的にポイントが高いのかも(^^;)


2006.07.05

サントリーホール『ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団』D席2階P席

小林研一郎(指揮)/ゾルタン・コチシュ(ピアノ)

音のパワフルさを堪能しました。弦楽器がいかにもスラブ系の哀愁を含んだ深みのある音。金管楽器の音色の美しさと安定度が素晴らしかった。金管楽器に関してはやはり海外オケのほうが良いよなあ。ゾルタン・コチシュ氏のピアノは音が深くて多彩でしたがオケとのバランスはいまひとつ?というよりピアノ協奏曲を聴くには席が悪すぎた(オケ裏席)ような気がする…。

コダーイ『ガランタ舞曲』
リズムが多彩で民族色豊かな曲という感じがしました。細かく刻んで音を聞かせる感じで、管楽器のレベルの高さがよくわかりました。また打楽器の演奏者も上手かった。音が滑らか。弦楽器の深い厚みのある音はいかにもスラブ系という感じで好み。楽しい曲でした。

ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番』
大好きな曲で今回の一番の目当てでしたが、席が悪すぎたせいもあるとは思うのですが全体的な音のバランスの悪いこと、悪いこと(涙)。特に第一楽章ではピアノの音がほとんど聴こえてこない…。これはオケの音の作り方がよくないような気がする。パワフルなのはいいんだけど鳴らしすぎ。もう少しピアノを聴かせることも考えて欲しかった。なんというかこの曲に必要な繊細さが足りないような。この日の演奏のなかでは一番まとまりも無かった。

ゾルタン・コチシュ氏のピアノは第二楽章からしっかり聴こえてきましたが非常に音色が多彩で繊細。テクニックもかなりあるし音だしも深い。ちょっと早めの演奏だったかな。小林氏の指揮の煽られたのか、どうなんでしょう?なんとなくもったいない出来でした。とても綺麗な音だしのピアニストなのでリサイタルで聴いてみたいと思いました。

チャイコフスキー『交響曲第4番』
これは文句無く良い演奏でした。パワフルな演奏スタイルにぴったりで聴き応え十分。木管・金管が特に良かった。本当に素晴らしい安定感と美しい音色。そこの弦の厚みのある音が重なっていくのですから、見事というしかありません。音に熱が帯びていく、そんな感じでした。ラフマニノフでバラつきのあったオケとは思えない非常にまとまりのある演奏。にしても小林氏の指揮の激しさにちょっとビックリ。炎の指揮者と言われるだけありますね。

ブラームス『ハンガリー舞曲第1番』『ハンガリー舞曲第5番』
アンコールの『ハンガリー舞曲』はかなり手馴れた演奏。これもかなり激しい演奏でした。とにかく盛り上げてやろうって雰囲気でした。確かに楽しかったかも。

演奏曲:
コダーイ『ガランタ舞曲』
ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番』
チャイコフスキー『交響曲第4番』

アンコール曲:
ブラームス『ハンガリー舞曲第1番』
ブラームス『ハンガリー舞曲第5番』


2006.07.02

日本青年館『歌舞伎巡業中央コース 松竹大歌舞伎「勧進帳」』 S席後方下手寄り

『ご挨拶』
幸四郎さんのご挨拶。舞台の幕外にスーツ姿でご登場。生で素を拝見するのは初めてだったんですがTVで見るよりダンディだ、かっこいい…。期待していた「松たか子の父です」のつかみは今回はありませんでした。真面目モードでちょっと残念(笑)。日によって多少お話の内容も変えているみたいですね。今回は『勧進帳』の巡業のキッカケとなった沖縄からの一通のお手紙のお話。ゴーヤマンの便箋に綴られた「病気で東京に出られない父に『勧進帳』を見せたいので沖縄に来て演じて欲しい」という訴えを読み、「観たいとおっしゃるお客様の立場にたって全国をまわるのも役者としての使命ではないか」と決意されたそう。沖縄での上演は確か2004年秋に実現しているのですよね。沖縄初の歌舞伎上演だったとかでNewsになった記憶があります。

『歌舞伎噺 -楽しい歌舞伎への誘い-』松本幸四郎監修
歌舞伎入門講座といった趣で、華やかな吉原の舞台セットのなか実演を交えてのレクチャー。客席の間を通って登場した案内役、袴姿の素の錦弥さんが素敵〜。所々カミカミだったけど、少しづつ慣れていくでしょう。

阿国役に扮した翔太くんがとっても美人さんで目立っていました。顔を作ると七之助くんに似るのよね。山三役の澤村伊助さんと丁寧に念仏踊りを踊ってました。供奴の中村信之さんも頑張ってましたが狭い花道で踊るのは大変そうでした。衣装を着けての実演付きは「歌舞伎」の華やかな部分を見せるのに良かったんじゃないかなー。完全初心者向けというわけではないけど興味をひかせる楽しい一幕でした。

途中、観客二人を舞台に上げて立ち回りとお姫様を体験してもらうコーナーがありました。舞台に上がったのは元気な20歳代のお嬢さんと小さなお嬢ちゃんでした。お姫様役の小さなお嬢ちゃんは内掛けが重そうでした(笑)錦弥さんさんが上手にフォローしてあげてましたねえ。

『勧進帳』
4月御園座の時とは違い幸四郎さん、染五郎さんともに能がかりを意識した抑揚のある台詞廻しを押さえ気味にし台詞をわかりやすく伝え、また表情もよりわかりやすい方向での芝居だった。『勧進帳』という演目の「物語」を伝えるという雰囲気。これはこれで楽しくていいかも。こういうお話なんだ、というのがストレートに伝わってくる。初心者が多い巡業向けに少し演技を変えてきているようだ。弁慶と富樫の問答が非常にわかりやすいだけでなく周囲の登場人物の四天王の気持ちの揺れ動きや番卒たちの仕事がきちんと明確に伝わる細やかな芝居。

それにしても、意識的にわかりやすくと芝居を変えてくる幸四郎さんにはちょっとビックリしました…。慣れた台詞回しを押さえるのってそう容易いことではないと思うんだけど(幸四郎さんはいつもだとたっぷり抑揚をつけて台詞を口で転がして謡うような台詞廻しで演じています)。ま、それにしても相変わらず幸四郎さんの弁慶はThe主役ですね。

染五郎@富樫は相変わらず凛々しくて素敵だけどどうせならもっと突っ込んでいってしまえ〜、と思う部分も。2004年12月での国立大劇場で演じた富樫の時はかなりの勢いで突っ込んでいってその勢いが結構好きだったりしたんだけど。まあ反対に言えば余裕がない富樫でもあったわけだが…。それが今年の御園座の富樫から「受け」の部分を意識してのゆったり構える富樫へと変えてきていた。最初から義経一行とわかりつつ弁慶たちの覚悟の程度を見極めるという部分を見せていくという方向性を表現しつつある感じ。ただやはり「受け」の芝居は難しい。まだまだ存在感や、ハラの大きさという部分が足りないのでどうしても弁慶に貫禄負けしてしまうのよね。発展途上ということで芝居をどう成熟させていくかを楽しみにしていこう。私は現役者のなかでは富十郎さんの富樫が大好きです。染ちゃんもいつかあの域までにいって欲しいなあ。

義経@高麗蔵さんは初役?品があって素敵ですがまだ堅いかな。もっと存在感と情味が欲しいところです。義経って実は非常に難しい役なんですよね。

四天王は今回は亀三郎さん、亀寿さん、宗之助さん、錦吾さん。気合の入り方、動きの緻密さ、表情と台詞の的確さが見事です。散々書いていますが幸四郎さん弁慶の時の四天王は配役がどなたになろうともいつも動きと表情が良いです。たぶん、幸四郎さんのこだわりのひとつだと思うのですが、四天王としての存在感をかなり要求しているのではないかと思います。また全体の動きが計算されいてフォーメーションが素晴らしい。こなれていくうちにもっとよくなっていくでしょう。また富樫側の動きも計算された美しさになっています。今回、小屋が小さめなので弁慶側に幅を取られて少しばかり間合いを取るのが難しそうな雰囲気は感じましたがうまく形作っていたと思います。

あと今回特筆すべきなのが長唄連中と鳴り物連中がかなり良いということ。本興行と変わらない人選でビックリしました。この人たちを巡業にも連れて行くの?と驚きました。幸四郎さんは音にもうるさいと聞き及びましたが、なるほどと思った次第。ということで今回の中央コースの『勧進帳』は音楽を聴くだけでも価値のある『勧進帳』です。

備考:演目と配役
『ご挨拶』
 松本幸四郎

『松本幸四郎 監修 歌舞伎噺 -楽しい歌舞伎への誘い-』
 名古屋山三:澤村伊助
 出雲阿国:坂東翔太
 奴:中村信之
 花四天:松本錦次
 花四天:坂東翔次

『歌舞伎十八番の内 勧進帳 』
 武蔵坊弁慶:松本幸四郎
 源義経:市川高麗蔵
 亀井六郎:坂東亀三郎
 片岡八郎:坂東亀寿
 駿河次郎:澤村宗之助
 常陸坊海尊:松本錦吾
 富樫左衛門:市川染五郎


2006.07.01

彩の国さいたま芸術劇場『ヤン・ファーブル演出『主役の男が女である時』』 S席センター

彩の国さいたま芸術劇場にヤン・ファーブル演出『主役の男が女である時』を観に行きました。4月に観たピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団に続きコンテンポラリーダンス2回目の体験です。私、コンテンポラリーダンスがかなり好きかも。いやあ、楽しかった、面白かった!観終わった後、どこかがスコンと突き抜けたような開放感を味わいました。タイトルからわかるようにジェンダーという部分を意識したパフォーマンスだと思うのですが、男を模した女が少しづつ素の女となりそして女を超え無垢な生命体へと変容していく、そういうものを私は感じました。後半、フルヌードでのダンスなのですがオリーブオイルにまみれたその肉体は力強さと美しさがありました。柔らかそうな体につく筋肉のバランスが完璧。鍛えられた体のその美しさは彫刻のようでもあり一瞬、一瞬が絵画のようでもありました。激しく力強く踊るその肉体はエロチシズムを超えた美しさでした。

またパフォーマンスとしてそれこそジェンダーを超えたところでのユーモア感覚があって非常に楽しかったです。緩急の付け方がまた心地よいのです。ヤン・ファーブル氏は男性ですがいわゆる私が今まで感じてきた男性が「女」を捉える時の視点が無いんですよ。生理的な部分ですんなり「女」である私が受け入れることのできる世界観でした。これにはちょっと驚きました。ミクロとマクロが交差していくようなイメージの広がりを感じたりもしました。私的にテリー・ギリアム監督のユーモア感覚を連想させたりもちょっとしました。本質的な部分は違うんですけどね。感覚的な部分でちょっと似てる気が。

ダンサーのスン・イム・ハーが素晴らしかったです。キュートで力強さと繊細を同時に体で表現できるダンサーだと思いました。単純な舞台装置のなか繰り返しの多い動きをあれだけの吸引力をもって踊りきるのは並大抵ではないと思う。


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