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2007年 観劇感想 上半期


2007.01.27

新橋演舞場『朧の森に棲む鬼〜Lord of the Lies〜』5回目 マチネ 1等1階前方花道寄りセンター

1月27日千穐楽観劇:

前楽の余韻がまだ残ったままで千穐楽突入。千穐楽は役者が「今日で一段落」という感覚になるのでどこまで観せてくれるかな?と思っていたのですが、思ったほど緩みがなくて良かったです。なおかつ、千穐楽の特別な気分で盛り上がっている観客の楽しもうというノリはやはりお祭り気分。いつもは出ないところで拍手が出たりしていました。

一幕目は役者に多少開放感があるような雰囲気もありでいつもより遊びが出てた感じ。でも暴走はしないで本筋に戻し丁寧にやっていたし、そのちょい緩めな感じを二幕目に引き摺らずきちんと締めていったのはさすが。二幕目の迫力はそれぞれが渾身の出来じゃないかな。特にライ@染五郎とキンタ@阿部サダヲのパワーは凄かったと思う。

にしても、前楽同様に役者さんたちは体力的な疲弊はやはり見えていて、一人一回は台詞を噛んだりトチッたり、殺陣でヒヤッとさせるとこもあったり。

まずは初っ端から!聖子さんが思い切り歌詞を間違ったらしいのだけど、私は声がいつもの聖子さんじゃない、大丈夫?という心配で、何か歌詞が変?と思ったけどどこが間違っていたのかわからなかった…。どうやら「人の国の王に」ってとこ、「好きな男の……△★○×」って全然違う歌詞になってたらしい。なぜにして?私は前楽でのライに魅入られたシキブの気持ちが残っていたからの自説を採っておきます(笑)

殺陣ではライ@染五郎、キンタ@サダヲともに時々ヒヤッとさせるシーンが。さすがに疲れてるんだろうなとは思いますがそれでも綺麗に決めていくのがさすが。この二人の殺陣は手数が多いしスピードが速いのでくれぐれも怪我しないようにお願いします。染ちゃんの殺陣は腕っ節が弱いシーンの部分も含めて流れるようで華麗な殺陣。サダヲちゃんのはバネを活かしての飛び跳ねるようなもの、後半の低く構えた鋭いものを含めキレが良い殺陣。古ちんのは重さのある骨まで断ち切るような殺陣。それぞれ個性が見事に違います。にしても三人とも本当に立ち回りが上手くて惚れ惚れ。

台詞を噛んだりトチッたりは大きな崩れはななかったので許容範囲に収まってました。その後の挽回が上手い役者ばかりですしね。今回つくづく芸達者な役者を揃えてきたよなあ。ライ@染五郎に対峙する女優さんたちに華がないという方も結構いるんだけど、ツナもシキブも上手くないと無理な役なので今回の配役で私は満足。それとキンタ@阿部サダヲの配役が最初に聞いた時は、染五郎と芸質が合わないんじゃなかと心配したんだけど、蓋を開けてみたらかなり相性が良い。これほどとは思ってもみなかったので嬉しい驚き。古田新太さんとの相性は最初から心配してなかった。芸質が正反対なのでかえって合うと思っていた。案の定、そうでした。

千穐楽はバランスよく観ようと思っていたのですが、やっぱりそれは出来なかった。どうしてもライ、キンタ、マダレ、ツナ、シキブの5人ばかり目に入ってきてしまう。この5人は引いて見て顔の表情がわからなくてもパワーで見せてくるし、近くで見ると表情を細かく作ってくるので迫力があるし。と自分に言い訳(笑)

千穐楽も大満足な観劇でしたが唯一の不満が。それはカテコで染ちゃんが投げキッスをしてくれなかったことだ〜。阿修羅城でも青髑髏でもやってくれてたのに〜。最後の最後、やりそうな素振りをして引っ込めて「クシュン」とクシャミ。これも可愛いかったけどね。でも投げキッス欲しかったよ〜。

千穐楽カテコは新感線恒例の煎餅撒き。BGM?には2004年新感線公演の『レッツゴー忍法帳』のなかから『血風ロック』。勿論サダヲちゃんが生で歌います。これ橋本じゅんさんとのツインボーカル曲で、もしやじゅんさんが来る?って期待したけど冠さんだった。チト残念な私。あっ、『メタルマクベス』も観てるし冠さんも大歓迎でしたけど、ええ。サダヲちゃんは客席にも降りて走りまくり。元気ですねえ。歌ってる途中、染ちゃんにマイクを一瞬渡そうとしてたんだけど、あれ染ちゃんに歌って欲しかったんだろうか?染ちゃん『血風ロック』歌えるの?(笑)

阿部サダヲという役者を生の舞台で拝見したのが『レッツゴー忍法帳』でした。それまでも映像では拝見してたけど、生舞台で拝見した時に「この人は舞台の人だ」と思ったんでした。ハイテンションぶりとキレのよさで新感線劇団員をすっかり喰ってたんだよな。かなり飛ばしていたはずのじゅんさんが大人しくみえたし…。すさまじいテンションのあげっぷりで突っ込む隙を与えないタイプの役者にその時はみえた。この印象が強くて、染ちゃんとの競演を聞いた時、サダヲちゃんのキレキレな芝居を受けきれるか心配したのだった。でも今回ライとキンタは今のところきちんとバランスが良い。サダヲちゃんの役回りは『レッツゴー忍法帳』とそんなには変わってないので、染ちゃんが受ける芝居が上手くなってきたのかな。3年前の染だったら受け切れなかったかもしれないと思う。

つらつらと:

ライ@染五郎さん、今回の芝居は小悪党がのしがっていく物語なんだけど、「野卑」な部分はあんまり無い。端正さが持ち味な染五郎は崩そうとしてもそこまで崩れない。今回の役に関してそこが評価の分かれ目かなと思う。でもギラギラした野卑さがない代わりに「悪」のなかに哀しさが含まれる。硬質さがライを単なる醜い魂の持ち主に見せない。自らの欲望に呑み込まれたのではなく、朧の森の呪いがライを「鬼」と変化させていったと感じさせてしまうのだ。哀しくて哀れな人。だからこそ、それゆえに「壮絶」さが出たのだと思う。どんなに悪に染まっても狂っても、それが美しさを際立たせる。顔が、ではないのだ。高慢で非情になればなるほど追い詰められればられるほど、核の部分が剥き出しになり存在の美しさが立ち上がってくる。ラストの壮絶さは、その美しさが崩れていく脆さ、危うさを感じさせるから、なんじゃないだろうか。その核の部分はなんだろうな?と思ったんだけど、「品格を失わない」という評を読んで、ああそうだなあ、その部分なのかなと。それは染五郎という役者の持ち味なんだと思う。ゆがんだ役で美しく在り、滅び行く姿が美しいのはそのせいなのかも。染五郎で観たい役が広がった。やっぱり追いかけたい役者だ。

それにしてもライという人間の哀しさってなんだろう。本当の部分で野望なんていうのはなかったんだろうな、と感じさせる。勿論、いい暮らしをしたいという人並みの願望はあっただろうけど、「王の道」なんてこれっぽっちも思っていなかっただろう。でも何かを求めていた。その空虚さにつけ込まれたのかな。

人を信用できず嘘ばかりついてるのはなぜだろう?そんなライをキンタはとことん信用するのはなぜ?どこか「本物」があったからなんじゃないかなとか。

うーむ、さすがに妄想しすぎだ。もう芝居の部分から外れそうなのでやめときます(笑)


2007.01.26

新橋演舞場『朧の森に棲む鬼〜Lord of the Lies〜』4回目 ソワレ 3等A席前方上手寄り

前楽です。正直、自分のハマりっぷりが怖い。どうしてここまで浸れてしまうのだろうと自分でも不思議。いい加減、どこか飽きるところがあってもいいと思うのですが全然飽きないで観ています。それどころかますますどっぷり浸かってしまう。劇団☆新感線の芝居で、こんなこと初めてです。今までの劇団のテイストは失ってないけど無駄なところが少ない芝居ってことなんでしょうね。そこが「いのうえ歌舞伎 第二章」なんだろうな。

今回は初日観劇と同様3等A席でしたが伝わってくるパワーが初日と全然違う。ここまでパワーアップしたのかと驚きました。役者さんたちの「気」がもう凄くて圧倒させられっぱなし。役者さんたちの体力は結構ぎりぎりな感じで、主要な役者全員が声が枯れていているわ(サダヲちゃん、秋山さんまでやられてたのにはビックリ)、最低1回は台詞を噛んだり間違っていたり、動きも疲れがみえるところがあったりだったりしたんですが伝えようとする気迫のほうが勝り、芝居の濃度はかなり高かったです。なにかが役者さんたちに憑いちゃってる感じで、「命掛け」という言葉すら浮かんできてしまったくらい。

ライ@市川染五郎、どんどん悪役ぶりがパワーアップ。徹底して情をみせないどころか、人を陥れて楽しそうな笑い声を放つ。外道と言われこれが本道だと言い放つ、その非情な高らかな叫び。ここまでやってくれるか、と。こうなったらとことんいっちゃってくださいと言うしかない。そして悪の毒々しいオーラが濃くなって色気がだだ漏れ。上り詰めていく過程で少しづつ色気のあり方が違うんですよねえ。なんというか少しづつゆらゆらと揺れる妖しいオーラが濃くなっていくんですよ。そして追い詰められて始めてからは、狂気のゆがんだオーラで満たされ妖艶としかいいようがない色気。ゆがんでるのに美しいんですよ。なんでしょうねえ、これ。それにしても狂気への入り込み方がちょっと凄すぎて怖いくらい。壮絶なラストが胸が痛いくらいに哀れで切ない。決して感情移入はできないのだけど魅せられていってしまう。だから、入り込めないんだけど、ライという人物から離れることなく、一緒にラストまで突き進んでしまう感覚に陥る。

それしても小汚い格好の時も少しばかりどこか色ぽくなってきていたような。まだ艶のある色気じゃないんだけど、なんだろな?普通のどこにでもいそうな兄ちゃん的小悪党なんだけど、どこか捕まえどころのない色気があって。今回、なぜかキンタの頬を両手で挟むとこなんてキスしちゃうかと思った(笑)ライって人がして欲しいことを直感的に出来るタイプなんだろうなと。キンタみたいな子はスキンシップが大好きだと思うのよね。そういうとこさりげなくやってあげちゃうんだろう。だからこそキンタはライ兄貴に憧れて惚れてたんだよなあ、というのがよくわかる。心酔していただけに裏切りが心の底から許せない。でも他の人間にやられても欲しくなかったんだろう。だからライを殺そうとしたショウゲンとダザイを躊躇なく殺せるし、ほんとはマダレとツナにもライを殺して欲しくなかったんじゃないかな。自分の手で殺したかったに違いない。でもそれは出来ないとも判っていたはず。ライはライ自身が望まない限り、本当の意味で死ぬことはない。追いかけようとしたマダレとツナを「もう生きてねえ」と止めたのは実はライが朧の森で命を絶つだろうと感じたからじゃないかと。キンタだけ最後の最後までライの気配をずーっと追いかけているんだよね。口では死にたくないと言うライの心の奥底を見たんじゃないのかと。生への執着も本物だったろうけど、終わらせたくもあった。じゃなければ、朧の森の奥に彷徨い出て自分の血を流させることはしない。朧の森に生き血を捧げに行ったようなものだ。「真っ赤な嘘に染め上げろ」という言葉はライの人間であったものの最後の意地。ううっ、やっぱ切ない。こんなアホな事を考える自分も切ない(笑)どこまでこの芝居にハマってるんだと。

憑いていたといえば、シキブ@高田聖子さんもちょっとどうしたの?っていうくらい凄かった。お笑い部分のテンションの高さはいつも通りで声を嗄らしてるのが痛々しいくらいだったんだけど、途中からなにかが違ってました。ライに魅入られちゃている様がどうにもこうにもいつも以上に「女」で。いつもだとオオキミの言葉に揺れてまだ気持ちが残ってる風な部分もありながらライへの気持ちが勝る、って感じだったのだけどこの日、ライしか目に入ってませんでしたよ。どうしようもなくライに魅入られ抜け殻状態。ライの言うがままって雰囲気だった。どこかスコンと魔のなかに入ってしまった感じがしました。<この日観劇の時だけ感じました。聖子さん、テンションMAXだったのかも。

ツナ@秋山菜津子さん、この方も後半、いつも以上に「女」が見えました。特に牢屋のシーン。たぶん、体力的に疲弊してたぽいのも影響してたかもしれないんですが、ライになぶられるとこでの崩れようが、ほんとに崩れていってしまいそうな弱さが出てて、それがかなり色ぽくて、ライとツナの絡みがかなりエロかったです。

マダレ@古田新太さんは後半、ツナにかなり弱々しさがあったせいもあり、ライと反目するところから骨太さが際立ってかなりかっこよかった。古田さんの低音での台詞廻しに迫力が増してて大きな存在感。しかし前半のライとの関係はまだ模索最中な感じもあるなあ。わりとマジメな場での台詞を少しいじってるんだよね。あそこはトチリじゃないと思うんだよな。そういえば古田さん、活舌がかなり良くなったなあ。前はあんまりいいとは言えなかったと思うんだけど。努力されてるでしょうね。

キンタ@阿部サダヲさん、もう安定してて大きな変化はないけど、ライとのスキンシップ、アイコンタクトが増えててそこがまたいじらしくて良い感じです。あと少し遊びはじめてますね。あんまり暴走しないようにしてほしいかな。飛び道具にはなってほしくない。キンタという枠に収まっていてください。

シュテン@真木よう子さん、初日周辺から比べたらかなり成長はしてると思います。台詞回しに情感が少しだけだけど乗ってきたし。でもまだまだキャラに膨らみを持たせるまでにはいってないかなあ。個人的に牢屋のとこでもっとライを追い詰めてほしい。憎しみの激しさ、みたいのが出るとかなりよくなると思うだけど。まあ、シュテンは書き込みが薄いのでキャラ立ちするのが難しいだろうけど。あとライとの関係性が薄いちゃ薄いしね。牢屋シーンでもっとぼろぼろな状態にさせておいてはどうかしら?脚本的にライはすでにシュテンはものにしちゃってると思うのよね。戦利品なんだからほっとくわけない。でもそういうのが全然見えない。首領としてのプライド+女のプライドを傷つけられた、くらいの憎しみが描きこまれてるとシュテンのキャラが活きるのではとか。こんなこと考えるの非道かしらん。

演出面をいうと一幕目、ライとキンタの密接度が高くなっていました。スキンシップやアイコンタクトの回数が増えていて、仲良し度UP。気心が知れている関係にしかみえないから後半がますます活きてくる。二幕目は血糊の量が増えてきてました。「血」の毒々しさがライの狂気と相まって、やはり効果が増してました。特にラストのキンタとの立ち回りの時に目から血が流れているような血糊が付くんですが、これがほんとに傷ついてしまったかとドキッとするほど効果的で。

遊びもだいぶ出てきてて、でもうるさいほどじゃなくかなり可笑しかった。日ネタも飛ばしてましたね。印象に残ったのを。

<ライがツナ宛の手紙を読むシーン>
「飛ばせ」と言ってるのにライが少ししか飛ばさないからキンタがちょっかい出してツナに殴られ、キンタが殴られたほっぺを突き出して
キンタ:「ほらあ、飛ばさないからこうなる」(いつもよりアクション大きい)
ライ:「あっ?そう?飛ばしたよ」(ぼそっと呟く。いつから返事をかえすようになったんだ。20日にはなかった)
キンタ「あっ?そうって言ったよ、この人」続けようとするサダヲちゃんだが
ツナ:「キンタ!」
キンタ:「おぁ?キンタ?俺のことか…」
この時キンタ、素で笑ってしまい、ライもつられて半笑い。
ツナ:「キンタ、お前が悪い」ライに向かって「続けて」
秋山さん、ナイスフォローでした(笑)

<ウラベとサダミツがはけていく時の会話>
ウラベ:「今日は巫女の占いを聞きに行かないか」
サダミツ「占いかぁ」
ウラベ「そうだ」
サダミツ「何を聞くんだ?」
ウラベ:「結婚運♪」
サダミツ:「やめとけ〜〜!!聞いた後に後悔するぞ」

<マダレをオクマちゃんが紹介する場>
オクマ「えっーと、えーっと、……、誰?」
マダレ「マダレだ!!」いつもより怒りまくってました(笑)
今まで見たなかで一番受けてた。


2007.01.21

歌舞伎座『初春大歌舞伎 昼の部』 1等2階前方上手寄り

先日、夜の部をかなり面白く拝見したのですが昼の部もかなり見ごたえがありました。大満足です。舞踊『松竹梅』が軽い前菜、『俊寛』『勧進帳』が食べ応えがあるメインデッシュ2皿、そして甘いデザートが『喜撰』という感じで思ったより演目並びも良かったです。『俊寛』は期待通りの味わいのある芝居で吉右衛門さんの持ち味が十分活かされた素晴らしい出来。『勧進帳』は期待半分、不安半分で臨んだのですが、予想をはるかに上回る緊迫した空気とエネルギー溢れる芝居でやはり素晴らしい出来。かなりおなかいっぱいになったところで『喜撰』の軽やかな洒脱な踊りで〆。ここまで満足できるとは思っていなかった。個人的に昼の部のほうが全体的に満足できたかも。

『松竹梅』
お正月最初の出し物としてのご祝儀舞踊。今月のために作られた新作だそうです。最近、新作舞踊も増えてきましたね〜。個人的に良いことだなあと思っております。この舞踊は松、竹、梅とそれぞれの段に分かれています。

「松の巻」は業平がモチーフの舞踊。梅玉さんの業平が優雅で品がよく風情があってピッタリ。舎人の橋之助さんは丁寧に踊られていましたがちょっと大人しい感じがしました。

「竹の巻」奴と雀の舞踊。雀の踊りと衣装がいかにもで可愛らしい。信二郎さん、松江さん、高麗蔵さんの三人。それぞれ持ち味が違っているのが面白かったです。高麗蔵さんは舞踊家の踊りだなあと、目を惹きました。奴は歌昇さん、力強さとキレがありこういう踊りはお手の物です。

「梅の巻」曽我ものがモチーフ。女形三人の舞踊なので見た目も華やか。梛の葉の魁春さん、衣装がモダンで素敵で傾城衣装の二人に負けていません。大磯の虎の芝雀さんは品の良い踊り、化粧坂の少将の孝太郎さんは柔らかな踊りで好対照な雰囲気が良かったです。

『俊寛』
吉右衛門さんの俊寛はとても表情豊かです。とても望郷の念が強い俊寛のように思いました。人恋しい哀切に満ちていて、なぜ自分はここにいるのだろう?そんな思いが最初から伝わってくる。孤独感、仲間に対する思いやり、妻への思慕、絶望感、そんな心の揺れがよくわかるものでした。俊寛の心の内をひとつひとつ丁寧に演じることで、『俊寛』という芝居のありようが鮮明に描き出されていたと思います。また義太夫の清太夫さんの熱演との絡み具合も絶妙で。本当にいい俊寛を見たなあと感じさせていただきました。

段四郎さんの瀬尾も素晴らしかったです。敵役の押し出しの強さとともに、単なる「敵役」にならないところが上手さです。瀬尾はいやなやつですが彼なりの「理」がしっかりあります。そこが明快で物語に深みを持たせます。段四郎さんのアクの強さが義太夫狂言らしい舞台に一役買っています。しかし余談になりますが改めて段四郎さんと亀治郎親子って似てるなあと思った一幕でもありました。今更ながら亀ちゃんの右京(『決闘!高田馬場』)、段四郎さんにクリソツだったんだと(笑)

富十郎さんの丹左衛門が存在感がありました。富十郎さんはやはり華がある。情がしっかりありつつ、自分の立場をわきまえた大きさのある丹左衛門。さすがだなあ。

福助さんの千鳥も良かったです。ちょっとばかり艶がありすぎるかなと思わなくもないのですがとても可愛らしく、また少しおきゃんな部分に「海女」らしさもあってなかなかの出来。俊寛の代わりに乗船する時の申し訳なさもしっかりみえていました。ただ瀬尾に反撃するシーンではちょっと強すぎかな、と思わなくも。

丹波少将成経の東蔵さん、若々しい優しげな成経でやはりとてもよかったです。平判官康頼の歌昇さん、思いやりのあるしっかりした康頼で過不足なく。

『勧進帳』
いくつかの批評で緊張感のない「勧進帳」と書かれていたので期待半分、不安半分だったのですが予想外にかなり素晴らしい出来で大満足。

梅玉さんの品のいい押さえた雰囲気の富樫(拝見するの今回が2度目)が幸四郎さんの一途さのある弁慶には合わないかなとも思ってたのですがまずその予想が完全に裏切られました。とにかく梅玉さん富樫が熱かった!うそお、なにこれなに?こんな熱い鋭い富樫を梅玉さんがっーーーー!こんな梅玉さん初めてですよ。気迫があって鋭く弁慶に問いただしていく姿が素晴らしかった。またそのなかでとても情の熱さが感じられて。いやあこれは本当に予想外。

なので、幸四郎さん弁慶の義経を逃すためだけの一途さが際立って、問答のとこがすごい緊張感。幸四郎さん弁慶で問答のとこが良いと思ったのは初めてですよっ。テンポがいつも以上に速く、問答が激しかった。今月の幸四郎さんの弁慶はハラの深い大きい弁慶だったと思います。主君義経への熱い想いがエネルギーとして立ち上ってきた感じ。また能がかりの台詞回しの間合いがとてもいい。とてもわかりやすい台詞回し。聞き取りにくいという声も聞くのですが私は聞き易いと思うのです。今回、たぶんノッていたのでしょうね、延世の舞もいつも以上に良かった。かなり迫力がありました。舞の最中に義経を「さあ、行ってください」と逃がす合図はわかりやすいけど、大げさすぎない目配りでこのシーンは幸四郎さん弁慶のがやっぱり好きだなあ。また、引っ込みの前、礼のところの目線がかなり上で空に向かっているのです。神に感謝しているのがよくわかって、ここも良かった。

それとなんといっても、芝翫さん!義経の位取りの高さ、哀しみが出た瞬間からわかる。舞台に重みを持たせたのは芝翫さんですねえ。人物像がとても深いのです。御手の部分の姿も美しかった〜。

『喜撰』
とても楽しくてウキウキしながら拝見。まず勘三郎さんが、やっぱ踊りが一段と良くなっている。艶ぽくて洒脱で愛嬌があって、ひとつひとつの動きから目が離せません。一時期、愛嬌の部分がくどく感じられた時期があったのですが今回は艶ぽさのなかにふわっと品を感じさせてとても素敵でした。

そして!玉三郎さんが〜〜〜、無条件で素敵でした。ちょっと婀娜な雰囲気がピッタリ。洒落た雰囲気のなかに色気を感じさせて。勘三郎さんとの息も合っていて楽しそうな雰囲気も良かった。はあ、いいもん見せていただきました。

所化さんたちがかなり豪華でした。お正月ならではの配役でしょうか。わいわいと踊るところが楽しくて、最後まで飽きずに観られました。


2007.01.20

新橋演舞場『朧の森に棲む鬼〜Lord of the Lies〜』3回目 ソワレ 1等1階席中央上手寄り

前回から2週間空けての再見です。前回8日に観た時にかなり芝居全体が固まったな、という印象だったのですが、やはり舞台は生ものですね、どんどん進化し深化していく。役者さんたちが役を自分のなかに捉え消化してきた、と思いました。舞台空間が完全に『朧の森に棲む鬼』の世界の空気になっていたという感じ。ストーリー展開がわかっていて、しかもそれほど近い席でなかったにも関わらず幕が開いた途端、朧の世界に引きずり込まれました。自分でもビックリするほど芝居にのめり込んで観ていました。3回目なのに全然飽きないのです。新感線の舞台は本筋とは別の部分でチャリ場をいくつか作ってくるので個人的に複数回見るとどうしてもダレ場になってしまったりして飽きる部分が出てきがちだったりしたのですが今回もちゃんとチャリ場や役者の遊びの部分があるにも関わらず飽きない(勿論、このチャリ場があるからこそ新感線たる部分がありますしこの部分が好きな方も多いです)。今回は笑いと本筋とのバランスが良いのかもしれません。またやはり芸達者な役者を揃えてきた、というのも大きいかな。

前回までは頭の片隅でもう少し脚本に緻密さが欲しいなとか、もう少し本筋の部分で徹底的に芝居させてほしいなとか思ったりしながら観てる部分があったのですがそんなのもういいや、というか役者の迫力でその部分が呑み込まれていった。この日、役者さんたちの集中度がかなりあったように思う。役者さんたちの「気」のぶつかり合い。「いのうえ歌舞伎」は役者の動きに独特の型があっていわゆるリアルな芝居ではない。その芝居っ気たっぷりの台詞と動きが独特のケレンとなり役者の魅力がそこに立ち上がってくる。だから「いのうえ歌舞伎」と言われるのも納得するのだが、その代わり時に手順がみえてしまう時がある。だけどこの日その手順が手順じゃなかった。芝居の「嘘」が「本物」として立ち上がっていた。ああ、これだよ、私が観たいのは!私は嘘に飲み込まれたいのだ。嘘を本物にするエネルギーに触れたい、だから芝居を観ているのだと、そう強く実感した。なんてね、芝居という「嘘」を仕掛けるのに「嘘のたくらみ」を見せる今回の芝居にすっかり乗ってしまっている私。決して「嘘」が上手いストーリー展開とは思わないんだけどでもやっぱり魅力的だ。

ライの嘘に振り回された人々はその「嘘」に本物を見たがったからなんだろうな、なんても思った。彼らはライの嘘に惹かれていた。「悪」がなぜ魅力的になりうるのだろう。それは「嘘の夢」を見させるのが力があるから、なのだとそう思う。

ライ@市川染五郎、ますます悪くなってましたね〜。嘘の狂気にどんどん染まっていく。目がどんどんイッちゃってくるんですよね。ほんとに光を失っていくかのよう。その狂いぷりに染ちゃんの精神状態を心配してしまうほど。ラストの生への執着ぶりは哀れで切なくなります。でもその妄執にかられた姿こそが人間らしい姿でもあり。今回、私はラスト、朧の鬼の姿になったライが現れてほしいと思ってしまいました。朧を呑み込んで、鬼になったライがまた人をたぶらかすというラストもいいなあ、なんてね。

それにしても色気も増してきて後半のライは「妖艶」。嘘で出世していっただけというより色仕掛けで、でもアリでしょう、と(笑)。魅力的だからこそ、皆が惹かれていく。その説得力が増していました。あー、多少贔屓目入ってますけど…騙されてもいいかもと思わせる色気があると思うなあああ。

そういえばちゃらちゃらした小悪党の部分で少し声のトーンを変えてきていました。もっと高めの声を出して軽さを出していたと思うんですがその軽さを少し押さえてました。このほうが最初から悪巧みしそうな雰囲気が出て良い感じです。前ほど声のトーンに頼ることなく、それでも狂気に染まっていくうちにどんどんどこか狂気を含んだ真っ当さがないドスのきいた声になっていくのですが、この声も非常に色ぽくて好き。

前半の刀に振り回される殺陣が本当に刀に振り回されてるようにしかみえない。あれ難しそうだな。後半で腕が上がってからの立ち回りの華麗さは相変わらず。敵味方関係なく切っていくシーンは異常に早くなってました。鬼だ…と思いました。

キンタ@阿部サダヲ、相変わらずキレがいいです。よくぞまああれだけ動けること。芯がぶれないのでどんなに動いても体にキレがある。この人も舞台の人なんだなあとつくづく思う。余裕が出てきたのか遊べるとこは遊んでくてました。前半のライ@染ちゃん、キンタといるとき本当に楽しそうなのよね。芝居としてライとキンタの距離感がすごく近いっていうのもあるのだけどサダヲさんのなごみオーラがなおさらそう見せるんじゃないかな。だから後半のライの非情さも活きてくるわけで。後半、アニキを憎みきれない哀しさが前回以上にダイレクトに伝わってきました。台詞廻しが本当にストレートで、だから感情もストレートに伝わってくる。

マダレ@古田新太、かなりメリハリというか緩急をつけてきました。笑わせるとこは思いっきり。これぞ新感線の舞台といったノリの部分を引っ張っているのはやはり古田さんですねえ。やっぱりただのマジメ路線にさせなかったですね(笑)でもこれ以上遊びはいれないでね、と思わなくも。今がギリギリのバランスかと。でも、まじめなシーンではしっかりと大きさを見せ付ける。その切り替えが本当に上手い。ライに不信感をあらわすところから後半、一気に存在感をみせていく。

ツナ@秋山菜津子、強さと凛々しさのほうがわりと強く出ていた部分に女らしい柔らかさも含んできた。ライに惹かれながらもぎりぎりのところで突っ張っている、そういうツナの気持ちの揺れが出てきたことでライへの愛憎が鮮明になってきた。私はこちらの解釈のほうが好き。ライとツナのやりとりが非常に色ぽくなった。

シキブ@高田聖子、「だーいっきらい」のトーンを少し変えてきたかな?本気の本気って感じじゃなかったような?前のほうが女の業を感じさせて好きなんだけどな。後半部分はシキブの哀れさがますます鮮明に。ライに対してどうしようもなく盲目的になってしまっている姿、裏切られたことが信じられないその絶望のまなざし。最終的に敵愾心を抱いていたツナにすがるしかなかったシキブ。その悲痛さが伝わってきた。


2007.01.13

歌舞伎座『初春大歌舞伎 夜の部』 1等1階前列センター

今月は本当に大顔合わせですねえ。

『廓三番叟』
雀右衛門さん、きれ〜。なんだろね、この方の濃厚オーラは。踊りは足がほんとに動かなくなってしまったのね(;;)という感じでハラハラでしたが止まってる時の姿の美しさは衰えず。芝雀さんは可愛いです〜。それと控えてる時の姿がいいのよねえ。踊りは孝太郎さんのほうが上手だと思うし、まろやかさがあって実のとこ芝雀さんの踊りより好きなんだけど、それでも芝雀さんばかり観ちゃう。

『金閣寺』
うわっ、せまっ!出演者の皆さん、大柄な方ばかりというのもあるんでしょうけど、舞台がすごーく狭く感じました(笑) ということばかりではなく、役者が揃っているということが舞台を締め濃密な空気を作っておりました。スケールの大きさを感じました。

幸四郎さんの大膳は本気で憎くったらしかったです。あんま色気がない幸四郎さんにしては珍しく「極楽責め」とかの台詞が艶ぽかったな。吉右衛門さんの東吉は軽やかさはないけど人物像が明快。やっぱノリがいいですねえ。

雪姫の玉さまは美しかったです。顔だけじゃなくて、気持ち含めた姿全体が良かった。いつもより気持ちの入り方が丁寧だったように思う。雪姫の悩める心情がくっきりとしておりました。個人的にはもう少し、旦那一途な可愛らしさがあるとなお良しなんだけどなあ。その心持は十分表現されているとは思うんですけど、旦那愛しいの艶ぽさというか風情というかその部分がちょっと薄味かなと。まあ、これは私が雀右衛門さんの雪姫の濃厚オーラに心奪われた経験からまだ抜け出せてない、という部分もあるので、比べるものではないのですが。その風情、といった部分以外は久しぶりに玉さま素敵、となった雪姫でした。

『春興鏡獅子』
夜の部は私的には『春興鏡獅子』が一番でした。勘三郎さんを拝見するのは地方公演をまったく観ていないので1年ぶり。久々に拝見した勘三郎さん、舞踊では1ステージ上がったんじゃないかと思う。本当に素晴らしかったです。勢いと技巧に走り勝ちだった部分が削ぎ落とされてきた感じです。そのため、以前だったら細かく動きすぎて少しばかりバタバタした踊りになってるなと感じていた弥生がふんわりと優しく大きくなっていました。しかも、御前で踊る「弥生」の緊張感や神妙さすら伝わってきつつ、少しづつ踊りのなかに入り込んでいくさまが見事に現れていて。とにかく弥生が本当に見事でした。また後半の獅子もいつものように派手に踊るのではなく、獅子の力強さのほうを意識されていたように思いました。とにかく素晴らしいものを観たとしか感想が出てきません。

『切られお富』
初めて観る演目。お正月の演目としてはどう?という部分と、前幕の鏡獅子が盛り上がったのでちょっと損な演目だったかも。福助さん、もっとくどくやるかと思っていたんですがかなり抑えて演じてました。もっと色気を出してもいいんじゃない?とか思いましたが。橋之助さんが精彩なくてちょっと驚いた。体調悪いのかしら?


2007.01.08

新橋演舞場『朧の森に棲む鬼〜Lord of the Lies〜』2回目 ソワレ 1等1階席前方センター

早々に2回目です。染五郎さんの誕生日ということでカテコで何かやるだろうという期待もあって行ってまいりました。期待通り、古田さんの音頭で染五郎さんのお誕生日お祝いがありました。大きなバースディケーキが運ばれてきたのですが途中ロウソクの火がいくつか消えかかって、慌ててオオキミの田山さんが袖で風避けしたり、エマさんと聖子さんが一生懸命火をつけなおしてあげていたり、座組みの結束力が何気に垣間見えたりしてほのぼの。染五郎さんは34本もあるローソクの火を一気に消していました。肺活量ありますなあ。

さて肝心のお芝居のほうですが2日初日に拝見した時より進化しておりました。観た席がだいぶ違う(3等と1等)というのを差し引いてもかなり良くなっていたと思う。初日に観た時は思ったほど芝居に入り込めなかったのですが今回はかなり入り込んで観ていました。役者さんたちがそれぞれにキャラにしっかり入り込んできた、という部分、そして演出のほうでも今回この物語でキーになる冒頭とラストの音響が致命的なまでに悪かった部分がきちんと改善されていた、というのが大きいですね。冒頭の歌詞が聞き取れる、ラストの台詞が聞き取れる、これだけでかなり印象が変わります。たったこれだけことなんですが芝居の締まり方が全然違うんですよね。ここが改善されなかったらどうしようと不安になっていたので本当に良かった。

また、どことなく腑に落ちなかった染五郎演じる、ライの悪役としての人物像がしっかり見えたというのも大きいです。ライは歌舞伎でいうところの国崩し系の悪役ではなく南北物の色悪系統。スケールが大きいようで小さい人間臭い悪役。それが今回きちんと腑に落ちた感じ。『リチャード三世』『酒呑童子』モチーフの徹底的な悪役という前宣伝のせいでイメージとしてはかなり緻密で冷徹で人間的弱さがないスケールの大きな悪役を期待してしまっていたんですよね。でもライは結構人としてとても破綻してて弱い部分がかなりある。そのギャップに戸惑ってしまっていたのですが今回、その破綻してるからこその悪役という部分に説得力が非常にあったような気がする。ライの欲望って権力欲じゃないんですよね。人が自分に振り回されていく様を観るのが楽しいって感じ。嘘をつくことが快楽になり人の死が快楽のための道具となる、それがどんどんエスカレートしていく。深いところを何も考えてないだけにそのエスカレートしていく部分の狂気が恐ろしくもあり、狂気ゆえの破綻に気が付かないままでいるのが哀れでもあり。その破綻の象徴がキンタと血人形の部分なんだよなあと。あれは単なる弱さではなく目先のことだけで感情のままでしか動いていないライの綻び。自分が何を求めているのか、が実はわかってない。だから王座を得た時に隙間ができる。手ごたえのあるやつを身一つで求めていってしまう、なんて本当に権力が欲しい人間だったらやらない。人を使うだけでいいのだから。

と私にとって今回、イマジネーション(妄想ともいう)を広げられるだけの芝居をみせてくれたってことですよ。この部分、私にとって芝居を観る時に大事な部分なのです。中島さんの脚本の粗も、まあいいやとなってきたかな。まあ不満な部分はやっぱりあるんだけどね。

ライ@市川染五郎、初日に観た時はまだ台詞にしゃべらされているというか時々頭の中で確認しながらやってる部分あるよね?なところがあったのですがだいぶこなれてきていた。前回以上に表情に凄みが出てきていました。少しづつライという人間が狂気に染まっていく様をじわりじわりと演じていく。最初は結構無邪気なんですよね。自分の嘘が面白いように決まっていって、それが嬉しくしょうがない感じ。おばかなキンタとのコンビネーションが良すぎるだけに甘さも見えるけど後半のどんでんがえしがより効果的だ。前半の甘さがあるだけに後半やってることが本当に憎ったらしい。憎まれ役で構わない、その潔さがかえって気持ちいいくらいにライという人物にハマってきてました。出世していくうちにだんだん色っぽくなっていくんですよね、自信がああも艶を与えるものかと。それを見事に体で表現しているのが凄いなあ。それと目がね、だんだん光を失っていくんですよ。まさか、んなことないでしょ?と思うんだけど、そう見えちゃいました。染五郎さんの目を何度か覗き込める位置で見たんですがどんどん底なしの暗さになっていく。ゾクリとしました。ああ、そうですよ、この瞬間、「カッコイイ〜」と惚れちゃいました(笑)。こんなライに惚れるなんざぁ、あたしゃマゾかよっ。

にしても今回の衣装替えはやっぱ凄いな。前回8回って書きましたけど数えた人によると10回だそうです。裏では戦場でしょうなあ。観てるほうは楽しいんですけどね。前半のくりくり頭のボロ衣装の染ちゃんは『黄金の日々』の助左@幸四郎さん?という感じでした。ちょっとごつごつ感を感じさせるんだけど、検非違使になった途端、なんか全然違うんですよ。いきなり美女になっています。とーっても麗しいんですわ。ああ、綺麗だなあって見とれてしまいまいます(笑)しかし皆が指摘してるけどクリクリ茶髪がなぜさらさらストレートな黒髪になったんでしょ?この中盤あたりはツナと衣装とメイクがすごく似てるんですよ。何か意味があるのかなあとか思ったりも。後半、どんどん眉なしになっていくあたりはもう私のツボすぎてどーしましょ、って感じ。ラストの姿は言わずもがなって感じです。やっぱね、ラストは総髪でしょ。

キンタ@阿部サダヲ、とにかく美味しい役をまんま体現してみせる。観てる観客、キンタがライと一緒にかなり悪いことしてるって思ってないよね?(笑)ほんとに憎めない純粋で可愛いキャラです。キンタも素直にわりと欲望のまま生きてきているんだけど、その欲望のあり方が人間らしくて共感できるんですよね。矜持があってその一線を越えないってところがいいのです。ライとキンタはかなり上手い対比になってると思う。ここら辺は中島さんらしいキャラ設定だよなあ、と思いました。サダヲさんを舞台で見るのは2回目で同じ新感線の『レッツゴー忍法帖』で拝見しています。この時とキャラがちょっと似てるかなあと思ったんですが中島さんがわざと似せた部分がある感じがしました。にしてもサダヲさんは体のキレは抜群だし、小動物的可愛らしいオーラがありますね。妙に応援したくなるというか。歌もやっぱ上手い。ノリノリなキンタ、ほんとに可愛いですよね。アイドルみたい。後半の芝居は悲痛さがストレートに伝わってくる芝居。ああ、上手い役者さんだなあと思いました。

マダレ@古田新太、かなり難しい役だと思いますね。ご本人もそうおっしゃていますが。キャラの立ち位置がどこに振れたらいいか、その微妙なふり幅が必要。敵味方としてハッキリした距離じゃないし、主要なキャラとの距離も難しい。マダレというキャラ自体、どういうキャラかハッキリしないところをどう作っていくか。心のうちを表現できないのは辛いでしょうねえ。古田さんだから役者の魅力的でキャラ立ちしてる感じですね。その分、遊ぼうと思えば遊べるし、実際かなり遊びの部分を入れているのですが、マジメな部分と遊びの部分のバランスを初日の時は図ってる感じでしたがそのメリハリを掴んできた感じでした。

ツナ@秋山菜津子、秋山さんのツナはかっこよくて鋼のような女。そのなかに柔らかい女としての心を奥にしまいこんで、凛々しくてほんのり色気があるツナです。秋山さんは『SHIROH』で拝見していて存在感のある女優さんだなと思ったのですが今回も独特の雰囲気を纏っていたような感じがしました。初日に観た時は「女の弱さ」をもう少し出して欲しいと思ったのですが今回はツナの脆さが透けてみえて深みが出てきた。それにしても秋山さんは体の線が綺麗な女優さんですねえ。

ツナというキャラクターは登場人物のなかでは一番芯の通った役かな。自分のなかの正義を揺ぎなく信じている。ライに出会い、それが少しづつ揺るぎかけるのだけど、崩れてしまわない。崩れてしまうことを自分に許さない。ライの嘘にいったん崩れかけるけど、死のうとすることで己を守ろうとする。いいタイミングで守る存在も現れるし。個人的には一度女としてライに完全に崩れてくれると嬉しかったんだけどなぁ。シキブとツナの丁々発止があって、でもその上で何か変?と感じてライと対峙する、というキャラだともっと萌えたんだけど。

シブキ@高田聖子、女の可愛らしさ、愚かさ、弱さ、怖さの全部を内包したシキブというキャラを活き活きと立ち上げていた。こういうものを見せてくれる聖子さん、やっぱ好きだなあ。おちゃらけた姿から一転、女のドロドロとしたものを一瞬にしてみせる。シキブの「だーいっきらい」の一言に背筋が凍った。聖子さんの底力だね。後半のシキブを見ていると泣きたくなる。ほんと哀しい女で、でも可愛い女だなあって思う。

シュテン@真木よう子、顔が小さいっ、顔が本当に整ってて綺麗な方です。太めの声がよく通ってるし頑張ってる、とは思うんですがライと対峙するにはまだちょっと色んな部分で弱いかなあ。もう少しカリスマ性とかが欲しいんじゃないかなと。冴え冴えとしたキツサとか威圧感とか、そういうのがあれば説得力が出ると思うのですが。にしてもオーエ国の女党首ってどういう立場なんだろ?オーエ国の王の娘の一人って感じなんでしょうかね?オーエ国がどういう国なのかさっぱりわからない、というのがねえ。

イチノオオキミ@田山涼成、亡羊としたかなり頼りない国王ですが田山さんのオオキミはほんわかしたオーラで憎めない王。シキブのことが可愛くてしょうがない、そのおおらかさが切ない。お酒のことはわかってて飲んだんでしょうね。それだけシキブのことがいとおしかったでしょう。でも王としてはどうなの?と思わなくも無い。

しかし、国の実権握ってたのは誰なんでしょね?四天王も実権握るほどの人物はいないような…。そこら辺の脚本がチト弱いのよね…。

ウラベ@粟根まこと、うーんと粟根さんはいつものキャラでした。粟根さんの使い方、あれだけでいいのかな?と思わなくも無い。頭脳派キャラなんでしょうけど、結構あっけない。四天王としてのキャラとしては弱いかなと。

サダミツ@小須田康人、とってもキャラ立ちしてました。衣装とメイクがカッコイイですね。でもちょっとおばかキャラ…。一応、国の参謀としては四天王のなかではもっともライを追い詰めるキャラなんですけどね、詰めが甘いと。ここら辺、もう少し手ごわいキャラだとライの悪役ぶりも活きると思うんですが。


2007.01.02

新橋演舞場『朧の森に棲む鬼〜Lord of the Lies〜』 3等A席前方センター

今年の初芝居は新橋演舞場『朧の森に棲む鬼』です。初日ですが芝居の完成度は高かったです。「リチャード三世」と「酒呑童子」がモチーフということですが世界観は今までの劇団☆新感線「いのうえ歌舞伎」らしい芝居でした。今までと違うのは「リチャード三世」がモチーフということで「悪」を主眼とした部分。ピカレスク・ロマンと謳っていますが、ロマンの部分はそれほど無いですね。観終わった後、爽快感はありません。個人的には「酒呑童子」のほうのモチーフをもう少し入れて欲しかったかな。あと、どうせならもっとドロドロとした凄惨さを出してもいいなあとか。でもそんなことしたら正月から観る新橋演舞場の芝居には向きませんし、劇団☆新感線じゃなくなりますけどね(笑)。まあ、そこは個人的趣味ということで。今回の『朧の森に棲む鬼』は劇団☆新感線ならではのエンターテイメントからは外れていません。

初日を観ての感想は面白かったですけど、まだまだやれるだろうという気持ちのほうが大きいです。特にライ@染五郎とマダレ@古田新太さん。二人ともまだまだ手探りな感じ。

ライ@染五郎はかなりいい芝居はしてるんですがライというキャラにハマりきってない部分多々。

マダレ@古田新太さんはマダレの立ち位置をまだ探ってる感じです。このマダレという役は難しいですね。

キンタ@阿部サダヲさんは美味しいキャラということもあるでしょうけどほぼ出来上がっている感じ。

シキブ@高田聖子さんは個人的にひさびさに大ヒットです。色んな意味で見事な女ぷりが素敵でした。

ツナ@秋山菜津子さんは安定感があり切なくてカッコイイ女。もう少し弱さを出してもいいかなとは思った。

シュテン@真木よう子さんは一生懸命ですがもう少し何か欲しいところです。

それにしてもライ@染ちゃんはやっぱ美しかった。特に後半、検非違使になってから以降なんて正直涎ものでした(笑)眉なしメイクが壮絶に美しい。徹底的な悪役で、やってることは本当に「最悪なやつ」なんですけど、染ちゃんがやるとどこか切なかったり哀れだったりします。人の脆さを感じさせるというか。もっともっと深化させられるはずなので期待してます。

演出の面ではオープニグとラストの美しさ、転換の上手さは相変わらず。いのうえさんらしいとしか言えない人物たちの動かせ方はもう少し工夫があってもいいかなと思わなくもないけど、定番の安心感はある。今回の不満はオープニングの大事な説明台詞を歌にしてしまったこと。歌詞がきちんと聞き取れればいんだけど新感線の音響の使い方は歌詞を聞かせるには向いてないんだよなあ。いつもほとんど聞き取れなくて、今回もマイクが割れててほとんど聞き取れない。それと一番大事なラストのライの台詞も音とマイクのせいでまーったく聞き取れない。ここはどうにかしてほしい。個人的にラストは音響効果は必要ないと思う。それとマイクもエコーをかけずに台詞を言わせてみてほしい。水音くらいなら台詞を舞台全体に通すだけの技術は染ちゃん持ってるはず。たぶん、スモークの音が邪魔だから効果音を聞かせてるんだと思うのよね。あそこのスモークの演出はちょっと失敗かなとか?あれなんとかならないかなあ。

うー、文句ついでに染@ライに着替えさせすぎでは?確か8回着替えしてるらしいです。ここで着替え必要?なとこもいくつか。いや、着せ替え人形な染ちゃんもいいんですけどね…全部素敵だし。でも2着くらいは減らせるんじゃあ。まあ、染ふぁん的に不必要なとこで体力使わせたくないとか思ってしまって(笑)今回も相当、体力を消耗する役ですからねえ…。殺陣減らすんじゃなかったの?にしても今回、いのうえさん、染ちゃんへの芝居に対する要求のハードルが高めかな、という印象。まあ、いつものことなんだけどね。

演出に言及したので脚本にも一言。中島さん、相変わらず荒くてツッコミどころ満載ですねっ。大筋は面白いのにやっぱり書き込みが足りないよう〜。特にマダレとかマダレとかマダレとかシュテンとかヤスマサとか。

『朧の森に棲む鬼〜Lord of the Lies〜』
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり

【キャスト】
ライ:市川染五郎
キンタ:阿部サダヲ
ツナ: 秋山菜津子
シュテン:真木よう子
シブキ:高田聖子
ウラベ:粟根まこと
サダミツ:小須田康人
イチノオオキミ:田山涼成
マダレ:古田新太


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