書物
好きな本について…

「ゲド戦記」4部作 アーシュラ・K・ル・グィン (岩波書店) 小説

 そう,初めてゲド戦記を読んだのは,高校生のときだった。以来ずっとファンだったりする。そもそも,登場人物が,ハイタカとか,ヒスイとかカラスノエンドウとか,通り名で呼ばれるところが,かなり心の琴線に触れたのだ。真の名前は,そのものの本質であり,それを知ることが,それを支配することになるっていう魔術的なお話が素敵。
 シリーズの中で一番好きなのは,やっぱり第1話の「影との戦い」だな。ゲドの影(=シャドウ)追跡行は本当にハラハラドキドキできる。これは,初めてゲドが成長していくストーリィでもあって,ゲドのまだ何とも未熟な部分もまた,キュートなのだ。全編魔法の風が吹いている感じ。次は第2巻の「こわれた腕輪」。このお話のゲドも結構いい感じ。もちろん,全シリーズ通して,ゲドが素晴らしいことには,変わりないけどね。物語全体の雰囲気が好き。この本を読んで以来,≪私の魔法使い≫といえば,ゲド君だったりする。
 お人好しの好漢,エスタリオル君もいい味なんだよね。
 ちなみに,早川SF文庫の「風の十二方位」に,戦記に登場するペンダー・ドラゴンのお話が収録されている。ペンダー・ドラゴンってば,お茶目さんなんだから…。


「ギルガメッシュ叙事詩」 (バビロニア神話伝説) 神話伝説

 ギルガメッシュは,ウルク(古代バビロニア)の王。暴虐のかぎりをつくしていたのだけれど,エンキドゥと戦い,そして,ギルガメッシュの勝利によって二人は親友になるのだった。このくだりは,まさしく少年ジャンプのような拳を交わしてこその友情が感じられてかなりグッとくるものがある。通じ合ってしまえば,もうお互いに言葉はいらない。とことんまで運命共同体。
 エンキドゥが,本当に素晴らしい。初登場のときは,「全身は毛に覆われ,髪は女のようだった/人も国も知らず,スムカン(家畜と植物の神)のような衣服をつけていた」っていう,いったいどんな人間じゃ…って感じなのだけれど,ギルガメッシュとの出会いを通して,本当に格好いい青年になっていくのだ。といっても,人間らしくなった分,美女に誘惑されて,カモシカや獣たちとの友情は失ってしまうのは,かわいそうな気もする。
 ギルガメッシュとエンキドゥの朋友コンビは,杉の森の番人フンババを倒し,天の牛を倒す。でも,それが神々の怒りに触れ,エンキドゥは死んでしまう。ああ,英雄(っていうか…)の死は悲しすぎ。そしてギルガメッシュは永遠の命を探して旅に出るのだった。自分の片割れが居なくなった悲しみ…。
 永遠の命と,愛。人間の魂とは…といったことを考えさせられる。母,友,女性…ギルガメッシュを翻弄する数々のドラマティックな出来事。


「ガウェイン卿と緑の騎士」 (アーサー王伝説) 神話伝説(かな)

 アーサー王の円卓の騎士たちの中で,一番好きな騎士は,文句なくガウェイン卿。トリスタンもランスロットもパーシヴァルも素敵なのだけれど,やはりガウェイン卿の魅力には,かなわない。
 緑の騎士のお話は,とても面白い。あるとき現れた謎の騎士。求められるままにその騎士の首を切り落としたガウェイン卿。そして,約束通り自分の首を切り落としてもらうために,旅に出る…。正直で,いい人なのだ。緑の騎士の奥方(美人)に誘惑されるだけでなくて,緑の騎士にも誘惑(っていうのかどうか…)されるガウェイン卿…。生真面目で率直,高潔な騎士。嫌みがなくって,本当にいい人なんだよね。そんなところが,みんなのお気に入りになる…(笑)
 ガウェイン卿の結婚のお話も,ちょっと素敵。人は外見にとらわれがちだけれど,本当に大切にするべきなのは,誇りをもって生きる姿勢と,相手のことを真摯に思いやる気持ちなのだと,素直に思うことができるお話。世界一の醜さをもった女性。でもその心は,清らかで美しい…。人間の価値って何だろうと思う。ラスト,奥様の容姿に変化がなくて,醜いままでも,きっとガウェイン卿は,気にしないのだろうと,思わせる。そう。そういう人なのだ。


「静粛に,天才只今勉強中!」 倉多江美 (潮出版社) 漫画

 フランス革命が今にも勃発しそうなフランス。港町ナントの修道院から伝説が始まる…。ジョゼフ・コティ先生,面白い人物。こんなに可笑しくていいのか…。
 モデルは,死んでからも,あることないこと面白がって書いたに決まっている大暴露日記の出版にあたって,世間の名士を恐怖のどん底へ突き落としたというジョゼフ・フーシェ。何が凄いって,恐怖政治時代を,ものの見事に権力を握りしめつつ泳ぎ切ったその,世渡り上手さ。
 サン・クルーの風見鶏と呼ばれ,ロベスピエールやナポレオンで遊ぶ人。最強の日和見主義者で,ある意味で最高の警察長官。コティ先生,大好きだ。生き抜くことがとても難しかった時代に,権力の風を読み切りながら,うまく泳いでいくことは,かなりの才能とお茶目さがなくては,無理なんだと思うね。ぼや〜っとしているようで,ちゃっかり抜け目なく,やることはやっているっていうコティ先生。
 老獪な政治家,誰からも嫌われるイヤな人間のイメージなだけではなくて,実は子どもたちへのあたたかいまなざしが,とても素敵。


「クリスタル・ドラゴン」 あしべゆうほ (秋田書店) 漫画

 ケルト神話が好きになったのは,高校生の時,この作品を読んでから。
 エリンの一氏族,グリアナン・クラーナに生まれた黒い髪のアリアンロッドと,族長の娘で金髪のヘンルーダ。あるとき邪眼をもつ赤毛のバラーがクラーナを襲い,一族は壊滅。復讐を誓って二人は旅に出る。
 真の名,≪常若の国≫ティル・ナ・ヌグ,ドルイド,マナナン・マク・リール…ケルト神話の独特なイントネーションをもった名前が,魅力的な響き。
 ケルト神話では,若き勇者,クー・フリンが大好き。英雄なだけあって,死に方も壮絶で格好いいし。ギリシャ神話の可愛い,愛しのアキレス君にも,雰囲気が似ている気がする。あ,いや,「クリスタル・ドラゴン」にはクー・フリンは出てこないけど…。
 ヨーロッパの北の最果て,アイルランド。そしてアルプス,ローマと旅は続く。妖精もドルイドも戦士も吟遊詩人も,すべてのキャラクターがそれぞれのサーガをタピストリに織りなすって感じなのだ。ローマ人もいい感じ。
 「クリスタル・ドラゴン」連載も佳境に入ってきた。でも,赤毛のバラー様(はあと)と対決するまでには,まだまだ先が長そうで,ドキドキしながら展開を見守っていきたい。バラー様も素敵なのだけれど,やはりお茶目なグリフィス君の行く末がとても気になるところ。律儀で健気,義理堅くてお人好し。可愛くて大好き。

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