好事家の物置
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アベラールとエロイーズ関係の... フィクション
篠田訳表紙 『薔薇物語』
ギョーム・ド・ロリス/ジャン・ド・マン『薔薇物語』見目誠・訳、未知谷、1995年4月(ISBN4-915841-19-7)。
ギヨーム・ド・ロリス/ジャン・ド・マン『薔薇物語』篠田勝英・訳、平凡社、1996年6月(ISBN4-582-33319-2)
挿し絵  西洋文学史を論じる場合、もしかするとダンテの『神曲』と同じくらい重要な著作なんじゃないかと思われるんですけど、日本ではあまり取り上げられてこなかった奇書です。ギョームによる正統派アレゴリー文学である「正編」(推定では、1225〜1230年頃に執筆)と、ジャンによる或る種不可解な教化文学である冗長な「続編」(推定では、1275〜1280年頃に執筆)とからなります。
 アベラールとエロイーズとの関連では、続編の8763〜8836行目に(見目訳では、215〜217頁)二人についての言及があります(→ 見目訳の当該箇所の引用)。当時、それほど知られてなかったこの二人の書簡を自ら俗語(中世フランス語)に翻訳し、当たり前の様に著書の中で言及しているのも、衒学的だと言われるジャンらしいと言えばらしいです。── 左の挿し絵は、『薔薇物語』の14世紀の写本(仏シャンティイのコンデ美術館所蔵)中にさし絵として描かれたアベラールとエロイーズです。
 なお、正編だけの翻訳なら『薔薇の物語』(ギョーム・ド・ロリス、佐佐木茂美・訳注、大学書林、1988年7月。ISBN ???)というのもありますが、これには当然、アベラールとエロイーズについての言及箇所は含まれておりません。
ヴィヨン「疇昔の美姫の賦(昔日の美女たちのバラード)」
『ヴィヨン全詩集』鈴木信太郎・訳、岩波文庫、1965年5月(ISBN4-00-325041-9)。
『ヴィヨン詩集成』天沢退二郎・訳、白水社、2000年9月(ISBN4-560-04697-2)。
 早い時期から鈴木信太郎訳で岩波文庫にも入っていることからも分かりますが、日本ではフランソワ・ヴィヨンの方が『薔薇物語』より遥かに知られてますし、また上記以外にも日本語訳がなされているそうです。で、その「ヴィヨン遺言詩集(ヴィヨンの遺言書)」(La Testament Villon)(推定では1461年末に執筆)の329〜356行目(鈴木訳では73〜75頁、天沢訳では66〜68頁)「疇昔の美姫の賦(昔日の美女たちのバラード)」(Ballade des Dames du temps jadis)で、ビュリダンなどとともにアベラールとエロイーズについての言及がありますが(→上記バラッドの引用、鈴木訳「疇昔の美姫の賦」、天沢訳「昔日の美女たちのバラード」)、おそらくヴィヨンは上記ジャンによる『薔薇物語』続編を通じてこの二人のエピソードを知ったのだろうと推定されてます。
 ちなみに、しばらく前に評判になったウンベルト・エーコの小説『薔薇の名前』で、最後に回想を終えるシーンの記述は、ヴィヨンのこのバラッドを意識して書かれてるんじゃないかなぁって私には思えてなりませんが如何でしょう?
『新エロイーズ 』
ルソー『新エロイーズ』安土正夫・訳、岩波文庫、1960年11月〜1961年3月(ISBN 1:40033622412:400336225X3:40033622684:4003362276)。
 『社会契約論』や『エミール』で有名なジャン・ジャック・ルソーによる、アベラールとエロイーズの18世紀的再現、書簡体小説です。原著が書かれたのが1761年2月だから、この頃にはアベラールとエロイーズも有名になっていた頃です。ルソー以外にもこの手の創作はいくつかあるようですが、他に翻訳で手に入らないかぼちぼとと調査中。(^^;
 あらすじとしては、貴族令嬢ジュリが男爵夫人になった後に昔の恋人で家庭教師だったサン・プルーに再会し、情熱と貞節の間で思い悩み、最後に病床で自らの本心を綴る、というものらしいのですが、私自身はまだ読んでません。(^^;;;
表紙『エロイーズ 愛するたましいの記録』
ジャンヌ・ブーラン『エロイーズ 愛するたましいの記録』 福井美津子・訳、岩波書店、2003年2月(ISBN4-00-022264-3)。
 訳者によると、著者ジャンヌ・ブーラン氏は今や「中世を専門とする有名な作家」だそうで、本書も「いきいきとした伝記であると同時に高度に忠実な時代考証」という賛辞を得ているらしい(誰からの賛辞なのかは書いてないけど)。そして本書もアカデミー・フランセーズ賞を受賞したとある(何年に受賞したかは書いてない)。とはいえ、原作の書かれたのが1966年だから結局それは40年前の時代考証で、丹念に二人の書簡集とジルソンを読んでいて、それらに忠実なかたちでフィクションを作り上げているだけだという印象をうける。
 原題は「Tres sage Heloise」で、上記、フランソワ・ヴィヨンのバラッドから取っているようで、基本的にはエロイーズ賛美。つまり著者はいい意味でも悪い意味でも熱心なカトリックで、若き日の肉欲を克服したエロイーズはアベラールに導かれてついには神の方へと向き直る「聖女」として描かれる。
(ちなみにVOCES VOCALISに書いたこの本の感想はコチラ
『エロイーズとアベラール ── 三つの愛の物語』
アントワーヌ・オドゥアール『エロイーズとアベラール ── 三つの愛の物語』長島良三・訳、角川書店、2003年1月(ISBN4-04-897205-7)。
表紙  アベラールとエロイーズの二人に惚れ込んだ著者が「一生を捧げてもいい」という思いで書いたという作品。
 原題は「Adieu, mon unique」で、アベラールとエロイーズ書簡集の第二書簡、つまりエロイーズ最初の書簡のしめに使われている言葉 (畠中氏は「さらば、唯一の方よ」と訳されている)。結局、この言葉がすべてを物語ることになる。
 歴史小説というのは、歴史的「事実」があって、それに著者によるフィクションをからめて綴られるものだけれども、そういう事実をどれくらいきちんと調べているか、そして調べた事実をどれくらい上手に使っているかで、物語としての良し悪しが決まると思う(著者が事実を無視して妄想ばかり膨らましているのははっきり言って興醒めだ)。そういう点で、この物語は上出来だ。ここ20〜30年の歴史研究の成果を調べたうえで、著者独自の虚構世界を作り上げている。
(ちなみにVOCES VOCALISに書いたこの本の感想はコチラ
裏表紙『王妃の離婚』
佐藤賢一『王妃の離婚』集英社、1999年2月(ISBN4-08-775248-8、文庫版:4-08-747443-7)。
 第121回(昨年)直木賞受賞作品。15世紀のパリ、カルチェ・ラタンでアベラールの再来といわれたが今は失意のフランソワが、圧倒的に形勢不利な王妃の離婚裁判で弁護を引き受けることで、失われた日々の何かを取り戻すという物語。
 良い意味でも悪い意味でも「痛快娯楽活劇」。初めの方こそいらいらさせられますが、勧善懲悪で、しかも予想通りの展開、期待通りの結末で、途中からは一気に読み通せます。
 いや、何て言うか気になるところは多々あるんですが(メンタリティが男性はいやに現代風なのに女性だけ古風とか、簡単なラテン語が突然出てきて長々と解説されるとか、アベラール理解があまりにも浅薄じゃないかとか、等々、数え上げだしたら次々出てきます)、でも、主人公のフランソワは15世紀のアベラールなんですね、私、それだけで赦してしまいます。とはいえ、アベラールとフランソワと自分自身と重ねあわせながら読んでいくと、フランソワは決してアベラールのような天才肌の感性は持っていない気がしました。たかだか私程度に近いんですよ、つまりその辺にごろごろ転がっている程度の学者に近いんですよ。純粋さと無謀さと脆さと有り余るほどの才能を併せ持ってしまった天才の、凡人には理解しがたい感性は、フランソワにはないんです。そこは最後にどうしょうもなく気になりました。
表紙 Marion Meade, Stealing Heaven
Marion Meade, Stealing Heaven : The Love Story of Heloise and Abelard, Soho Press, Inc., July 1994 (ISBN: 1569470111).
 Amazon.comに載っていたある読者評によれば「エロイーズとアベラールは、Marion Meadeの書いた本の中でほど感動的に描かれたことは決してなかったって、思えてならないの。それに、彼女は中世フランスをとてもとても優雅に描いているし。恋する人は誰でもこの本を買うべきよ。こんなに感動的な物語はなかったから。」とのこと。しかし、私自身は(買ったけど)まだ読んでないので、読んだら自分なりのコメントを載せることにしましょう。
Gloria Skurzynski, Spider's Voice
Gloria Skurzynski, Spider's Voice, Atheneum, March 1999 (ISBN: 0689821492).
表紙 口がきけず、糸をつむぐのが得意な少年(通称「Spider」)がたまたまアベラールの召使に雇われ、彼の目からエロイーズとのスキャンダルが語られるという筋立てです。対象年齢が「Young Adult」ってしてありますが、字も大きく、英語表現も難しくはないので、少年/少女向けって感じでしょうか(とはいえ、英語の物語を読むってのかったるくなってしまって、途中で読むの投げ出してしまってるんですけど)



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