本稿は2001年11月に行われたインタビューをもとにダイヤモンド社が作成したものです。ダイヤモンド社の許可を得て掲載しております。

<ゴールドラット博士のインタビューから>

リストラなき業績回復のための思考プロセス

日本とTOCの出会い

 『ザ・ゴール』が日本でベストセラーになっていることを光栄に思っている。発行後半年で三五万部というのは驚くべき数字だ。
 それもあってか、一七年間も日本での翻訳出版を認めなかったのはなぜか、いまになって許可したのはなぜか、とたずねられることが増えた。方針を変えたのではない、状況が変わったのだ。
 一九八四年に『ザ・ゴール』をアメリカで出版したとき、アメリカは不況にあえいでおり、日本は世界を席巻する勢いだった。そんな日本に「制約条件の理論」(TOC:Theory of Constraints)を教えたら、世界経済がもっとおかしくなると思った。
 だが、いまや日本は当時のアメリカと同じ状況にある。経済は不況に沈み、企業はリストラに熱心なように見える。TOCが日本の産業に貢献すべき時が来たと判断し、翻訳を認めたのである。
 ただし、一つ危惧していることがある。それは、TOCがカバーする領域は広いのに、日本で最初に出版され、しかもベストセラーになったのが、工場の生産管理を扱った『ザ・ゴール』だったことで、TOCがたんなる生産効率化の論理だと誤解されかねないことである。
 今日、ほとんどの業界で、問題は生産・製造にではなく市場にある。どの会社も、作れないからではなく、売れないから悩んでいる。それなのに、TOCが生産分野だけに導入されたら、工場労働者を中心にリストラがさらに横行しかねない。産業に貢献するどころか、人々の生活を破壊することにでもなったら、それは私の願いと正反対である。

リストラは人間の尊厳を損なう

 私はかつて、『Inc.』誌によって国内成長率第六位にランキングされたハイテク企業の経営者だった。当然、ビジネスの原則を受け入れている。その私が、なぜリストラを深く憂慮するのか、その理由を説明しよう。
 私はイスラエル人だ。国民の義務として一八歳から三年間兵役に就き、その後も、四二歳までは毎年、最低三〇日間の兵役に就いた。業績好調なアメリカ企業のトップだった私は、毎年その時期がくると、ファーストクラスでイスラエルに帰り、軍隊で二等兵としての扱いを受けた。
 そんなコントラストが、人間という存在について考えるよう私を促した。ある年、レイオフされて一年以上職を見つけられないでいる男と同じ兵舎に入った。タフな環境で寝起きをともにしながら、私は、失業が人を不安に陥れ、プライドを奪う、おぞましい体験だということを理解した。それ以来、私は感情的といってもいいほどレイオフやリストラを憎むようになった。
 無責任な怠け者ならレイオフされてもかまわない。仕事をきちんとこなす誠実な従業員が、トップマネジメントの能力不足ゆえに解雇されることが問題なのだ。
 リストラの背後にある効率至上主義を問題にする声があるが、私に言わせれば、効率を正しく追求すれば、むしろリストラの必要はなくなる。マネジメントが追求すべき優先順位を間違えるから、リストラに頼らざるを得ない状況に陥ってしまうのだ。
 私は、終身雇用制は日本企業の競争力の源泉の一つだと考えている。残念ながら、日本企業はこの美徳を放棄しつつある。従業員に忠誠を尽くさない企業が、従業員からの忠誠を期待することはできない。従業員の忠誠を得られない企業は顧客からも忠誠を得ることはできず、遅かれ早かれ、市場から淘汰されてしまうだろう。

TOCの世界の広がり

 私は『ザ・ゴール』で、企業の目的は「現在から将来にわたって、お金を儲けることである」という命題を掲げ、その目的を達成するための合理的な思考プロセスを、生産管理の世界を舞台に説明した。
 それ以来、TOCの世界は進化している。『ザ・ゴール』に続いて日本で出版される『ザ・ゴール2──思考プロセス』(原題It's Not Luck)では、「現在から将来にわたって、お金を儲ける」に加え、「現在から将来にわたって、市場を満足させる」、「現在から将来にわたって、従業員に対して安心で満足できる環境を与える」という二つを、企業が満たすべき必要条件として掲げた。そして、二束三文で売り払われかけている会社を舞台に、三つを同時成立させるための合理的な思考プロセスを説明した。
 三つを同時に成り立たせなければ企業の永続的繁栄はない。しかし、三つはトレード・オフの関係になることがある。このコンフリクトをどう解消するか? 『ザ・ゴール2──思考プロセス』はその問題を真正面から扱った本である。
 TOCは、いまではあらゆる分野でソリューションを提示できるようになっている。生産、流通、ロジスティクス、エンジニアリング、マーケティング、営業・販売、会計、人事…TOCがカバーする領域は広い。実際、さまざまな業界、さまざまな企業、さまざまな分野で導入され、めざましい成果を上げている。
『ザ・ゴール2──思考プロセス』の主人公は、『ザ・ゴール』と同じアレックス・ロゴ。彼が駆使するTOCの思考プロセスがどのようなもので、その結末がどうなるかは、二〇〇二年二月に出版される本を読んでいただきたい。

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