随筆 なんじゃもんじゃの木 今むかし
  関東地方でその地方に見られない種類の大木を「なんじゃもんじゃ」と云ってたのだそうだ。
植物分類で有名な故牧野博士の著作にこれを題名にしているものがあって、その中で「何ぞや物
ぞやの訛りなり」と云っている。「あんにゃもんにゃ」、「あんにゃもんじ」などは、更に訛っ
たものであろうと思う。「なんじゃもんじゃ」は、樹種を呼んだものと樹木個体を呼んだものが
ある。                                                                              

 牧野博士は有名な八つの「なんじゃもんじゃ」を紹介している。それは、東京の青山練兵所の
ヒトツバタゴ、筑波山のアブラチャン、小石川植物園のウスバヤブニッケイ、紀伊の那智の入り
口のシマクロキ(標準和名はハマセンダン)、三嶋大社のカツラ、東松山市箭弓街道付近の
イヌザクラ、房総半島のバクチノキ、千葉県香取郡神埼神社のクスノキだ。
三嶋大社のカツラは、将軍家よりお尋ねの節、宮司がナンジャモンジャと御答えしたという伝説
があったとのことだ。                                                             
 
 いま、青山練兵所のヒトツバタゴの二代目が明治神宮外苑絵画館前で育っている。筑波山のア
ブラチャンや房総のバクチノキは樹種を言ったようで今は耳にしないし、小石川植物園のウスバ
ヤブニッケイ、那智の入り口のシマクロキの情報もない。三嶋大社のカツラは確認できないし伝
説も知られていない。東松山のイヌザクラ、神埼神社のクスノキは存在している。このクスノキ
には、水戸の黄門様の問いかけに、土地の人が「なんじゃもんじゃ」と答えたという逸話は語り
継がれている。博士の著作から50年が過ぎた状況である。                             

 インターネットで人気の検索ツールで「なんじゃもんじゃ」を検索すると5000頁が抽出さ
れる。更に「木」で絞れば1850頁になって、多くはヒトツバタゴ(モクセイ科)の記事であ
る。「なんじゃもんじゃ」はヒトツバタゴの別名として全国で使われ、広場、並木道、森などの
愛称にもなっている。言葉の響きも良いし、親しみを感じるのであろう。「なんじゃもんじゃ」
の名が一樹種に絞られるのは混乱防止の上で良いことだ。                                

 ヒトツバタゴは尾張藩の本草学者水谷豊文(1779−1833)が尾張の山中で発見し命名
したもので、タゴ(標準和名はトネリコ)に似ているが、葉の形が違うことから(ヒトツバ+タ
ゴ)とした。この木は中国や朝鮮半島に多く、日本では長崎(対馬)、岐阜、愛知の各県に自生
していて、絶滅危惧U類(絶滅の危険が増大している種)に設定され、国の天然記念物としても
保護されている。対馬の呼称に「うみてらし」、「なたおらし」がある。「うみてらし」は、雪
をかぶったように咲く花が海面を照らす感じから、「なたおらし」は鉈が折れるほど木質が硬い
ことによるものらしい。「うみてらし」はヒトツバタゴが独占している名で、花期の情景が眼に
浮かぶ良い名だと思う。                                                              

 以上の他にアキニレ、イヌシデ、クロモジ、ダンコウバイ、チャンチン、バラモミ、マユミの
「なんじゃもんじゃ」があったようだ。「なんじゃもんじゃ」は、その昔土地の人々が敬い接し
た古木である。多くのものが姿を消す中で、ヒトツバタゴの「なんじゃもんじゃ」はいたるとこ
ろにあるから、ここではそれを除いた「なんじゃもんじゃ一覧表」を作り、一時代の記録にした
い。一覧表作成では現物確認したものもあるが、机上で集めた情報が主であり、読者の皆さんの
生きた情報を加えて、充実したものにしたいと思っている。                              

                                                 作成:2003年5月25日 津里昭一
出典・参考:牧野植物随筆 ナンジャモンジャの真物と偽物 2002年4月10日 講談社発行                 
            牧野富太郎選集第三巻 ナンジャモンジャの木 昭和56年7月25日 東京美術発行       
            柳田國男集 なんじゃもんじゃの樹 昭和30年1月15日 筑摩書房発行  
            広辞苑 第5版 1998年11月11日 岩波書店発行                             
            日本大百科全書 エンサイクロペデア・ニッポニカ SONY発行             
            インターネット ホームページ全般                                         
[Top Pageに戻る]