本題に入る前にまず語句の整理をしておきましょう。おそらくみなさんの中で腎臓病学が好きだという人はそういないと思います。学生時代に真面目に勉強した人でも「腎臓病はやたら分類が多くてよくわからなかった」というのが正直な感想ではないでしょうか?。理由の一つとして、その分類をごちゃ混ぜにして無秩序に教えられた、ということが挙げられるかと思います。
臨床でよく診る腎臓病には一つの病気に対し3種類の分類からそれぞれ名前がつけられています。この3つを個々に整理すれば分かりやすいでしょう。
1)腎機能からの分類
急速な腎機能低下によって体液のHomeositasisが維持できず、アシドーシス、電解質異常、高窒素血症、尿毒症症状を認めるもの
年、月オーダーの変化で腎機能が不可逆的、進行性に低下してゆく症候群。一応クレアチニンクリアランスが50%低下または血清クレアチニン値が2.0mg/dl以上と言われるが、これにこだわらない。
2)臨床経過、尿検査等の簡単な検査で分けた臨床症候群分類(それぞれの定義は省略)
3)病理組織学的特徴を主体に分類(従って組織検査ができないと確定できません。ただし上記1)、2)と経過からある程度の予測は立てられます)
などなど・・・・
おそらく大学での講議ではこれらをアトランダムに教えられたのではないでしょうか?。実際には一人の患者さんに対し上記3点からそれぞれ診断名がついてゆくのです。一つの病気に3つの名前がつくわけです。たとえば・・・・
○T.Y.36歳男性。急性腎不全(1)を呈したネフローゼ症候群(2)でその組織型は微小変化群(3)です。
○M.F.60歳男性。B型肝炎ウイルスによる膜性増殖性腎炎(3)でネフローゼ症候群(2)が持続し現在血清Cr値3.0mg/dl、Ccr20ml/minと慢性腎不全(1)に陥っています。
という具合です。いろんな組み合わせがあるわけですね。もちろん例外はありますが、一応こう理解しておけば本を読む時に面喰らわなくて済むと思います。・・・・・・・・・さて、以下本題に移りましょう。
1:まず、緊急で対応すべき患者と時間をかけてもいい患者とを分ける
2:腎不全ならその鑑別(急性か慢性の急性増悪か)、腎不全でない場合にはその臨床病型を推定し至急入院が必要か数日以内に入院が必要かそれとも日をおいて腎疾患専門医に受診でかまわないかを判断する
3:至急に入院が必要な場合は緊急に透析が必要な否かを判断し、しかるべきところにコンサルトする(緊急透析要の場合、透析センターに直行する)
以上の流れの中で病歴、身体所見、検査所見を取りながら最終的に治療方針を決めてゆくわけです。最初から腎疾患専門医に任せてしまえばいいといわれるかもしれませんが、腎臓の専門医の数は大きな総合病院以外ではあいにく十分そろっていないことが多く、非専門医の段階である程度見きわめをつけられないといけないのです。さらに特に高齢者ではほとんどの例で潜在的に腎機能が低下していると考えておくことが必要ですので、日常的に腎疾患を診られる能力をつけておくことがこれからのの臨床医(内科に限りません)にとってぜひ必要ですし、診療面での貴重な”武器”にもなるのです。
腎不全には特異的な自覚、他覚症状がないため受診までの病歴が非常に重要です。参考までに示しますと、腎不全の症状として代表的なものは全身倦怠感、食思不振、嘔気嘔吐、です。その他詳細はこの下の”看護婦さん向け腎不全講議”を参考にして下さい。
腎機能低下が推定される基礎疾患病態がある(長期にわたる腎炎、ネフローゼの病歴、高齢者、鎮痛剤等の”腎毒性”のある薬剤の常用歴、内服歴がある)、脱水(急激な体重減少、食事摂取状況、熱性疾患の有無から推定)またはいっ水(糖尿病歴の長い場合や心疾患のある場合の浮腫、体重増加)が疑われる場合に腎不全を疑い確かめることが必要です。特に高齢者に対しての鎮痛解熱剤(内服でも座薬でも)の投与歴、利尿剤とACE阻害剤、NSAIDs等腎血流を低下させてしまう薬剤の投与、造影剤の使用なども腎不全の存在を疑うきっかけになります。高齢者では程度の差こそあれ腎機能が低下している、という認識を持っておいてください。健常人であっても、80才でかつての60%に落ちているといわれています。
病歴で重要な事項:1)脱水の有無、2)内服薬剤(市販薬、民間療法、健康食品を含む)、3)過去の腎機能障害の指摘の有無、4)慢性腎炎、糖尿病、高血圧の既往ならびに発症時期についての把握、5)体重の変化(わからなければその場で計測!!)
身体所見で重要な事項:浮腫、血圧、ラ音、心雑音、尿量、腹部血管雑音
検査所見で重要な事項:いっ水があるか(特に肺水腫)、高カリウム血症があるか、著明なアシドーシスがあるか(これらはいずれも緊急透析を必要とする根拠の一つになる)、また脱水がある場合には高度かどうか、腎萎縮があるかどうか(腹部エコー)
全く自覚症状なく受診した場合にはほとんどの場合治療の緊急性はありません。また自覚症状が強い場合、上記の身体所見に異常がある場合、上記検査所見がある場合、ほとんどが入院または至急治療(透析)が必要な状態です。問題は症状が軽い場合です。この場合にも緊急透析を必要とするような病態が隠れていることもありますので注意が必要です。特に腎疾患診療においては、病歴から重要な情報が得られることが多くその意味でいかに短時間に病歴を把握することができるかが予後を左右するとも言えますが、最終的には検査所見(上記検査所見項目を参照)で緊急性およびその後の方針を判断するしかありません。病歴、身体所見は道を間違わないための大切なきっかけであり、検査所見で具体的な治療方針を決定する、と考えておいて下さい。
血清クレアチニン値が高く腎不全だと一応診断できた、としましょう。では次にどうすればいいか?、これを判断できることが非常に大事です。さっそく検査をしましょう。
1)胸部レ線
2)血液生化学、尿中電解質、尿中Cr、検尿沈渣
3)検血
4)血液ガス分析(呼吸不全、肺水腫がなければ静脈血でも可)
5)心電図
6)腹部エコー
以上の検査をすれば終わりです。どうですか?、簡単でしょう。何も特別な検査をする必要はないのです。これらの検査所見から
急性腎不全と慢性腎不全急性増悪の鑑別、原疾患の推定、透析が今必要かどうかの判断ができればいいわけです。このように順序だてて考えてゆけば治療方針は自然に決まってくるわけです。では診断をすすめてみましょう。
●急性腎不全と慢性腎不全急性増悪の鑑別
これは病歴、自覚症状+上記2)、3)、6)でできます。
| 急性腎不全 | 慢性腎不全急性増悪 | |
| 腎機能データの割に症状が軽い | No | Yes |
| 正球性正色素性貧血 | No(貧血は基本的になし) | Yes |
| 病歴、以前のデータ異常 | No | Yes |
| s-Cr上昇率 | 0.5~1.0mg/dl/day | progress slowly |
| 腎エコー所見 | 腫大 | 萎縮またはエコー輝度上昇(例外あり後述) |
●急性腎不全の場合には腎前性、腎性、腎後性の区別を必ずしておくことが重要です。治療方針決定に大きく関わるからです。
腎前性:FENa低値(FENa=[(u-Na/s-Na)/(u-Cr/s-Cr)]×100(%))。 1.0以下なら腎前性です。早期なら多くの場合補液のみで治療でき、透析を回避できます(s-Cr値が高くても)。放置すれば腎性腎不全に移行し、透析が必須となります。
腎性:FENaは通常1.0以上。病歴から推定できますが詳しくは専門医コンサルト要。ほとんどが急性尿細管壊死です。この場合にはs-Cr値が低くてもできるだけ早期の透析開始が必要になります。
腎後性:尿路の通過障害によるものですから原因がなんであれ腎エコーで水腎、水尿管を確認する必要があります。片側性の閉塞では通常腎不全にはなりません。下部尿路の問題なら膀胱内留置カテで十分です(前立線肥大のある人に抗コリン作用のある薬剤が投与されるとおこりやすいですね。PL等でおこることもありますので注意を)が、上部尿路の場合には腎瘻造設も考えないといけません(緊急で泌尿器科コンサルト!!)。閉塞解除のみで急速に改善します。ただし、閉塞解除後にかなりの利尿(postobstructive diuresis、時に1L/hour以上)がつくことを頭において適正な輸液管理をしてください。
ここまでは時間との勝負ですのでできるだけ早く行ってください。以下に示す原疾患の推定にも関わりますが、エコーを必ずその場で行うことを肝に命じておいて下さい。腎臓の描出は肝臓をくまなく見るのに比べ遥かに簡単ですから、臨床医であれば必ずできるようにしておかなくてはなりません。
●慢性腎不全の場合、後述する”今透析が必要か”で示す条件にあてはまらなければ治療を急ぐ必要はありません。症状があれば入院は必要でしょうが、安静にして脱水があれば輸液、いっ水があれば利尿剤を、高血圧に対する治療等保存的にやればほとんどの場合落ち着きます。またたとえ”今透析が必要”と判断されても、数回の透析後一時的に離脱することも多く、内シャントを作ったり透析に向けての勉強をしてもらう時間的余裕が作れるかもしれません。
●原疾患の推定(慢性腎不全急性増悪の場合)
慢性腎不全患者において腎エコーで腎形態を把握することは原疾患を推定しその後の治療スケジュールをたてる上で重要です。
糖尿病による腎不全:萎縮なし(エコー輝度の上昇は認められる)
異常蛋白沈着症(アミロイドーシス、lipoprotein腎症):腫大(上記の例外にあてはまる)
良性腎硬化症(虚血性腎症):辺縁不整、凹凸あり
慢性腎盂腎炎:辺縁不正、凹凸あり。ただし左右差があったり水腎症を合併していたり、尿所見(白血球尿等)で腎硬化症と鑑別できます。
腎血管性高血圧:治療抵抗性の高血圧で腎左右差がある場合
●今透析が必要かどうかの判断
病歴および検査のうち1)、2)、4)、(または5))で判断できます。
まず、急性腎性腎不全なら上にも書いたとおり透析を早く開始します。その他、検査からコントロール不可能(または治療抵抗性)の高カリウム血症、肺水腫、著明なアシドーシスがあるかどうかをチェックしてあればほとんどの場合そのまま透析センターに直行です。ここで、それぞれどのくらいの値なら透析を開始するのか?、という基準は残念ながら作れません。それぞれのいわゆる”生命維持のための限界値”を超えていればただちに透析でしょうが、最終的には年令、緊急度、増悪速度、他の合併症、臨床症状等を総合的に判断して決定するからです。この段階ではもう腎専門医に任せてしまうことになります。もっとも、約10例の腎不全患者を経験すれば、勘がいい医者ならだいたいのところは分ってきますが。また、病歴から薬剤やある種の物質の蓄積が腎不全の原因として考えられる場合に除去可能の物質であれば透析を必要とします(ACEIの過量投与、造影剤の蓄積、著明な高尿酸血症などがあります)。ただし、いわゆる薬物中毒の場合にはその薬剤に透析性がないことのほうが多いためあまり透析の適応にはなりません。ICUでの全身管理が優先されたり血液吸着(Direct Hemoperfusion)等の他の血液浄化法が適応になります。無尿、乏尿の場合にも透析が必要となることが多いですがここで腎前性腎不全を見のがしてはいけません。せっかく輸液だけで治るところを無駄な透析をしてしまうことになるからです。腎前性急性腎不全でs-Crが高いからといって、十分な輸液をしないまま透析で治療しようとすると治癒までの期間を医原性にのばしてしまうことになりますしコストの面でも何倍(何10倍)もかかってしまいます(このようなことは慣れていない医師が透析の必要性を判断する場合しばしばおこりえます)。急性腎不全は透析のタイミングを逸しなければどのような治療をやってもほとんどの場合必ずなおります。しかし何も考えずにやっていると何倍ものコストと時間と労力を使うことになるのですから、ちゃんと考えましょう。
腎不全ではない、とわかっても安心できません。至急に入院または専門医へのコンサルトが必要である可能性があるからです。では、そのような病態の見分け方を考えてみましょう。それぞれの疾患で特徴がありますので以下列挙してみます。詳しくは教科書または腎専門医に聞いて下さい。
1)急速進行性腎炎:定義については教科書を読んで下さい。最近特にANCA関連腎炎として脚光を浴びてきました。これはできるだけ早くステロイドの大量療法に踏み切らなければ後遺症(腎不全、またはそのまま慢性維持透析、または肺胞出血で死亡)で大変なことになります。治療開始時にs-Crが5を超えていれば治療で病勢は押さえられてもおそらく慢性腎不全になってしまいますし7、8を超えていればステロイド治療をあきらめて透析導入(維持透析)に持ってゆくほうが安全です。なお、ステロイド療法は死亡のリスクが高い、と一部でいわれていますが、ステロイド投与法を工夫すること(減量して治癒より増悪の抑制に主眼を置くこと。)免疫抑制剤(エンドキサン等)の使用をできるだけ控えること、すでに高度腎不全がある場合には薬物療法をあきらめて維持透析に導入することでburn outさせること、以上の方針でやれば感染症等肺出血以外の原因で死亡するリスクを大幅に減らすことができます。しかし病初期から肺胞出血を伴うような”劇症”例では血漿交換、ステロイド大量、エンドキサン併用等、思いきった治療にただちに踏み切らなければ救命困難になります。この辺の見きわめは非常に難しいですが、倉敷中央病院ではこのような治療指針のもと死亡率はそうとう低く押さえられています。
2)急性発症のネフローゼ症候群:これも放置すると急性腎不全になることがありますのでできるだけ早く入院が必要です。
3)急性間質性腎炎:薬剤、膠原病等が原因でおこってきます。診断治療がおくれると腎機能はもとに戻らないことも多く、できるだけ早く原因薬剤の中止や原疾患の治療に入ることで治癒させることもできます。
4)急性腎炎:最近小児科でもほとんどみなくなりましたが、ひどい場合には入院安静を要します。
腎不全=透析、非腎不全=保存療法、のように短絡的に考えると大変な目にあうことがあります。腎不全であっても透析を回避できる場合はたくさんありますし(上記【3】に書きました)、腎不全でないからといって透析(というか、広い意味での血液浄化療法)が不要だとは言えないからです。この点を以下に説明します。
1)パラコート中毒:これは初診時に問題ないように見えても血液吸着を含めた集学的治療をやらないと100%死亡します。初診後数時間の対応が予後を決定します(後述)。
2)重症急性膵炎:CHDFといわれる持続血液浄化法が必須です。初診時の腎機能がよくても導入する場合が多いです。
3)その他多臓器不全:SIRS、MOFのような病態では腎機能のいかんに関わらずCHDF等を要することがあります。広い意味で上記2)もこれに含まれます。
したがって、一言で透析といっても、しかも一見同じ装置を用いて同じように治療しているかのように見えても、実際に”透析装置”の中で行われていること、装置を使って何を狙って治療しているのかということが、症例毎、病態毎にそれぞれ異なるということが(勘がいい方には)少しは分っていただけたでしょうか?。
→これについては一旦書き出すと”超大作”になりますので、ひとまずこの下に書いている看護婦さん向け腎不全講議の内容を参考にしてください。
簡単に言うと、広い意味で透析、という場合には
過剰な水分を除去する→“限外濾過”
尿毒症物質を除去する(症状の改善)→厳密にいう“透析”
アシドーシスを改善する→厳密にいう“透析”
高K、高、低Na血症、高尿酸血症を是正する→厳密にいう“透析”
蓄積した薬物を除去する
補液のスペースを作る
サイトカインを除去する(これにはまだ異論があります)
のような意味を含んでいるわけです。ですから、目の前の患者さんに今どのような目的でどういった条件で血液浄化がなされているか、常に考える習慣をつけてください。そうやってゆけば腎専門医でなくてもかなりのところまで間違いのないマネージメントが比較的短期間でできるようになります。反対にこういった習慣をつけていなければいつ迄たっても”透析はよくわからない”という思いから抜けだせません。透析を含めた血液浄化療法の考え方は実はそんなに難しくないものなのです。これまでに書いてきたことが頭に入っていれば、大きな間違いをしなくて済みますし、腎専門医ともある程度議論することが可能になっているはずです。
今までにいくつか書いていますが、腎不全の治療を考えることも大事ですが、脱水を放置したり薬剤投与等による医原性の腎不全を作らないようにすることも非常に大事です。特に高齢者への処方時にはその腎機能を十分に想像した上で投与量の減量、投与間隔の延長を心掛けてください。高齢者に限らず血清クレアチニン値が正常でも”腎機能は問題ない”と間違っても短絡的に考えないように!!!!。理由はここに書きませんのでよく考えて下さい。研修医(指導医としての立場の医師ですら)が「クレアチニンは正常であり腎機能は問題ありません」といっているのを聞くといつも悲しくなってしまいます・・・・。
(例):高齢者、腎機能低下患者:鎮痛解熱剤は必ず脱水がない状態で使用する。座薬はできるだけ使用しない。抗生剤(一部例外あり)、H2-blocker、PPIは投与間隔をあけることで減量する。ザイロリックは少量から開始(1〜0.5錠/日)。降圧剤のうちACEI、AT2拮抗剤は少量から開始する。等・・・・
倉敷中央病院では1988年から現在までのパラコート中毒全症例の救命率が70%という高率を維持しています。最近は種々の理由で行っておりませんが、詳しくは透析医学会誌の1991年24(11):1463〜1469p、集中治療vol4 no3 1992(3),365~366pを御覧ください。
ポイントは強力な腸洗浄によって体内に吸収されるパラコートを最小限にすることです。もちろん血液吸着、強制利尿、抗酸化剤投与の併用で結果的に服用後12〜16時間以後のパラコート尿中定性反応を持続的に陰性化することが最終目標です。個人的には強力な腸洗浄が服用後数時間以内に行えればほとんどが救命できるのではないか?、との印象をもっています。
【1】 まず症例提示
1)75歳女性。もともと高血圧症で近医にて加療中、6ヶ月前の採血で血清Cr値は1.2mg/dlであった(→[2])。入院1週間前から感冒様症状に引き続き下痢がはじまり約4kgの体重減少がみられた。食思不振、嘔気、倦怠感が続くため紹介受診。腹部エコー上腎は両側とも正常大であったが表面不整で、肺水腫、アシドーシス、高K血症なし。血清Crは5.0mg/dlに上昇していた。救急センターで約1000mlの補液をしたが利尿が得られず、入院後更なる補液と利尿剤投与で尿量確保可能となり、入院翌日血清Cr値6.0まで上昇するも以後徐々に低下、約10日間で2.0mg/dlにまで回復した。透析は施行しなかった。
2)35歳男性、生来健康であった。徹夜で飲んだあと町内会の運動会に参加し100m走に出た後、両側の腰背部の激痛、全身倦怠感、食事は全く摂れない、嘔気嘔吐あり、尿がでない、を主訴として3日後に救急センター受診した。両側腎は腫大し、血清Cr値5.0mg/dl、肺水腫、貧血、高K血症なし、アシドーシス軽度(→[3])。救急センターでの補液、利尿剤投与で利尿なし。緊急透析が開始されたが離脱まで約10日間を要しその間無尿で連日血液透析を施行した。以後利尿が得られ約3週間後には腎機能正常化した。
3)60歳男性。以前から糖尿病、ネフローゼ症候群、腎不全を認めていた。入院前2週間で約8kgの体重増加があり、全身浮腫、乏尿、夜間の咳、呼吸困難が出現したため救急センター受診。食思不振なく嘔気もない。血清Cr値5.0mg/dl。肺水腫、低酸素血症もみられた。酸素吸入しながら合計2日間にわたりECUM(限外濾過、除水)を行い(→[6])症状消失、透析離脱した。以後血清Cr値5.5mg/dl前後で安定していたが数ヶ月後より徐々に腎機能低下し、6ヶ月後より維持透析に導入となった。
4)50歳男性。以前から高血圧で近医で治療中であった。最近血圧が高くなり降圧剤が増量となり、浮腫もあるため利尿剤も開始された。1週間前から膝関節痛で鎮痛剤を飲み始めてから食思不振、倦怠感を自覚するようになり、当院受診した。近医での内服はレニベース2錠、ラシックス40mg、ボルタレン錠3T分3、である。血清Cr値は5.0mg/dlであった。著明なアシドーシスと高K血症(K 7.0mEq/L)を認め緊急透析(→[6])となった。2日間施行した後離脱、安定時の血清Cr値は1.5mg/dl前後であった。
5)40歳男性。重症膵炎で紹介入院。尿量は50ml/hr以上確保されており血清Cr値は1.1mg/dlであった。壊死性膵炎の診断のもと、緊急アンギオ(動注カテ留置)の後、ICUで呼吸、循環管理を行いながらCHDF(→[6])で除水、溶質除去を行った。1日補液量は8Lに及んだ。
1) もともとの腎機能障害があった上に、脱水による腎循環血液量低下による腎前性の腎不全が加わり急性増悪した症例
2) 運動後の乏尿性急性腎性腎不全例
3) 水分過剰状態を伴う慢性腎不全。溢水の症状のみで受診し、除水しただけで改善。しかし、原疾患の進行で半年後には維持透析となった症例。
4) レニベース+脱水+腎血流低下+鎮痛剤内服で急性増悪した。レニベースの蓄積も合わせて治療する必要があるため薬物除去としての意味も加えて透析導入とした。
5) 重症急性膵炎の典型的な治療例。腎機能が低下するのを待つ余裕はない。MOFの治療としての血液浄化であり、腎不全管理だけを目的にしていない。
【2】 上記5症例から考えられること
○ 診た時点での血清Cr値が同じでも、基礎疾患や受診時の病態によって治療が異なる(透析するかしないかを含め)。
○ 透析、治療開始後の腎臓の予後も異なってくる(機能が回復するかどうか)。
○ 何を主目的として透析するかが症例毎に違う。
【3】腎不全をみるポイント
[1]原疾患によって腎機能低下速度および溢水等の合併症の発生率が大きく異なる
1) 糖尿病性腎症でネフローゼ症候群を合併している場合に最も急速に腎機能が落ちてゆく(大体1ヶ月にクレアチニンクリアランスで1ml/minづつ)。当院の統計では血清Cr値が2mg/dlを越えてから2年間で85%が維持透析になっている。
2) 糖尿病でも蛋白尿が多くない場合には腎臓は比較的長持ちする。
3) 1)では体重増加、浮腫、肺水腫等の溢水症状で緊急透析、ECUMを要する事も多い。2)では逆に脱水や腎血流量低下(下痢、発熱、食思不振、NSAID、利尿剤、ある種の降圧剤)、体重減少で増悪する場合が多く、早期に発見できれば透析せず補液だけで改善する。
4) 腎硬化症では末期腎不全になっても脱水がない限り透析せずがんばれる場合が多い。
5) 糸球体腎炎でも大量の蛋白尿が出ている場合、1)と同じになる。
6) ただし、いずれの場合も日ごろからの患者さん自身での食事療法、水分管理、血圧管理さらに主治医による処方把握、管理ができていれば溢水で緊急に血液浄化が必要になることはまれである。
[2]血清Cr値が異常値を示した時にはすでに腎機能は約半分に落ちてしまっている。また、高齢者、痩せている患者等筋肉量が少ない場合には血清Cr値が基準値内であっても腎機能がかなり落ちている。
縦軸を血清クレアチニン濃度、横軸をクレアチニンクリアランスとすると上のような曲線の関係になります。
お断り:上のグラフはMacのグラフ計算機でy=80/xを書かせたものです。縦軸のクレアチニン濃度は現実には20位までしか必要無いのですが、ここでは便宜上こういったような関係があるということを示すだけのために使用しました。あまり詳しく見ないで下さい(笑)。クレアチニンクリアランスが90であっても50であっても縦軸のクレアチニン濃度はほとんど差がないことが理解できればそれでよし、とさせて下さい(笑)。
[3]急性腎不全と慢性腎不全の鑑別(治療方針に大きな差が出てくるため重要であるが、簡単な検査でほとんどが区別できる)。
1) 急性、慢性を問わず腎不全を疑う場合にすることは以下のとおり。
まず浮腫、血圧、肺野のラ音、心雑音、尿量、腹部血管雑音の有無の把握、既往歴の聴取(以前の腎疾患について、高血圧、糖尿病等)、薬物服用歴(特に鎮痛剤、降圧剤、利尿剤、漢方薬、生薬製剤)体重の変化(体内水分量の変化を推定するのに簡単で有用な指標。ぜひ毎日測定を)の把握
2)検査としては、胸部レ線、Cr、BUN、電解質等血液生化学検査、尿中Na、K、Cr等の電解質、検尿沈渣、検血、ガス分析(静脈血でも可)、心電図、腹部(腎)エコー
これだけでとりあえずの判断材料としては十分。いずれも簡単な検査である。
| 急性 | 慢性 | |
| 腎機能データの割に 症状が軽い |
No | Yes |
| 正球性正色素性貧血 | 貧血なし | Yes(腎性貧血) |
| 病歴、以前のデータ異常 | No | Yes |
| Cr上昇率 | 0.5〜1.0mg/dl/day | 緩徐 |
| 腎エコー所見 | 腫大 | 萎縮または輝度上昇(例外あり) |
腎性腎不全モCr値に関係なく早期に透析開始が必要。ほとんどが急性尿細管壊死であり、腎糸球体の血流は保たれているので尿細管が再生すれば腎機能は元に戻る。通常この間
約1から2週間。
腎後性腎不全モ早期であれば閉塞を解除(バルーン留置や腎瘻造設等)で治癒するが閉塞解除後にかなりの利尿がつく(時に時間尿1000ml)ことがあるのでこまめな観察が必要
以上の3つの鑑別法については省略。
【4】血液透析(最近では血液浄化と表現することが多くなっている)についてのポイント
[4]透析導入のタイミングとその判断材料
治療によっても利尿が得られず、乏無尿が続く
溢水症状(特に肺水腫)がある
尿毒症症状(特に、悪心、嘔吐、意識障害)がある
著明なアシドーシスがある
高K血症がある
急性腎性腎不全では上記のうち複数の項目を満たしています。慢性腎不全でも上記のうち1項目でも満たしているのがあれば透析開始の判断材料になります(かならずしも透析をするわけではありませんが)。
[5]尿毒症症状には特異的なものはない。
倦怠感、虚脱感、浮腫、頭痛、眠気、不眠、不安感、集中力低下、味覚異常、食思不振、嘔気嘔吐、しゃっくり、消化管出血、動悸、呼吸困難、乏尿、多尿、夜間多尿(ヤこんなこともあるんです)、しびれ、筋痙攣、下肢イライラ感、掻痒感など(注!腎不全だからといって乏尿無尿とは限りません)
[6]“透析”の目的はひとつではない。
過剰な水分を除去する→“限外濾過”→特に最初の呈示症例3)
尿毒症物質を除去する(症状の改善)→厳密にいう“透析”
アシドーシスを改善する→厳密にいう“透析”
高K、高、低Na血症、高尿酸血症を是正する→厳密にいう“透析”
蓄積した薬物を除去する→特に呈示症例4)
補液のスペースを作る→特に呈示症例5)
サイトカインを除去する→特に呈示症例5)
ちなみに透析液はNa140、K2.0〜2.5であり透析膜(ダイアライザー)を通して濃度の高いほうから低いほうへNa,Kが移動していくことになります。ので、Naは高くても低くても140に近づくことになります。Kは最初から低く設定しているので血液からぬけてゆくことになります。その他の物質でも透析液中に含まれていないものであれば血液から透析液側(体外)に移動しその濃度勾配に応じたスピードで除去されることになります。また水分は、透析液側から陰圧をかけることによりダイアライザーの性能(膜の薄さやあいている穴の大きさ)に応じて体内(血液側)から引き出されます(水をひっぱる感じ)。
以上のようにいろいろな目的、ねらいがあります。傍目から見ると同じ機械、回路を使ってやっているのですが目的に応じて条件の変更をやっているわけです。ので最近では“透析”と言わずに血液浄化療法、ということもあります。
[7]透析開始時点でその人の生命予後等も予測しながら包括的に治療計画を立てる必要がある。
医学的な問題以外に社会人としての問題、家庭環境等も考慮すべきである。モこの分野は医師よりも看護スタッフやソーシャルワーカーのイニシアチブが発揮できるところです。
[8]透析導入時期の透析条件は維持透析の時期の条件と違ってくる。維持透析と急性腎不全の時の透析では方針が異なる。
慢性腎不全の透析導入期は頻回に短時間(2時間程度)の透析とし最初の7日間で4回以上行う。その後は週3回で徐々に1回あたり4時間までのばしてゆく。血流量も最初は100ml~120ml/minとし、徐々に増加させ最終的に200ml/min程度とする。ただし、こうやってもせいぜいCcr換算で10ml/min程度相当の腎機能しか代用できないことに注意。しかも本来の腎臓と比べても小分子の溶質、水分の除去、アシドーシスの補正の役割しか担えない。その他の機能、特にカルシウム、リン代謝、貧血のコントロールは薬物療法に頼らざるを得ない。
誤解を恐れずにいえば、維持透析は必要悪でありできる限り避けるべき治療である。それより腎不全を予防し、進行を止めることの方が重要である。
急性腎不全では原則的に連日短時間(2時間程度)透析とする。透析からの離脱時期は尿量が出始めたときではなく、血清Cr値の上昇が止まったとき(やや低下傾向のとき)である。血清Cr値が透析後から翌日にかけて上昇するのはまだGFR(糸球体濾過量)が0に近いからである(たとえ血清Cr値が低くても)。
[9]シャント肢の血管温存のための注意(維持透析予定者)
前腕、上腕の皮静脈は将来の透析のためにできるだけ良い状態で残しておくことが必要で、そのためには(できるだけ両側の)前腕部〜肘部での点滴、採血、静脈留置針の使用を避けることが理想。必然的に手甲や足の血管を使うことになるが、患者さんにとっては苦痛であろう…。
[10]UKカテーテル留置患者における注意点
しょせん異物であり血栓形成は必発。フラッシュ、ヘパリンロックを確実に行うと共にできるだけ屈曲させないようにすべき(特に鼡径部静脈に留置している場合、原則ベッド上安静とする)。
折れ曲がってしまうと血栓ができてなくても脱血不能になる。もちろん、感染には注意。
[11]不幸にして維持透析を続けざるを得なくなった場合に注意すべき点。特に食事、シャント管理について
リン、カリウム、水分の摂取過剰にならないように制限する
水分過剰にはたいていの場合塩分摂取過剰がついてくるので、水を飲まないよう指導するだけでなく塩分も同時に控えるよう指導することが重要である。また、「水を飲まないように」と言った場合、「お茶は良い」、「氷なら良い」、「アイスクリームなら良い」とまじめに考えている患者さんもいることを忘れてはいけない。また食事中の水分(かゆ食やおかずに含まれる水分)も考える必要がある(患者さんはこれを水分と考えていないことが多い)。
結局、透析間で増加した体重はすべて“水”によるものである(非常に高度な便秘以外)ことを頭に置き、患者さんに理解してもらうようにする。したがって1日の食事以外の水分量をいくら、と決めることは本当のところ難しい。ひとまず1日400から500mlと指導するが食事の水分や本人が水分と思っていない(上記「」内)場合には十分話を聞いて把握した上で適切な指導をする必要がある。
カリウム、リンについてはできるだけ制限すべきであるが、まれに低カリウム血症の場合(多くは尿量がまだ確保できている患者さん)があるので、ケースバイケースで対処することもある。
摂取エネルギー:十分とる。標準体重あたり30〜35kcal/day
蛋白:標準体重あたり1.0〜1.2g/day
カリウム:1500mg/day以下
リン700mg/day以下
水分:食事以外にドライウェイトあたり15ml/dayを目安にするが一応400〜500mlとしたほうが良い。尿量の有無でも変わってくる。結果的に体重増加がドライウェイトの3%から5%に押さえられれば(理想は3〜4%)よい。
食塩:ドライウェイトあたり0.15g/day(腎機能が残っている場合には少し増やしても良い)
シャント管理について
内シャントは患者さんにとって命綱ゆえ大事にしなくてはならない。シャントが閉塞する条件は、○血圧が低い(特に透析後)、○シャントの血管にもともと狭窄がある、○圧迫が強すぎたり長すぎたりした、○夜間に手枕をしたりシャント肢を下にして寝てしまった、など。
もしもシャント音が弱くなったらすぐマッサージを試みる。これだけで良くなることがある。閉塞した場合でも1〜2日以内であれば血栓除去等の方法で戻すことは可能だが放置するとシャントすべてが器質化血栓で置き換わり(硬結)新たなシャント造設が必要になり、その間の透析が困難となる。
[12]その他
腎不全患者に対する薬剤投与の注意点について
保存期腎不全:一般的に鎮痛剤は危ない(特に坐薬は禁忌)と考える。やむをえない場合でも水分補給を十分にした上で内使用すべきである。腎血流をあまり落とさないといわれるスリンダク(クリノリル)が一応無難。この際血清Cr値が基準値内でも十分注意が必要(→理由は[2]参照)。レペタン、ソセゴン、ペルタゾンはあまり気にせず使用できるが癌患者以外での連用には問題があろう。抗生剤等他の薬剤についても減量や投与間隔をあける等の配慮が必要になることが多い。
透析患者:鎮痛剤の腎への影響は考える必要がなく常用量でも差し支えないが、蓄積による他臓器の合併症については十分配慮が必要である。抗生剤は肝排泄性のもの以外では透析毎の投与で十分。また、バンコマイシンは蓄積する上に透析で除去不可能なため血中濃度をモニターの上、週1回0.5〜1gを目安に投与する。その他の薬剤で特に問題になるものとしてモルヒネ(代謝産物による呼吸抑制がごく少量でも生じる)とアレビアチン、ゾビラックス(透析患者では血中濃度が著しく高くなって中枢神経の副作用が生じやすい)等がある。
【5】おわりに
医学的な観点からまとめてみましたが、腎疾患の病態の多様性もあってこれですべて網羅したとは言えないかもしれません。ただし、腎不全、透析の患者さんに対していつも一律同じ条件で治療しているのではないということを理解いただき、それぞれの患者さんに合った看護を考える参考にしていただければ幸いです。