月刊の医療情報誌「治療」に執筆した原稿です。2001年3月号と臨時増刊号の中で担当した部分です。3月号は「プライマリケア医のための腎疾患診療マニュアル」、増刊号は「プライマリケアにおけるインフォームドコンセント」が特集です。前者は私と大阪市山本内科小児科 山本義久先生(リンク集にはHPのURLを載せています)が編集アドバイザーになっています。後者も適任の先生方が執筆されており、今までのこの手の特集にはみられない斬新な内容になっていると(僕自身は)思います。ぜひ買って最初から最後まで読んでみて下さい。出版社は南山堂です。
目次
1:プライマリケア医のための腎疾患診療マニュアル「腎疾患診療における病歴聴取および検査のポイント」
2:プライマリケア医のための腎疾患診療マニュアル「慢性腎不全保存期の治療==自覚症状なく維持透析に移行するために==」
3:外来での患者さんへの説明の具体的方法について
注:文字が多いのでいったんプリントアウトしてからゆっくり読んでみて下さい。
1:腎疾患診療における病歴聴取および検査のポイント
[SUMMARY]
1臨床症状の出現様式に注意する。また発熱、上気道炎や消化器感染症の有無についても聴取する。
2自覚症状及び身体所見では浮腫、体重増加、肉眼的血尿の有無等、また腎不全では倦怠感、食思不振、嘔気に注意する。また皮疹、関節炎等の腎外症状も時に参考になる。
3尿異常の病歴を詳しく聞き、尿異常、高血圧、腎機能低下の3者の時間的な関係を把握することが診断を絞る上で有用である。
4尿蛋白量、血尿や円柱尿の有無、沈渣をみることで専門医への紹介のタイミングが理解できる。
5その他に通常の血液検査、超音波検査、KUBがあればプライマリケア医の診療としては十分である。
.症状の聞き取りのポイント
末期腎不全や高度のネフローゼ症候群、発熱を伴う腎疾患を除けば自覚症状に特異的なものはなく、あっても比較的軽度である。したがって、わずかな症状の存在や詳しい病歴を明らかにするためには適切なインタビューによってそれらを具体的に聞き出す必要がある。
肉眼的血尿については「赤色」か「コーヒー、紅茶色」かで病変部位が異なる。前者は下部尿路、後者は上部尿路、腎実質と考える。また尿異常の出現と上気道、消化管感染症状との関連も重要である。腎機能低下がある場合には倦怠感、食思不振、嘔気などの症状を「風邪をひいた」と思いこみ来院することも多い。また、高齢者において加えて発熱・皮疹(特に紫斑)・関節痛・腹痛などがある場合はANCA関連腎炎(多発動脈炎)を思い浮かべる必要がある。
.その他の病歴聴取のポイント
過去の学校検尿、保険加入時、職場での定期的な検診の結果を詳しく聞き尿異常の初発時期を特定する努力をする。女性では妊娠・出産に伴う尿異常の有無を聴取する必要がある。尿路感染・結石の既往は、繰り返しているかどうかも必ず聞く。基本健診や人間ドック等の記録があればなおさらよい。
次に市販の医薬、健康食品、漢方薬、民間療法を含む常用薬剤、鎮痛剤の内服歴を聞く。薬剤性腎障害は意外に多いので詳細に聞いておく。慢性頭痛の患者では常用薬を確認する。既往歴、尿異常、腎不全や難聴の家族歴(遺伝性腎炎等)、扁桃炎の病歴も聞いておく。
患者の「腎臓が悪いと言われた」という訴えには文字どおり「腎機能障害がある」という意味だけでなく「腎機能は正常だが蛋白尿や血尿などの尿異常がある」という意味が込められていることがある。このどちらにあてはまるのかを詳しく聞き出し区別しておくべきである。
尿異常や腎機能障害の出現と高血圧や貧血出現の時間的な関係を把握しておくと便利である。尿異常が先行し後に高血圧が出現する場合は慢性腎炎が原因となった腎性高血圧であり、高血圧が先行して蛋白尿が出るなら腎硬化症(高血圧による腎障害)を疑うことができる。腎性貧血は、貧血が存在するにも関わらず血中エリスロポエチン濃度が低下している状態である。通常クレアチニンクリアランス(CCr)が40ml/min程度以下になるまで生じないが、間質障害を伴った急速進行性腎炎の形で発症するANCA関連腎炎や間質性腎炎あるいは糖尿病性腎症では、エリスロポエチンを産生する尿細管間質の細胞の障害をきたすために早期から出現する。こういったことを知っていればインタビューだけで腎疾患の種類とその発症時期を絞り込むことも可能である。
。.身体所見の取り方のポイント
血圧、体重増加量、浮腫、溢水症状及び皮疹(血管炎、紫斑病性腎炎、コレステロール塞栓症)、紫斑(紫斑病性腎炎)、腹部血管雑音(腎血管性高血圧)、扁桃炎の所見(IgA腎症、紫斑病性腎炎)、末梢神経炎、関節炎所見(多発動脈炎、血管炎)、腰背部叩打痛(急性腎盂腎炎など)、下腹部圧痛(下部尿路感染症)を確認する。内科医には現実に難しいが、排尿障害を伴う血尿では直腸診で前立腺肥大などの評価も行う。上記症状に続く( )内に関連する疾患を示したがIgA腎症、尿路感染、泌尿器科疾患を除いてプライマリケア環境では稀である。しかし簡単に確認できるものばかりなので「稀ながら、見のがしてはいけない所見」として確認する習慣をつけておくと良い。
「.検査の進め方
診療の流れは病歴、身体所見→尿検査→血液検査、腹部超音波検査 、腹部単純撮影→専門医(内科又は泌尿器科)紹介の順となる。専門医では必要があれば血液ガス分析と腎盂尿路造影検査を行う。潜血または尿蛋白陽性例は必ず沈渣鏡検する。無染色の遠心沈澱法ならそれほど時間を取らず、また標本作成を他の職員が行えば忙しい診療の合間でも施行可能である。受診患者全例で行うわけでもなく、皮膚科でのKOH法と同じで慣れれば簡単である。最近尿中有形成分自動分析装置が市販されている。精度に若干問題があるようだがプライマリケア環境では十分かもしれない。
まず最初に試験紙法で蛋白尿の有無をみるがそれには尿を適切に採取することが必要である。希釈尿(比重1.010以下)の場合偽陰性となる可能性があるので用いない。早朝第1尿が最適であるが受診時までの保存状態が問題になることが多く、まずは来院時随時尿で評価する。アルカリ尿で偽陽性、酸性尿で偽陰性になることがある。次に病的蛋白尿かどうかを判断する。起立性、発熱、精神的身体的ストレス、敗血症などによる腎循環の変化によって必ずしも病的ではない機能性蛋白尿が一過性に出現することがあり、これらの影響を除外するには何度か再検するか、同じ日の早朝尿と来院時尿(もしくは立位or前わん負荷)を比較する。一過性では一般的に病的とは考えない。持続性蛋白尿は病的蛋白尿である可能性が高く引き続き尿蛋白定量を行うが、早朝尿又は随時尿をクレアチニン補正(尿蛋白量(mg/dl)/尿中クレアチニン値(mg/dl))す(単位はg/g・Cr)べきである。尿の濃縮状態により濃度は大きく変化するため蛋白濃度(mg/dl)のみで判断してはならない。蓄尿専用の容器も市販されているがプライマリケアの場で24時間蓄尿の意味と方法を理解し正確に行うことは実際には難しい。蓄尿を行う場合には十分説明しsampling
errorがないかどうか常に考慮する。血尿は、試験紙法ではビタミンCで偽陰性になることがあり注意する。肉眼的血尿の場合ミオグロビン尿、ヘモグロビン尿との鑑別が必要だが検体の目視と沈渣検鏡で可能である。
」.検尿・沈渣所見とその意味
蛋白尿単独の場合:病的でない蛋白尿を除外できれば何らかの糸球体障害あるいは尿細管障害がある(腎実質性疾患が存在する)と考える。蛋白尿に加え血尿(赤血球尿)も伴う場合には糸球体疾患が存在する可能性が極めて高い。
血尿単独陽性の場合:若年であればひとまず経過観察可能な軽症腎疾患や時に遺伝性腎疾患の可能性が比較的あるが、中年以降では7、8割方は泌尿器科疾患、婦人科疾患(厳密にいえば偽陽性であるがプライマリケア環境ではよくみられる)である。特に尿路悪性腫瘍、尿路結石や前立腺疾患、尿路感染などがあるが精査でも異常がない場合も多い。肉眼的血尿を認める場合にはnut
cracker現象、特発性腎出血、腎尿路の血管腫、稀に毛細血管内での物理的な赤血球破壊(剣道の後)も頭におく。
円柱尿:尿細管内において腎臓の構成細胞や成分、血球成分等が生理的蛋白であるTamm-Horsfall蛋白を基質として固まったもので、腎実質内の炎症や障害等があれば前記成分が尿細管腔に出てゆき円柱を形成する。硝子円柱は病的意義に乏しく脱水時、激しい運動後にも見られる。その他の円柱尿は活動性腎炎、尿細管病変を示唆するが、中でも赤血球円柱は重要で糸球体からの出血、すなわち活動性の非常に激しい糸球体腎炎が存在する証拠となる。白血球円柱は化膿性または炎症性腎疾患(間質性腎炎、血管炎等)を示唆する。いずれも経過中に1視野あたり1個でもみられれば異常とする。
白血球尿:尿路感染、結核に多いが血管炎、間質性腎炎(慢性腎盂腎炎含む)、悪性腫瘍、細菌感染のない結石、化学物質による炎症でも認められる。したがって一度は尿培養、尿細胞診、泌尿器科紹介を考えるとともに血管炎等の腎実質性疾患もあることを念頭におく。細菌尿は1視野5個以上を有意とし、尿路感染と判断する。
、.紹介のタイミングを念頭に置いた実際の考え方と診療指針
表(この項の最後)に示したが補足説明する。安静時尿で+程度の軽度尿蛋白陽性であるにも関わらず立位負荷(来院時尿)で著明に増加する(例えば1.5〜2g/g・Cr)場合、遊走腎や先天性腎奇形という場合もある。このような例では腹単臥位、立位の比較や腹部超音波検査等を施行する。なお、体位性蛋白尿の場合安静時には蛋白尿はみられない。
血尿単独陽性の場合には若年では経過観察のみでもよい場合が多いが、中年以降で初めて指摘された場合には微量であっても一度は泌尿器科に紹介する(理由は前記」参照)。腎炎と確定した血尿単独例では血尿の程度に変化がない限り以後泌尿器科精査は頻繁に行う必要はなく、数年毎の泌尿器科精査で十分であろう。肉眼的血尿の場合感染症状が先行していればまずはIgA腎症等の腎炎を考えるが、他の症状がない場合膀胱鏡等で出血部位の特定や推定が可能な場合があるため、血尿が消失する前に早急に泌尿器科紹介する。なお血尿や白血球尿例で尿培養や細胞診を行う場合、複数回繰り返すべきとされており保険診療上すべてをプライマリケア医で行うには無理があるかもしれない。
またしばらく経過観察する場合、例えば学生では学校を休まずに済むよう長期休暇毎に受診させる等の配慮も必要である。
日常臨床では、PC医が比較的長期間経過観察しても問題のない無症候性血尿、蛋白尿や蛋白尿がわずかか軽度でとどまる慢性腎炎が圧倒的に多い。この場合には確定診断及び治療開始まで多少時間(数カ月〜1、2年)がかかっても10〜数10年後の腎の予後には影響しないことが多いので慌てる必要はない。ただし、経過中に尿所見の増悪(蛋白尿増加、円柱尿の出現など)がある場合には以下の表に基づき早期の紹介を行うことが重要である。なお本誌2001年83巻増刊号の「尿蛋白、尿潜血」についての拙稿も参照いただきたい。
表・専門医紹介のタイミング
1.年1回の検尿を勧める病態
a.一過性蛋白尿(初回は数カ月毎に数回チェック)後
2.PC医でしばらく経過観察な慌てなくてもいい病態
a.無症候性血尿単独例(ただし一度は泌尿器科疾患精査)
3.基本的に専門医紹介だがしばらく経過観察できる病態
a.円柱尿のない軽度の持続性蛋白尿(0.5g/g・Cr程度以下)例
一般的には6ヶ月間持続すれば専門医紹介とするが、1、2年以内でも可。
血尿の有無は問わない。
4.できるだけ早期、遅くとも数カ月以内に紹介すべき病態
a.蛋白尿が比較的多い(1g/g・Cr)もしくは硝子円柱以外の円柱尿が認められる場合
赤血球円柱、感染や結石のない白血球尿例では直ちに紹介
(非常に激しい腎炎や血管炎、間質性腎炎が考えられる)
b.微量の尿蛋白が、ある時期から増加し始めた場合
c.糖尿病例で微量アルブミン尿が出現し始めた時点
5.直ちに専門医紹介を要する病態
a.ネフローゼ症候群 (放置すれば急性腎不全に陥ることもある)
b.急性腎炎症候群 (入院安静要)
c.急速進行性腎炎症候群
d.急性腎不全(詳細は他稿参照)
e.慢性糸球体腎炎の経過中急に蛋白尿が増加し浮腫等がみられるようになった場合
f.肉眼的血尿の出現中
g.初診で明らかな腎機能低下が認められる場合(Cr値1.5mg/dl以上が目安)
・.急速進行性腎炎の見つけ方
過去に尿異常がない症例で尿異常と腎機能低下がみられた場合、急速進行性糸球体腎炎を疑う。稀であるが治療開始時の腎機能によって腎の予後が決まってしまう緊急性のある疾患なのでできるだけ早く、発症後1週~1ヶ月以内に紹介すべきである。ポイントは1)高齢者(50~60歳が多い)、2)上気道炎症状後に尿異常が持続しCRPが不適当に高く貧血を認めることが多い、3)腎外症状(関節炎、発熱、末梢神経炎)があり倦怠感が強い、の3点である。高齢者の「風邪」の治療にあたっては「すっきりしない場合には必ず受診するよう」説明し、可能なら数日後遅くとも1週間後に検尿再検とともに血清Cr値、CRPを測定する。少しでも血清Cr値が上昇傾向にある場合にはただちに紹介すべきと考える。
ヲ.その他の検査について
血液検査は検血一般、通常の血液生化学(Cr、BUN、T.chol、TP、UA、Alb、電解質は必ず)で十分である。補体価や抗核抗体、ANCA等の検査まで必要とすることは少ないが、明らかに膠原病を疑う所見等があれば行う。
腹部超音波検査は腎の形態異常のスクリーニング目的で行うが、多くの情報が得られるので必ず施行する。大きさは正常か腫大か萎縮か、エコー輝度はどうか、左右差があるか(通常は右がやや小さい)をチェックする。急性腎不全、慢性腎不全の場合にも有用であるが他稿を参照されたい。
腹部単純撮影も形態、位置異常や結石の存在など多くの情報が得られるため重要である。腎専門外来でも省略されることが多いが、できるだけ施行する習慣をつける。腎、尿路、膀胱を一枚のフィルムに収めるKUBが勧められる。通常は臥位撮影だが遊走腎のチェックには立位との比較を行う。また、重複腎盂尿管、馬蹄腎の有無等を診断するには腎盂尿路造影が必要になる。
ァ.Ccrの推定
通常Ccrが40~50ml/minを切らないと血清Cr値は上昇しないので、血清Cr値のみで腎機能を評価することは危険でありぜひともCcrを利用すべきである。特に高齢者や糖尿病患者で筋肉量が低下していれば、血清Cr値が基準値内であってもCcrはすでに20~30ml/minとなっている場合も多い。外来での蓄尿は実際には困難なため、血清Cr値、年齢、性別、身長体重などからCcrを推定する計算式がいくつか提唱されておりこれらの指標を使用することをお勧めする。ここでは広く使用されている2つの計算式を示す。
折田、堀尾らによる1)
Ccr(ml/min)=
男性:(33-0.065×年齢-0.493×BMI)×体重(Kg)÷血清Cr(mg/dl)÷14.4
女性:(21-0.030×年齢-0.216×BMI)×体重(Kg)÷血清Cr(mg/dl)÷14.4
血清Cr値は酵素法
Cockcroftらによる
Ccr(ml/min)=
男性:((140-年齢)×体重(Kg))÷(72×血清Cr(mg/dl))
女性:男性の85%
血清Cr値はJaffe法
ィ.職場検尿について
学校検尿のシステムはすでに確立しているが社会人の検診システムはまだ未発達である。職場検尿は腎疾患を減少させるために有効である、とまだ明確には言えないが、増加しつつある高齢の腎不全患者や今後腎機能が落ちてゆくと想像される腎生検標本に接していると「もっと早く発見できなかったのだろうか?」という疑問がいつも沸く。尿所見に異常の認められない腎機能低下症例はごく稀であり、さらに腎疾患の進行スピードは例外を除いて通常年単位と遅い。したがって定期的な検尿の習慣は社会人においても腎疾患の早期発見や腎不全患者の減少に寄与すると想像される。その意味で職場検尿は重要と考えるが現状では採尿条件等にばらつきがあり、条件を統一した全国規模での検尿システムの構築が今後望まれる。
文献
1)折田義正他:Ccrの測定法による差の補正法とScrよりの換算式について.厚生省特定疾患進行性腎障害調査研究班平成7年度研究業績,54-57,1996
2:慢性腎不全保存期の治療
==自覚症状なく維持透析に移行するために==
[SUMMARY]
1維持透析に楽に導入するために重要なことは保存期腎不全期から適切な治療を行い、合併症を適切にコントロールすることである。
2特に体液量の評価、血圧コントロール、アシドーシスや貧血の補正が重要である。蓄尿による検査は栄養指導に使用できる。
3感染症、発熱時には適切な体液管理と腎障害に留意しながらの投与薬剤の選択が必要である。
4将来の内シャント作成に用いる静脈を温存することも大切である。
.はじめに
透析療法や腎移植が広く行われるようになった結果、かつては「致死的疾患」であった慢性腎不全は今や決して恐くない時代になった。しかし残念ながら透析では本来の腎機能の一部しか補完できず、移植医療もドナー不足や合併症等未解決の問題もある。したがって、末期腎不全に陥らないように進行を阻止することが一番の治療目標であることに現在でも変わりはない。また不幸にして末期腎不全に陥った場合にも最小限の身体的精神的負担で早く社会復帰が行えるようなサポートが重要となる。
透析導入後は専門施設での治療となるが、本稿の最後にも書いたように腎不全は決して特別な疾患ではなく、導入前の保存期腎不全期の治療をプライマリケア(PC)医が担当することも今後増えてくると思われる。もちろんPC医単独で治療を行うことは困難なので、病診連携の形で専門医や栄養士等に定期的に介入してもらうべきである。しかしかかりつけ医ならではの立場を駆使し、家族をも含めサポートできる技術も当然必要である。すなわち保存期腎不全患者診療に対してもPC医、家庭医としての独自性が十分発揮できるものと考える。初期の保存期腎不全の時期からのきめ細やかな診療が重要なわけである。本稿では保存期腎不全患者の診療に際してPC医も注意しておくべきポイントについて整理して述べる。
.通常の外来における合併症のチェック項目と治療のポイント
1.体液量の評価
慢性腎不全では通常体液過剰に陥りやすい。ただし腎不全の初期からの栄養指導の徹底と適切な治療がなされれば、糖尿病性腎症や他のネフローゼ症候群症例においても肺水腫等に陥り「緊急」透析を余儀なくされることは少ない。身体所見としては外来毎に必ず浮腫、体重の変化、血圧を測定し、聴診所見等も参考にしながら適宜胸部レ線で確認する。ネフローゼ症候群でなければ末期腎不全期以外で利尿剤は不要であることが多いが、体重増加、浮腫傾向にある場合には利尿剤の早めの使用によって溢水状態に陥ることを避けられる。フロセミドを少量から開始するが、利尿効果が不十分な場合にはサイアザイド系利尿剤の追加もしくは非サイアザイド系類似薬であるメトラゾン(商品名ノルメラン)などを併用するとよい。この場合急激な体液減少に伴う腎機能低下と電解質異常に注意し頻回の外来観察とする。また逆に、高齢者や腎硬化症患者では食事、飲水量が少し減少しただけで脱水に陥り腎不全の急性増悪をみることもあるので、注意が必要である。
2.血圧のコントロール
十分な降圧が腎機能悪化を防ぐとされている。WHO/ISHやJNCによる治療ガイドラインが広く知られるが、日本においても日本高血圧学会によるガイドライン1)が最近発表された。それによると糖尿病患者、慢性腎疾患患者および若年中年者での目標値は130/85mmHg未満、尿蛋白1g/日以上のものでは125/75mmHg未満、高齢者では140~160/90mmHg未満である。しかし140/90mmHg以下では腎不全がさらに増悪するような症例も比較的多く経験する。たしかに基本的には十分な降圧が望ましいが、腎不全の増悪に注意しながら症例毎に至適血圧レベルを決定するのが現実的であろう。急激な降圧は腎不全が増悪するため避ける。家庭血圧や24時間血圧の測定も参考になることが多い。このようなきめ細やかなコントロールはある意味でPC医の「腕のみせどころ」である。腎不全期においては通常、カルシウム拮抗剤(時には半減期の異なる2剤を併用)、α、β遮断薬、利尿剤から選択する。ACE阻害薬は腎不全患者においてもその進展抑制効果があり3)血清Cr値が高値でも使用可能であるが、一般的には3mg/dl以上では避けるとされているため必ず腎専門医のアドバイスを求める。なお、近い将来アンギオテンシン受容体拮抗剤の効果も証明されるかもしれない。
3.アシドーシスの補正
腎不全の進行と共にアシドーシスを呈するが、放置すると嘔気、食思不振等の消化器症状が出現し悪循環に陥るため可能な限り補正する。HCO3-濃度で判断するが外来毎に行う必要はなく静脈血採血でもかまわない。他の血液検査値の割にアシドーシスが著明な場合には、これを補正するだけで自覚症状を抑えることができる。重曹の少量投与で透析導入期まで補正可能で、適切な蛋白制限ができていれば特殊な場合を除いて1g前後/日の内服で十分なことが多い。大量になると塩分負荷(1gあたりNaとして12mEq)になるため注意する。
4.生化学検査所見のみかた
血清Crの逆数グラフを書く習慣は必ずつける。横軸を時間軸とし、縦軸に1/Crを計算してプロットする(例えばCr2なら1/2=0.5になる)。通常は傾きが右下がりの直線になるはずであるが、傾きが急になった場合には腎に何らかの負荷がかかったと判断できる。こういった判断は、血清Cr値のみを単純に比較していたのでは困難である。BUNは血清Cr値との比で判断する。BUN/Crが増加する場合は異化亢進、蛋白摂取過剰、消化管出血等が疑われる。電解質では高K血症に注意しあればカリメートRでコントロールするが、食事制限が適切であれば通常尿毒症期にならない限り高カリウム血症にはならないことが多い。血清尿酸値は腎不全では通常高くなる。正常化させる必要はないが、著明高値の場合または高尿酸血症性の腎障害が疑われる場合には少量のアロプリノールでコントロールする。初期投与量は0.5錠程度とし代謝産物であるオキシプリノールの蓄積による血小板、白血球減少等の副作用に注意しながら適宜増量する。
全身状態が安定しており24時間蓄尿が可能な場合には食塩摂取量、蛋白摂取量を推定し、患者指導に利用する。浮腫の状態や体重が不変であれば食塩排泄量=食塩摂取量と考え、食塩としての1日摂取量(g)は1日尿中Na排泄量(mEq)を17で除することで近似できる。蛋白摂取量の推定式は繁用されるMaroniら2)の式を示す。
摂取量(g/day)=(尿中UN排泄量(g/day)+0.031×その時点での実測体重(kg))×6.25+尿蛋白量(g/day)
これらの推定値と実際の聞き取り調査による栄養指導とを併用すれば理想的である。全量を蓄尿バッグに貯める方法以外に毎回の排尿の1/50づつを貯めるユリンメートPという蓄尿容器もあり、毎回の尿量を測定し記録しておくことが必要だが、コンパクトな容器であり患者にとっては持ち運びに便利である。
5.貧血の補正
貧血例では積極的にエリスロポエチン製剤を使用する。鉄欠乏状態がないことを必ず確かめてから開始しHctで30%以上を維持することが望ましい。通常6000単位を1〜2週に1回の皮下注でスタートする。高血圧、頭痛等の副作用を避けるこつはHctが上昇し始めた段階で減量することである。同時に血液検査を行う日には「2回痛い思いをしないよう」採血後そのまま静注してもよい。Hctの上昇率が週あたり1%を越えないよう用量調節し、維持量とする。なお、透析導入期を含め消化管出血等による出血性ショックでもない限り貧血が著しくても輸血は不要である。特にMAP血はマンニトールを含有しており不用意に使用すると肺水腫をきたしうる。
6.栄養指導
基本は十分なエネルギー摂取および蛋白、食塩、水分、カリウム、リン制限である。十分なエネルギー摂取なしに蛋白制限をすると異化亢進のため体蛋白の崩壊、減少が引き起こされるので、男性35kcal/kg/day、女性28kcal/kg/dayを目安にする。食塩は7g/day、蛋白は0.6g/kg/day以下(体重は理想体重を使用)とされる。蛋白制限ができていればカリウムとリンは同時に制限されていることが多いが、実際に血清カリウム、リン値が高い場合には食事内容の詳細な検討が必要である。患者にも毎日の体重測定を習慣にしてもらい、定期的に食事内容の聞き取りを行いフィードバックしながら指導するとよい。
7.発熱、感染症のコントロール
発熱時、感染時には脱水等から腎不全の急性増悪をきたしやすいので、状況に応じて適切な輸液を行う。抗生剤も減量し投与間隔をあけるなど配慮し、解熱鎮痛剤は極力使用を控える。またACE阻害剤や利尿剤を内服している場合には一時的に減量中止するなどの配慮が必要な場合もある。
8.カルシウム、リンのコントロール
慢性腎不全保存期にはすでに二次性副甲状腺機能亢進症を合併しており、透析導入後の合併症管理の観点からも保存期から積極的にビタミンD、炭酸カルシウムの投与を行うべきとする意見もあるが、適切なi-PTH値などの治療目標がまだ明確になっていない。まずは専門医にコンサルトの後判断する。
。.外来での経過観察間隔
慢性腎不全保存期では月1回の通院でも十分であるが、慣れない場合には2週間毎のほうが無難である。腎機能が急速に低下している場合には1週間毎とする。いずれも定期的に専門医を併診してアドバイスを得るようにし、コントロール困難と感じたら早めに紹介する。血清Cr値に関わらず浮腫等のコントロールが困難になった時点、もしくは末期腎不全(Cr値7、8mg/dl以上)になった時点で、透析導入の準備のため以後の治療はすべて専門医に任せることになる。
なお栄養指導は連携病院への受診時に行ってもらえれば便利である。
「.クレメジンについて
日本だけで使用されている薬剤である。中分子量の尿毒症惹起物質やインドキシル硫酸、クレアチニンを腸管内で吸着することによって腎不全の進行遅延効果があるとされるが、その内服量の多さと副作用としての消化器症状が問題で、特に高齢者では食欲低下により腎機能がかえって増悪する例を経験することも多い。薬価も高く(通常量でカプセル1日975円、細粒976.2円)腎不全全例に本剤を投与すべき根拠は現在まだ不十分であり3)、腎専門医でも使用を控えている場合が多い。最近細粒タイプが発売され内服しやすくはなったが有効性が証明されるには批判に耐えうる日本でのスタディが必要である。なお、本剤は吸着によって薬効を発揮する薬剤であるため他剤と同時服用することを避ける。
」.透析導入時期の決定
高カリウム血症、溢水、アシドーシスに対する保存的治療でコントロール困難となった場合や尿毒症が出現した場合は当然透析導入となるが、適切な治療がなされるといずれも軽症の場合が多い。その場合には原疾患の種類、腎以外の合併症、患者の置かれている社会環境、家庭環境等を総合的に判断しながら透析導入の時期を決定する。血液検査データで単純に決まるわけではない。社会、家庭環境についてはPC医でなければ詳しく把握できない事項も多く、紹介時に伝達しておけば紹介先の専門医にとって非常に役立つ。
、.ほかに注意すべき点
1.医原性の腎不全急性増悪を作らない
薬剤投与時には投与量の減量や投与間隔の延長も考えるが詳細は他稿を参照されたい。特に高齢者では血清Cr値が基準値以内でもCcrが20ml/min程度のこともあり注意する。
2.将来の透析用ブラッドアクセスを温存する
内シャント作成に必要な前腕肘部皮静脈や正中皮静脈を使用しての点滴、注射、採血はできるだけ避ける。頻回の使用部位が将来のシャント閉塞の原因にもなるからである。疼痛のため患者にとってはストレスになるが手背採血が推奨される。
・.おわりに
日本では腎疾患それ自体で死亡することがまずないためか日常臨床で比較的軽視されている分野でもある、と個人的には感じている。しかし高齢者や心・脳血管等の血管の疾患を有する場合、潜在的に腎機能障害も併存していることが実際には多い。原発性腎疾患の頻度は確かに少ないが二次性や加齢に伴う「広義の」腎疾患は比較的多いのである。こういった人に何らかの急性疾患、原病の増悪等が生じた場合には、腎機能障害が前面に出て時には生命予後を左右する重大な合併症に発展する場合もある。とすれば、患者の腎機能を的確に把握したうえで合併症なく保存期腎不全の適切な治療が行える技術が今後PC医に必ず必要となるであろう。
文献
1)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会:高血圧治療ガイドライン2000年版. 1st ed. 日本高血圧学会発行,21-25,45-54,
2000
2)Maroni BJ et al.:Nutritional therapy in renal failure. In:The
Kidney,2nd ed. Seldin DW,Giebish G,Raven Press, New York,3471-3592,1992
3)須藤博:腎、泌尿器疾患の治療 腎不全の予防進展抑制に関するエビデンス,EBMジャーナル,1 :306-311,2000
3:尿蛋白、尿潜血のみかたと患者さんへの説明のコツ
[SUMMARY}
1血尿蛋白尿の有無、尿沈渣から腎尿路系の変化をかなり詳細に知ることができる。
2その中で緊急性のあるものをピックアップして適切な時期に専門医に紹介することが重要である。
3急速進行性腎炎など稀ではあるが見逃してはならない疾患の早期発見に努力する。
4患者さんへの説明にはむやみに不安を与えないような配慮が必要である。また自覚症状がない段階からの定期的な検査の必要性を十分理解してもらえるよう努力する。
.はじめに
腎疾患は通常身体所見が早期に出現しにくい傾向にあり、病歴聴取と検査所見が重視されやすい。したがって一般的な内科的診察「技術」とはスタイルがやや異なり、敬遠する医師が多いようである。しかし特別な診療技術が不要とも言い換えられるわけで、病歴聴取と検査特に検尿所見の考え方のポイントさえ掴めば比較的容易に診療が進められる。プライマリケア(PC)医の役割は腎疾患を疑うべき異常を早期に発見し適切に紹介することである。実際には無症候性の尿異常が圧倒的に多く、ある程度の長期にわたりPC医だけで経過観察できる症例が多いが、中には直ちに専門医に紹介すべき場合もある。腎疾患といえば微小変化群ネフローゼやIgA腎症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、半月体形成性腎炎など腎生検での組織診断をイメージするかもしれないが、本稿ではできるだけ組織病名を排除し、PC医の守備範囲である腎生検前の段階での腎疾患診療の考え方を中心に述べる。
.症状から鑑別できる疾患
尿蛋白や尿潜血陽性例では基本的に沈渣鏡検も行うべきである。無染色の遠心沈澱法で行えばそれほど時間を取られない。さらに、標本作成を他の職員が行えば忙しい診療の合間でも可能であり、皮膚科でのKOH法と同じで慣れれば簡単である。
蛋白尿単独の場合、持続性であれば何らかの糸球体障害または尿細管障害がある(腎疾患が存在する)と考える。ただし試験紙法ではアルカリ尿や膿尿で偽陽性、酸性尿やベンスジョーンズ蛋白で偽陰性となることがあるので注意を要する。続いて糸球体障害、尿細管障害どちらが主体かについて尿蛋白分画のパターン、尿中β2ミクログロブリン、尿中NAGなどの尿細管酵素の測定で判断する。
蛋白尿に加えて血尿も伴う場合には腎炎、糸球体疾患が存在する可能性が極めて高い。なお、当然のことながら尿潜血陽性の場合、偽陽性を除外するために沈渣検鏡で赤血球尿であることを確認しておく。その他試験紙法では膿尿で偽陽性、ビタミンCで偽陰性になることがあり注意する。
血尿単独陽性の場合、若年であればしばらく経過観察可能な軽症腎炎の可能性が比較的高い(遺伝性腎疾患を含め)が、中年以降では7、8割方は泌尿器科疾患、婦人科疾患(正確には擬陽性であるがPC環境ではよくみられる)である。尿路悪性腫瘍、尿路結石や前立腺疾患、尿路感染症等が考えられるが、精査で異常なしの場合も比較的多い。
肉眼的血尿(コーヒー、紅茶色)を認める場合は、前記以外にnut cracker現象、特発性腎出血、腎尿路の血管腫、稀に毛細血管内での物理的な赤血球破壊(剣道などの運動時)も原因となる。肉眼的血尿が消失する前に泌尿器科医に紹介できれば膀胱鏡等で出血源を確認できる場合もある。
円柱尿は、各種の物質が生理的蛋白であるTamm-Horsfall蛋白を基質として尿細管内で固まったものである。硝子円柱は病的意義に乏しく脱水、激しい運動後でも生じるが、それ以外の円柱尿は何らかの活動性糸球体腎炎がある証拠で、特に赤血球円柱は「非常に激しい糸球体腎炎」があると考える。円柱は経過中に1個でもみられれば異常と考える。
白血球尿は尿路感染や結核で有名だが、血管炎、間質性腎炎(慢性腎盂腎炎含む)、悪性腫瘍、細菌感染のない結石、化学物質による炎症でも認められる。
。.まれであるが見逃してはいけない疾患
1.急速進行性糸球体腎炎(ANCA関連腎炎)
進行性の腎機能障害を伴い血尿、軽度の蛋白尿、円柱尿、白血球尿等多彩な尿所見がある場合には判断しやすいが、軽度の血尿、白血球尿数個、という場合もある。稀な疾患であるが治療開始時点での腎機能によって腎の予後が決まってしまうため、発症後できるだけ早期、1週~1ヶ月以内に紹介する。「day」の単位で進行し腎不全に陥ることはないのでとにかく経過観察することが大切である。1)高齢者(50~60歳が多い)、2)上気道炎症状後に尿異常が持続しCRPが不適当に高い、3)腎外症状(関節炎、発熱、末梢神経炎、貧血)ありand/or
倦怠感が強い、の3点があれば強く疑う。高齢者の「風邪」の治療にあたっては「すっきりしない場合には必ず受診するよう」説明した上で再来時には検尿再検とともに必ず血清Cr値、CRPの測定を行い、脱水傾向がないにも関わらず血清Cr値が上昇傾向にあればただちに紹介するとよい。再来日の目安は数日から7〜10日後とする。
2.薬剤性の間質性腎炎、腎障害
薬剤による急性腎不全や慢性腎不全の急性増悪、間質性腎炎などは放置すると不可逆的な腎機能障害をきたすことがある。消炎鎮痛剤、造影剤、抗生剤、最近では漢方薬などが有名である。しかし、薬剤内服中に尿異常が出現、増悪あるいは腎機能が低下した場合、どんな種類であっても「薬剤性ではないか」とまず疑い「思い切って」中止する姿勢が大切である。
「.問診、診察、検査のポイント
尿異常の初発の時期をできるだけ特定する努力をする。過去の学校検尿、検診の結果、人間ドック、保険加入時、妊娠出産時などの「人生の節目」での検査結果をできれば記録類で確認する。学校検尿以外は記憶に頼ると不正確になりやすいためである。血尿、蛋白尿のどちらが先行したか、高血圧や腎機能の低下はいつから指摘されたか、浮腫等の症状があったか、今までの腎精査の有無およびどのように説明されたか等できるだけ詳しく聞く。薬剤の服用歴、現在の内服薬は市販薬を含めて把握する。薬剤性の腎障害、尿異常は結構多いためである。また、身体所見に乏しい場合でも浮腫の有無、血圧、体重の変化は必ず確認する。
超音波検査を施行する習慣も必ずつける。腎の形態異常と尿検査結果とをあわせて原疾患の推定も可能であり、尿路疾患のスクリーニングとしても便利である。具体的には多稿、成書を参照されたい。血液検査は、検血一般、通常の血液生化学(Cr、BUN、T.chol、TP、UA、Alb、電解質は必ず)でよい。補体やIg分画等の測定はPCの場ではあまり必要ではない。ただし、膠原病を疑う所見が明らかにあれば抗核抗体等の血清学的検査をする意味はある。腹部単純撮影も重要である。一般的には臥位で腎、尿管、膀胱までを1枚に撮るKUBが行われるが、遊走腎では立位との比較も行う。
」.専門医への紹介のポイント
まず病的な持続性蛋白尿かどうかを判断する。数回再検したり早朝尿、来院時または立位負荷時の尿の比較をしながら一過性、体位性の蛋白尿を除外する。起立性蛋白尿、発熱、精神、身体的ストレス等によるものがこれにあたる。一過性の場合しばらくは定期的に再検し、以後引き続き年1回の検尿を勧める。持続性なら基本的には専門医紹介とする。紹介すべき時期には病態によって差がある。軽度であっても6ヶ月以上持続する場合には、腎生検まで行うかを含め基本的に専門医に紹介する。尿蛋白が多い場合や円柱尿を認める場合にはより早期の紹介が必要である。なお一度は尿蛋白定量をしておくべきである。来院時随時尿でかまわないが、尿クレアチニン濃度で補正する(単位はg/g・Cr)必要がある。
蛋白尿単独の場合は糸球体疾患、腎実質性疾患の可能性が高く、ネフローゼ症候群の基準を満たす高度蛋白尿があれば直ちに紹介する。非ネフローゼ状態であっても1g/g・Cr以上の蛋白尿ではできるだけ早期、1、2ヶ月以内に紹介することが望ましい。糖尿病患者では微量アルブミン尿が出現した時点(通常の試験紙法では尿蛋白陰性)で腎専門医に紹介する。
蛋白尿血尿ともに認める場合は腎炎、糸球体疾患を強く疑うため専門医に紹介すべきである。円柱尿が認められない場合には非活動性糸球体腎炎を示唆し、そうは急がないができれば6ヶ月以内に、また円柱尿が認められる場合には活動性糸球体腎炎が存在する可能性が強いため数カ月以内に紹介できることが望ましい。ただし赤血球円柱もしくは感染や結石のない白血球尿が認められる場合は激しい腎炎や血管炎、間質性腎炎を考え直ちに紹介する。なお白血球尿例では経過中一度は泌尿器科精査することを勧める。
血尿単独陽性の場合には、若年であれば経過観察のみでもかまわない軽症腎炎の可能性が多いが、中年以降で初めて指摘された場合には軽微であっても一度は泌尿器科に紹介する(理由は前記参照)。腎生検などで腎炎と確定した血尿単独例では以後の泌尿器科精査は血尿の程度に変化がない限り頻繁には不要と思われるが、できれば数年毎に行うことが望ましい。ごく軽微な蛋白尿、血尿のみの例であっても数カ月から1年毎に再検するなどしながら、経過中蛋白尿増加などの変化があれば専門医紹介を考えるべきである。
過去に尿異常がないにもかかわらず腎機能低下と血尿蛋白尿を認める場合には、急速進行性糸球体腎炎の可能性が高いので直ちに紹介する。なお、腎疾患診療に関するさらに詳細な解説は本誌2001年83巻3月号の特集を参照いただきたい。
、.患者さんへの説明のポイント
中等度(1g/g・Cr以上)の蛋白尿や腎機能低下、コントロール困難な高血圧、糖尿病等の基礎疾患等がなければ、生活上の注意は基本的に不要なことが多い。スポーツも楽しむ程度であれば多少ハードでもかまわないが、病期やデータによって細かく区分して指導する1)ことも場合により必要になるため、事前に相談するよう説明しておく。
肉眼的血尿は実際に経験するとどうしても気になる症状であるが、通常腎機能の低下と関係ないことが多いので「慌てないように」と説明する。不安を取り除くために大切なことである。
IgA腎症や紫斑病性腎炎で感染後に肉眼的血尿を認めることがあるが、この場合でも肉眼的血尿自体に予後不良の性格はないので「心配しなくてもいい」由説明する。ただし、これをきっかけに尿蛋白が増加し始めることもあるため経過観察は必要である。また数カ月毎の経過観察のみでよい学生の場合、学校を休まずに済むように長期休暇毎に受診させる配慮も必要である。
急性腎不全、急速進行性腎炎、ネフローゼ症候群を除く大部分の腎疾患は他疾患に比べ進行が緩徐である。急速進行性腎炎の定義にしても「数週間から数カ月で腎不全に陥る可能性のある疾患群」であり、「急速」な進行でも診断確定まで最低数週間の猶予があるということでもある。したがって紹介、精査前で本人が不安に感じている場合には、上記のような一般的な腎疾患自然史の性質を簡単に説明の上、「ほかの病気に比べて比較的時間に余裕があるので今からそう心配することはない」と説明しておくとよい。
さらに、検尿異常があることと腎機能が低下していることは別のものとして考えるようわかりやすく説明することも肝要である。たとえば、微小変化群ネフローゼのように大量の蛋白尿が出現する疾患でも末期腎不全に陥ることはまずないし、また腎機能が進行性に低下する急速進行性腎炎では蛋白尿血尿自体は軽度のことが多い。尿異常があってもその時点での腎機能が保たれていれば決して悲観することはない。したがって尿異常があることと腎機能が落ちていることを一緒にして、患者本人が「腎臓が悪い」と思いこむことがないようサポートすべきである。
血尿単独、微量蛋白尿のみ、沈渣異常なしといった軽微な異常の場合でも「問題ない」とは説明しないことも逆に大切である。この時期は通常無症状であるため「問題ない」とだけ説明すると以後受診されなくなり、数年後蛋白尿が大量に出始めてからようやく再受診ということにもなりかねない。病初期に受診したことが無駄になってしまうわけである。「今のところは無治療でも問題はないと思われるが、変化は尿検査でしか捕らえられない場合もあるので年1回(または2〜4回)検診を受ける感じで気軽に受診するよう」丁寧に説明し、たとえ尿所見の悪化がみられても確実に把握できるようにしておくことが望ましい。特に会社等での定期検診の習慣にない患者さんの場合には強調して説明しておく。
文献
1)腎疾患患者の生活指導に関する小委員会、腎疾患患者の食事指導に関する小委員会合同委員会編:腎疾患患者の生活指導、食事指導に関するガイドライン.日腎会誌,39:1-37,1997